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「夢中」は努力に勝る 「食べチョク」秋元社長が初の著書で伝えたかったこと

「夢中」は努力に勝る 「食べチョク」秋元社長が初の著書で伝えたかったこと

もはや「農業界の顔」と言えるかもしれない。ビビッドガーデンの秋元里奈(あきもと・りな)社長は、急成長中の産直ECサービス「食べチョク」のロゴTシャツ姿で、毎日のようにメディアに登場する。「サービスが定着するまで毎日着る」との宣言どおり、365日間袖を通すTシャツはもはやトレードマークだ。2月18日に発売する初の著書『365日 #Tシャツ起業家 「食べチョク」で食を豊かにする農家の娘』(KADOKAWA)で、伝えたいことを聞いた。

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■秋元里奈さんプロフィール

1991年、神奈川県相模原市生まれ。実家は農家だったが廃業。慶大理工学部で金融工学を学び、新卒でDeNAに入社。「農家のこだわりが正当に評価される世界をつくる」ことを理念に掲げ、2016年に農業ベンチャー「ビビッドガーデン」を創業。翌年より産直EC『食べチョク』を運営。TBS「Nスタ」レギュラーコメンテーターを務めるなどメディアに多数出演。

かつて、全国の生産者を夜行バスで訪ねては困りごとを聞きまわり、今はオンラインで毎日農家と会話。一軒家のオフィスに住み込み、昼夜もなくスタッフたちと顔を突き合わせてサービスの改善に情熱を傾ける。テレビ番組で発表した2019年当時の自身の年収は企業勤めの新人並みの数字だった。

新型コロナウイルスが流行すると、いち早く在庫余りにあえぐ生産者に販路を提供し、彼らを代弁してSOSメッセージを発信し続けた。年が明けても止めることはなく、ときには「いつまで続けるのか」と批判されることもあるという。だが、「SOSがなくなるまでやり続ける」と意志は固い。

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突き動かすのは富でも名誉でもなく、「生産者が正当に評価される世界をつくりたい」という純粋な思いだ。いつからか秋元さんをお見かけすると、ジャンヌ・ダルクを連想するようになった。自身が広告塔となりながら前線で身を削って戦い、多くの人を巻き込んでいくカリスマ性が史上の偉人に重なった。

それだけに、初の著書『365日 #Tシャツ起業家 「食べチョク」で食を豊かにする農家の娘』の書き出しにはしっくりとくるものがあった。

「生産者のこだわりが正当に評価される世界をつくる」を合言葉に躍進する”女戦士”に、活字に込めた思いを聞いた。

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「夢中」は努力に勝る

――25歳で起業、「20代は捨てる」と宣言して走り続け、今年1月には30歳の誕生日を迎えられました。このタイミングで半生を振り返る本を出された理由とは。
食べチョクの思想や自分の思いを多くの人に知って欲しく、伝えるには本が適した媒体だと思ったので、出版のお誘いをお受けしました。起業して5年目、ちょうど30歳という節目なので、たまに読み返して初心に帰るためのツールにしたかったという個人的な動機もあります。

――どんな人に何を伝えたいと思いながら書きましたか。
タイトルに「農家の娘」と入れましたが、業界を超えて食に興味を持つあらゆる人に、一つの物語として読んでもらいたいです。メディアに出演する起業家というと、少し遠い存在に感じられると思いますが、私自身は元々とても安定志向で起業家のイメージから遠い人間でした。なので「やりたいことがあるなら、向き不向きに関係なくやった方がいい」ということも伝えられたらと思います。

安定志向だったという素顔は、本書でも詳細に描かれている。母の里子(さとこ)さんから勧められ、安定しているという理由で金融業界を志望していた。さらに「病弱」「成績はほぼビリ」「上がり症」「男性不信」「やりたいことが見つからなかった」など、現在の姿からは想像しがたい過去が明かされる。

秋元さんは極度の負けず嫌いだった。弱点を認知し、徹底的な反復トレーニングを行うことで克服し、得意領域に変えていく。中学でバスケットボール部に入って‟肉体改造“を遂げたエピソードや、学園祭の実行委員のリーダーとして、女友達に「会話の特訓」に付き合ってもらい、めでたく異性と自然に話せるようになったという件は、想像すると愛らしい。

古い体質の業界において、粘り強く、そして瞬発力をもって企業理念を実現していく本人の原点を垣間見た。どうやって起業に至ったのかが、飾らない言葉で描かれているので、中高生世代の職業選択のヒントにもしてもらいたい。

