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消費が減るミカンを増産できる理由 品種、仕立て方、園地…産地が挑む改革

窪田 新之助

ライター:

消費が減るミカンを増産できる理由 品種、仕立て方、園地…産地が挑む改革

JAみっかび(静岡県浜松市)にとって、柑橘(かんきつ)経営の理想ともいえる園地がある。後藤健太郎(ごとう・けんたろう)さん(37)が2020年からミカンを作り始めた1.2ヘクタールの造成地だ。その取材を手始めに「三ヶ日みかん」の産地の展望について探ってみたい。

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移動する時間は何も生まない

後藤さん

ミカン園9.5ヘクタールを経営する後藤さん

後藤さんの経営耕地面積は9.5ヘクタール。このうち1.2ヘクタールは新たに山を切り開いて造成した分である。「この園地はこれからのミカン経営の理想ですね」。後藤さんがこう主張する最大の理由は、言うまでもなくその規模と集積にある。

同JA管内を見渡しても、これだけまとまった園地は少ない。「園地の間を移動する時間は何も生まないじゃないですか。そうした無駄な時間をできるだけ減らすことが、今後大事になってくると考えています」(後藤さん)

同様の理由から、この園地では傘のような樹形「開心自然形」にして樹高は低く仕立てる。脚立を使う作業をできるだけ減らすためだ。樹形が横に広がる分、園内道の幅(木の根元同士の間隔)は6メートルと広く取っている。

園内道

園内道を6メートルにした後藤さんの園地。奥行きは80メートル。園地を挟む片側の道は舗装しているものの、反対側は未舗装である。いずれはそこも舗装し、両側ともコンテナを2トン車に載せて運び出せるようにするつもりだ

労働力の確保への不安

いずれの工夫も将来的に労働力が不足することへの懸念に端を発している。現在雇用する人数は農繁期で最大30人。「これだけの人数にいつまで来てもらえるか、正直不安ですね」と後藤さんは言う。

労働力を確保できないからといって、簡単に規模を縮小するわけにもいかない。そこには産地とともに歩んできた農家としての自負がある。
「『三ヶ日みかん』にとって強みはまとまった量、生命線は品質。それを維持しなければ市場は相手にしてくれませんし、次の世代にいい形でバトンタッチできないですから」(後藤さん)

ミカン農家の6割が後継者の「見込みなし」

JAみっかびも物量の確保を第一の課題に掲げる。「年平均3万トン前後といういまの生産量は、何が何でもミカンを産業とする産地として維持しなければならない」と、営農柑橘部部長の久米孝征(くめ・たかゆき)さんは話す。
ただ、現状の見通しは決して明るくない。同JAは定期的に管内の農家を対象に後継者の有無について実態調査をしている。最新の2019年では「見込みなし」が60.7%に達したのだ。
調査の結果通りなら、ミカンの作り手はこれから急速に減っていく。生産量を維持するには、残る農家に増産してもらうよりほかない。そのために同JAが2019年度に改定した「柑橘振興方針」では「経営基盤の強化」に注力することにした。

目玉の一つは国の補助金を活用した大規模な基盤整備事業。JAみっかびでは農家が個々に重機を購入して、自力で傾斜をならしたり園内道を整備したりしてきた。その結果、スピードスプレーヤー(薬剤噴霧器)が走れるとされる園地は「5割ほど」(同JA)にもなるという。

基盤整備事業

木が生えていない場所は基盤整備事業の対象

一方、今回の事業で対象にするのは農家が自力ではできない大規模な基盤整備だ。同時に農地中間管理事業を活用して農地の集積と売買をあっせんする。
そうして農家が規模を拡大した時に懸念されるのは労働力の確保だ。同JA営農支援課課長の伊藤篤(いとう・あつし)さんは「ミカンは5ヘクタールまでなら、収穫以外の作業なら親子2世帯の家族でこなせます。ただ、5ヘクタールを超えると、他の作業でも雇用が必要になってきますね」と語る。人手を確保するのが難しくなる中、どうするのか。

品種構成と木の仕立て方を見直す

同JAがまず見直すのは品種の構成。管内では現状、ミカンの栽培面積のうち晩生(おくて)品種「青島」の割合が多数を占める。このため、たとえば収穫は12月に集中する。そこで大規模経営体を中心に、極早生(ごくわせ)や早生(わせ)の品種を導入することで、作業の分散を図る。

同時に木の仕立て方を変えて、脚立を使わずに作業ができるよう樹高を1.5メートル程度と低くすることも検証する。伊藤さんは「現状の1人1日当たりの収穫量は400キロ。これを500キロといわず、1トンに持っていきたい。そうなればいまの半分以下の労働力で済む」と期待する。

生産量は微減でも販売金額の増加へ

三ヶ日みかんの機能性表示

2つの機能性の表示が認められた「三ヶ日みかん」

同JAは生産量を維持する一方で、販売金額はむしろ増やすことを目指している。
「三ヶ日みかん」は消費者庁の機能性表示食品制度で、2015年に「β‐クリプトキサンチン」を、2020年に「GABA(ギャバ)」を含有する食品として受理された。「生鮮食品として2つの機能性を表記するのは初めて」(同JA)。このように付加価値を高めながら、販売体制の強化を図ることで販売金額の増加を実現する。

これまで「三ヶ日みかん」というブランドを支えてきたのは、他産地に比して強固といえる経営基盤だった。
生産面に限っていえば、なだらかな傾斜という地の利に加え、後藤さんの父である善一(よしかず)さんが手掛けた機械化や基盤整備であることは前回伝えた通りだ。

かつて筆者が取材した際、善一さんは当時を振り返ってこう語った。「自分の経営も産地も良い方向に変えていきたい、それが自分の行動原理のすべてといっていいかもしれない。今のままではなく、もっといい方法がきっとあるって」。こうした思いを産地でどれだけ共有できるかが「三ヶ日みかん」のこれからに影響してくると感じる。

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