少量多品目農家の土づくりは意味がある? 「土づくりをしない」という選択

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少量多品目農家の土づくりは意味がある? 「土づくりをしない」という選択

少量多品目農家の土づくりは意味がある? 「土づくりをしない」という選択
最終更新日:2021年02月18日

農業を始めて一度の営業もせずに、現在は栽培した野菜の95%をレストランへ直接販売しているタケイファーム代表、武井敏信(たけい・としのぶ)です。このシリーズでは売り上げを伸ばすためのちょっとした工夫をお伝えします。

「そもそも土づくりって意味あるの?」野菜を栽培する上でいつも浮上してくるテーマではないでしょうか。実は、私が農業を始めて20年間ほぼ追求してこなかったことが「土づくり」です。今回は武井の土に対する考え方と効率・売り上げとのバランス、そして「土づくり」よりも大切なことをお話しします。

よい土とは何?

「武井さんは土づくりをどうやっているのですか?」
タケイファームに視察に来る農家たちが、私によく聞く質問の一つです。「土づくり」を重要視する農家が多いことの表れだと思うのですが、結論から言うと、「特になにもしていません」というのが私の答えです。

良い土の条件は「通気性、保水性に優れていて水はけがよいこと」と言われています。土に適度な湿り気を与え握ってみたとき、「良い土」なら一度固まったあと、それを軽く指で押すとくずれます。「砂質」の場合は握っても固まらず、「粘土質」の場合は固まったままくずれません。理屈ではわかるのですが、実際にそのような良い土の環境で野菜を育てている人はどのくらいいるのでしょうか。

過去に私が訪問してきた篤農家の畑は数知れず。その畑の土は粘土質の土もあれば、砂質の土もありました。しかし皆、土は違っていても見事な野菜を作っているのです。
そもそも地球上の地面というフィールドで仕事をしていますので、そんな大きなものを作り替えることができるのかという疑問がありました。イチゴの高設栽培のような環境であれば、人工的な培養土を使い、限られたスペースのため、ある程度コントロールは可能だと思います。しかし、私のように露地栽培で野菜を作る場合、理想的な良い土を作ることなど夢物語のようにも思えてしまいます。
学校などで一から野菜の作り方を学ぶ機会があれば、土づくりという考えもあったのかもしれませんが、独学で始めた農業でしたので、そこには全く興味がなかったのです。今言えることは、土づくりを気にせずとも星付きレストランが使ってくれるレベルの野菜は作ることができるということです。

イチゴ高設栽培

イチゴの高設栽培

タケイファームの土はなぜふかふかなのか

候補地は見つかったが……

タケイファームには、就農当初から使っている「第1ファーム」と、少し離れた場所にある「第2ファーム」があります。
10年ほど前、アーティチョークの栽培を本格的に始めようと、少し広めの畑を探していました。家から通えそうなエリアの自治体に声をかけたところ、千葉県柏市の農政課から連絡が来ました。紹介された畑は広さ1.4ヘクタールで井戸付きの物件。詳細を聞いてみると、地主さんが柏市に20年間野球のグラウンドとして貸していて、契約が切れたら畑に戻すという条件だったそうです。すでに柏市の生産者7軒でこの場所で野菜作りを始めたのですが、結局野菜ができずにあきらめたとのこと。農政課の担当者に「こんな畑ですがどうですか?」と言われました。
プロの農家が野菜を作れなかった土地と聞いて、普通は「自分も無理だろう」と思うのでしょうが、私は違いました。「アンデスの荒れ地でもジャガイモは育つのだから、ジャガイモなら作れるかも」という安易な考えもありましたし、市街地近くで1カ所にまとまってこの広さがある畑は他にないこともあり、借りることにしました。タケイファームの第2ファームのスタートです。

せっかくの畑が高さ2メートルの草畑に……

畑を借りた頃、ドタバタと仕事が忙しく、しばらく第2ファームを放置していたら、1.4ヘクタールの畑が一面高さ2メートルの草畑に変わっていました。亡くなった祖母が口癖のように言っていたことを思い出しました。
「1本の草を放っておいたら10年苦労する」

