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流通額42倍。成長しても「コンセプトは絶対変えない」 秋元社長に聞く「食べチョク」の行方

流通額42倍。成長しても「コンセプトは絶対変えない」 秋元社長に聞く「食べチョク」の行方

コロナ禍での巣ごもり消費増加に伴い、インターネットで食材を買う人が激増した2020年。こだわりの作物を生産者から購入できる産直EC「食べチョク」を運営するビビッドガーデンの秋元里奈(あきもと・りな)社長にとって、新たなスタンダードに対峙し続けた一年だった。一過性のトレンドに留まることなく、「適正価格」を理解するいわゆる良質な消費者を増やすための工夫や、急成長した「食べチョク」の行方について聞いた。

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取引総額は42倍に。激動の2020年

――2020年は秋元さんやビビッドガーデンにとってどんな一年でしたか?
激動でした。新型コロナウイルス流行から問い合わせが非常に増え、多い月には生産者さんから新規の出品登録申請が500件ありました。「コロナ禍で在庫が大量に余ってしまっている」といった生産者さんからのSOSも多くて、応えていたら1年が終わっていたという感じでした。

食べチョクの2020年インフォグラフィックス

テレビCMの反響もあり、2020年の流通総額は前年に比べて42倍に伸びました。緊急事態宣言が明けてからもサイトの訪問者数はコンスタントに増え続け、毎月100万人以上と生産者さんに特化した産直ECの中では最多になりました。そもそも産直EC市場は小さいので、これの数十倍の数字を追わないと、皆さんの「当たり前」として定着させられないのでまだまだではあります。が、食へのこだわりが強い方以外にも、「生産者さんから直接買う」という選択肢を広く知ってもらえたのはとてもポジティブなことだったと思います。

秋元里奈さんプロフィール

1991年、神奈川県相模原市生まれ。慶大理工学部で金融工学を学び、新卒でDeNA(ディー・エヌ・エー)に入社。2016年に農業ベンチャー「ビビッドガーデン」を創業。社名には「色鮮やかな農地を日本中に取り戻したい」との思いを込めた。翌年より産直EC『食べチョク』を運営。TBS「Nスタ」レギュラーコメンテーターを務めるなどメディアに多数出演。

新規顧客を定着させる「体験価値」

食卓での会話
――SOS消費や送料割引キャンペーンなどで獲得した利用者を、企業理念にもある「適正価格」を理解する買い手として定着させるために、どのような打ち手を取っていますか?
やはり始めは応援の意味合いで購入する人は多いのですが、次も買ってもらうには、他にもおいしい食材がネットでたくさん売っている中で「なぜその商品を買うのか」という理由付けが必要です。産直ECでは、「おいしそう」以外の体験価値が重要だと考えています。

リピート購入して下さった方から、「食卓での会話が増えた」というフィードバックが多く寄せられました。例えば、食材と一緒に生産者さんからお手紙が入っていると、料理と一緒に「この生産者さんって実はこういう所にこだわっていてね」と披露すると、会話が弾むんだそうです。こういう話を聞くと、「おいしい」以上の体験価値を感じてくれて、また買ってくださっているんだなと思います。こういうことは、体験しないと分からないものですよね。

なので、「体温を伝える工夫」をされている生産者さんは人気が高いです。例えば、ダンボールに「ありがとう」と一言手書きするとか。たった5文字でも全然違います。普通のECとは違う体験ができるし、消費者の共感を呼びやすい。手間にはなってしまうのですが、おすすめの食べ方を印刷して入れるのでもいいです。消費者が知らない情報を分かりやすく書くなど、可能な範囲で「伝える工夫」をされている方は強いですね。
食べチョク内の売り場は生産者さん自身に作ってもらうのですが、魅力的な見せ方については「食べチョク学校」というオンラインの場でノウハウを共有しています。質問にお答えしたり、マニュアルのようなものをお渡ししたりして、サポートしています。

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KPIは「生産者一人の売り上げ」

生産者一人当たり最高売り上げは、水産物1479万円、 野菜705万円、 果物829万円、 畜産物972万円に達した。

――2020年、生産者一人当たりの売り上げ最高額が、月間1479万円に達しました。この「生産者一人当たりの売り上げ」を当初からKPIに掲げられていますが、向上のための戦略とは?
登録生産者は3700軒、(購入可能な)公開中の商品数は1万9000件になりました(2021年2月16日現在)。出品者数が増えた分売り上げが減ってしまった、ということにならないよう、全体流通量を生産者の増加に追い付かせるために、みんなでヒーヒーと言いながら頑張っているところです。

戦略的なSNSマーケ ――Clubhouseもいち早く活用

SNSやテレビを使ったマーケティングを戦略的に行い、様々な手段を使ってできるだけ多くの方に知ってもらおうとしています。最近は「Clubhouse(クラブハウス)」を使い、トークルーム「#食べチョクハウス」を開いて生産者さんと毎日会話しています。食べチョクの登録農家さんはもちろん、それ以外の生産者さんにも登壇していただき、多いときには500人近くの方に私との雑談をリアルタイムで聞いていただいています。

会話の内容は「どんな作物を作っていますか」「どうして就農したのですか」「最近困っていることは?」など、コロナ流行以前に全国の普段農家さんをまわってお伺いしていたようなことです。毎回「この生産者さんはすごい!」と新鮮な驚きがあるお話が聞けるので、消費者の皆さんにも側で聞いて頂き、リアルタイムで同じ気持ちを共有したいです。