――秋元さんがすごいのは「早い」「続ける」「徹底的にやる」ところ。半生にも一貫して見えるものですが、それを支えているのは何でしょうか?
本の中でも出てくるワードに「夢中力」があります。好きな言葉に、「努力する人は、夢中な人に勝てない」というのがあります。「早くやらなきゃ」とか「頑張って続けなきゃ」という義務感からではなく、とにかく「事業を伸ばす=生産者さんに貢献する」ことに夢中だからこそ、早く動けるし、続けられています。頑張ろうと思う前にすでに「頑張っちゃっている」。息を吐くように事業のことを考えて動き続けられるので、ストレスなく楽しんでやっています。

――「早い」「続ける」「徹底的」でいうと、生産者からのSOS要請の拡散。「批判されても続ける」とTwitterで宣言されていましたが、これからはどうやって取り組まれていきますか?
まだまだSOSは届いているので、なくなるまでやり続けようと思っています。ただ、同じメッセージを言い続けても、時間が経てば消費者さんの反応は薄くなっていきます。もう少し本質的な部分――売り上げに繋がるような仕組みもセットで提供していかないと、プラットフォームとしてだめだと思っています。

「巣ごもり応援プログラム」として送料の値引きをしたり、味噌やわら納豆作り体験セット、料理教室などのオンラインイベント付きの限定商品を販売したりと、おうち時間を充実させる切り口で生産者さんと商品を企画しています。

生産者が講師になり、参加者と一緒に味噌作りをするオンラインイベントの様子

なりたい自分に「チューニング」

秋元さんは、メディアやSNSを使った発信が上手い。話題作りの手法には一貫したものがある。本書の中で信条として触れられているが、『誰も傷付けない』ことだ。秋元さんの発言には、クリーンなイメージと親しみやすさが常に同居している。その実直さゆえ、プラットフォーマーやリーダーとして信頼を置かれている様子は、本書後半に寄せられた生産者や社員からのメッセージからも垣間見える。

――秋元さんは呼吸をするように「他者が喜ぶこと」「傷付くこと」を察知して行動される印象です。そういうニーズを把握する力、他者の立場で考えられるところが人望や事業につながっていると思うのですが、核にあるものは何でしょうか。
生まれつきの性格によるところが大きいと思います。幼少期からずっと対人感受性が高く、ネガティブに言うと、「人の目が気になって批判を恐れる」という側面も持っています。
何かを発信するときも「あの人が傷つくだろうから、こう書こう」とか、なるべく自分の意識を広く持つようにします。何も考えずに、それこそ息を吐くようにできることです。

ただ、それって経営者としてどうなの?と悩んでいた時期もありました。
私がイメージするカリスマ経営者って、ホリエモンさんのような強気の発言ができる人。自分はそこに苦手意識があるんですよ。でも、人には良いところも悪いところもある。大切なのは自分の性格を把握して、「なりたい自分にチューニングしていく」ことだと思います。

私の対人感受性が高いところは、発信面や、仲間を増やすこと、信頼してもらうことには今のところポジティブに働いています。一方で意識しないとできないのは、リスクを取りに行くこと。社長の仕事とは、会社の可能性の幅を広げることです。現在の事業の延長だけではなくて、“飛ばしながら”将来設計をすることは、得意なこととは分けて向き合っています。

前編(流通額42倍。急成長しても「コンセプトは絶対変えない」 秋元社長に聞く「食べチョク」の行方)で振り返ったように、昨年はニーズに応え続けた結果、流通総額42倍という飛躍的な成長を遂げた。さらに「飛ばして」いくビビッドガーデンにとって、激動の2020年は序章に過ぎないのかもしれない。

リスクを恐れないチャレンジを、後押したい

――最後に「マイナビ農業」の読者へメッセージを頂けますか。
今、一次産業は変革期にあります。辛いことも多く、大変な状況の方もたくさんいらっしゃると思います。だからこそ「今までの当たり前」を崩し、常識を一旦捨てて、時代に合わせた考え方をしてみて欲しい。リスクを取ってでも挑戦して欲しいと思います。「販売先を多様化する」というチャレンジをする方がいれば、後押しする存在でいたいと思います。

こういう時だからこそ、遠方の人ともオンラインで繋がりやすくなっています。(新興SNSの)Clubhouse(クラブハウス)も、コロナだからこそ流行したのだと思います。どうしても辛いところに目が行きがちですし、辛いことは辛いのですが、その中で光が当たった部分もある。ポジティブに転換したことを、うまく活用しながら進んでいくのが大事だと思います。


365日 #Tシャツ起業家 「食べチョク」で食を豊かにする農家の娘(KADOKAWA)
秋元里奈 著 1300円+税

【素顔】Twitterは「体の一部」

――食べチョクTシャツを着る以外に、秋元さんが365日やっていることは?
SNSは本当に毎日やってますね。Twitterにはもう住んでるっていうか、もはや体の一部です。一時期、SNSを控えていたのですが死ぬかと思いました。

住居兼会社にて、オートロックで締め出され農業新聞で暖をとり事無きを得た、というお茶目なエピソードは農家たちから反響があったという。

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