雑草を畑にすき込んだ結果

通常の農作業の合間を見ながら、友人からハンマーナイフモア(草刈り機)を借りて草を粉砕し、トラクターで畑にすき込むことにしました。草畑が畑らしくなるまでに要した時間は約1年。1.4ヘクタールの面積に生えていた高さ2メートルの雑草は土の中にすき込まれ、ジャガイモが作れる畑になりました。

ジャガイモ畑

ジャガイモが順調に育つ畑に

結果、水はけが良くなってしまった元グラウンドの畑。思わぬ効果のおかげで、水はけが良い土壌を必要とするアーティチョークの栽培には最高の畑となりました。もしかすると、あの雑草がなければ、タケイファームの代名詞となったアーティチョークは生まれなかったかもしれません。

アーティチョーク畑

タケイファームの代名詞アーティチョーク畑

以来、毎年の梅雨明けに雑草をトラクターで畑にすき込んで、このふかふかな畑を維持しています。

草刈り機

昨年は梅雨が長く、作業の遅れで草が成長し、乗用の草刈り機を導入するはめに

上before下after

草刈り機、上before、下after

西洋野菜を作るのに必要な土とは

数年前、フランスの農家を訪問した際、驚いたのが畑の土質でした。粘土質で私の畑とは大違い。しかしそこで、見事なアーティチョークが作られていたのです。

フランスの土

フランスの土

タケイファームでは、アーティチョークをはじめ、さまざまな西洋野菜を栽培してきました。西洋野菜を作るために、ヨーロッパの土に近づけたほうがよいと思っていた時期もありましたが、そうとも限らないことがわかりました。西洋野菜といえども、意外と日本の土で栽培することは可能だと、農業を20年続けてきて実感しています。

よく考えてみると、日本原産の野菜と言われているものは数えるほどしかありません。ダイコン、ニンジン、ナス、トマト、キャベツ、ハクサイ、これらの普通にスーパーで販売されている野菜は外来種です。それでも日本でおいしいものが作れているのですから、土質が野菜のおいしさに与える影響はそれほどないのかもしれません。

フランスのアーティチョーク畑

フランスのアーティチョーク畑

少量多品目農家にとっての土づくり

少量多品目農家の場合、一つの畑で多くの品目を育てることになるため、それぞれの作物に合わせた土づくりをするには膨大な時間と手間、そして資材費がかかります。なにより、連作を避けるために同じ畑の中でも栽培する場所を変える必要がありますし、ただでさえやることが多い少量多品目農家が土づくりに注力することで、どれだけ利益が上がるでしょうか。利益率や時間当たりの報酬も考えて、効率良く仕事をすることが重要で、やらなくても対応できるものはやらないという判断も大切です。
私の場合は「土づくりはそれほど品質に影響を与えない」という考えから、土づくりをしないと決めました。

単一品目の大量出荷の場合、土づくりは意味がある

私は、栽培した作物の60パーセントを出荷できればよしと考えていて、出来の悪いものは出荷しません。それを織り込み済みで農業をしています。
しかし、単一品種を大量に栽培し市場出荷するような営農スタイルであれば、その作物に合わせた土づくりをするのが効率が良いと思います。その方が野菜の形や品質もそろいやすく、栽培した野菜のほとんどを出荷することができます。このような場合は土づくりという考え方は正しいのかもしれません。

土づくりよりも大事なのは「輪作」と「日当たり」

少量多品目農家であれば、年に数十種類の作物を栽培していると思います。季節によって品種は変わっても同じ品目を栽培しているのではないでしょうか。皆さんが注意している連作障害。これを避けるためには計画的な輪作が必要です。
そして、日当たり。特に冬の日陰は霜が解けづらく、生育や作業にも大きな影響を与えます。
これらは、資材費も要らず、手間も最小限で済みます。
少量多品目農家は土づくりよりも「輪作」と「日当たり」に注意をはらうべきなのです。

おまけの虎の巻

土づくりのストレスから解放されるのも一つのメリット

関東、関西でも土質は違いますし、同じ関東である私が住む千葉県と隣の埼玉県でさえ土質は違います。それでも、近所のスーパーでは、立派な千葉県産のホウレンソウや立派な埼玉県産のホウレンソウが販売されています。農業を行う上で、基本は大切ですが、基本の中にはやらなくても大丈夫なこともあります。土づくりという考え方をなくすとストレスが一つ消えます。

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