#食べチョクハウスで話題に上がったものは早速 試したり、広く発信したりしている。

ビデオチャットを使ったイベントには事前準備が必要ですが、Clubhouseなら「ちょっと話しませんか」と気軽に始められるし、即興性もあってTwitterとはまた違う距離の近さが良いと思っています。#食べチョクハウスをメインにしようと決めているのですが3回以上喋る日もあり、「Clubhouse芸人」みたいになってしまうときもあります。いまフォロワーの方は(スマホの画面を見て)……わっすごい、5万人以上いらっしゃいます。

※「#食べチョクハウス」は、iOSデバイス経由で誰でも聞くことができます。(2021年2月17日現在)。気になる方は、Clubhouseにアカウント登録後、秋元社長のアカウント(@akirina)をフォローして下さい。

UI/UXの改善

私達の価値はプロダクト作りにあると思っているので、引き続き優秀なエンジニアを採用しながら良いプロダクトが出せる状態にしていきます。
直近では、複数の商品をまとめて注文できる「カート機能」のβ版をリリースしました。一部の商品は複数個購入すると送料をまとめることができるもので、開発・検証に半年以上掛かりました。「産直ECはネットスーパーに比べて使いづらい」というイメージを変えて頂けるように、今後もアップデートしていきます。

カスタマーサポート体制の強化

去年は流通額の伸びに伴い、お問い合わせも増えたため体制を強化しました。(生産者が直接対応するのではなく)消費者からのお問い合わせ対応に食べチョクが入るというのが、他の産直ECとの大きな違いです。
食品に関わることなので、急ぎの相談が多いです。たとえば「食べ物が傷んでいた」というのはセンシティブな話ですし、相談者は傷付いているはずなのでいち早く応えたい。生産者さん全員に同じクオリティで出品してもらうのは物理的に難しいので、(品質向上のために)介在するのがプラットフォームの役目だと思います。

――今後はどのような人材を強化していく予定ですか?
社員数は20名、アルバイトを入れると40名と、まだまだ規模の小さい会社です。今のフェーズでは引き続き、一緒に会社を作っていける人を集めています。
採用で重要視しているのは、「生産者さんのこだわりが正当に評価される世界をつくる」という同じ目標を目指せること。私の役目は、メンバーが同じ方角を向くための環境や事業構造を提供すること。1人でも内向きになってしまうと、全員のベクトルがそっちに向いてしまうので、意識するようにしています。そういう環境を提供した時に、一生に成長しながら全速力で走れる人かどうかを大切にしています。

コンセプトを貫くために。「やらないこと」を意識

――大量流通に最適化されている既存流通に比べて、食べチョクは少量のこだわりの品に価値を付けて売る仕組みです。利用者が増えている局面で、どのようにコンセプトを維持していきますか。

規模が大きくなっても、食べチョクが今と同じ価値を生産者さんに提供できる状態にすることは強く意識しています。利用者が激増して事業規模を早く大きくしたいと考えると、ついつい「大規模な生産者さんを中心に増やそう」「大きい業者さんと組もう」など効率化の思考に走ってしまいがちですが、食べチョクの強みは「中小規模の生産者」に特化した仕組みであることです。目先の数字を意識して効率性だけを求めてしまうと、食べチョクの良さが失われてしまう危険があります。ひと度「何でもあり」にしてしまうと、二度と元には戻れなくなってしまう。ですのでどんなに規模が大きくなっても初期のコンセプトからズレないように、「やらないこと」は強く意識していますね。

――今年、力を入れていきたい領域とは?
物流面のテコ入れもしていきます。昨年連携したヤマト運輸さんとはもちろん、ほかの事業者さんとも連携をしていく予定です。私達にとって一番大切なのは、「生産者さんが出品しやすいかどうか」。直販の手間を削減する目的の連携を増やしていきます。

また最近、販売以外でご相談を頂くことがとても増えています。資材調達の動向把握や収穫期や災害時の人手募集など、経営に関連することです。


2020年の台風9・10号の発生時は、災害対策室を開設。サポートを必要とする生産者の商品を特集ページに掲載したほか、Twitterで被害の最新情報を随時発信した。

事業としてどこまでやるかはまだこれからですが、プラットフォームとしてサポートできる体制を作っていきたいです。

――始まったばかりの2021年、どんな年にしたいですか?
「トレンドから当たり前に」が今年の標語です。昨年はみんなで大きな波を作れたと思うので、食べチョクを定着させて皆さんの日常にしたいですし、無理なく使ってもらえる状態にしたいです。

現在の登録生産者さんは40~50代が多いですが、日本の農業者の平均年齢は67歳。「ご近所出品」のような高齢農家さんやネットに苦手意識がある方でも出品できるシステムを充実していくことが一番の目標です。

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「売り場を作ったから、頑張って売ってください」ではなく、様々な方に寄り添いながら「誰も置いてかない仕組みづくり」に一番力を入れていきたいですね。(談)

***
後編では、2月18日発売の著書について秋元社長に聞きます。

後編はこちら
「夢中」は努力に勝る 「食べチョク」秋元社長が初の著書で伝えたかったこと
「夢中」は努力に勝る 「食べチョク」秋元社長が初の著書で伝えたかったこと
もはや「農業界の顔」と言えるかもしれない。ビビッドガーデンの秋元里奈(あきもと・りな)社長は、急成長中の産直ECサービス「食べチョク」のロゴTシャツ姿で、毎日のようにメディアに登場する。「サービスが定着するまで毎日着る」と…

(グラフィック制作:マイナビ農業・四方田)

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