‟厄介者”制御の正念場は「種まき前」? 有機農家に学ぶ「雑草管理の哲学」

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‟厄介者”制御の正念場は「種まき前」? 有機農家に学ぶ「雑草管理の哲学」

熊谷 拓也

ライター:

‟厄介者”制御の正念場は「種まき前」? 有機農家に学ぶ「雑草管理の哲学」
最終更新日:2021年02月25日

農薬も化学肥料も使わない有機農家にとって、雑草をいかに上手に管理できるかは、作物の出来・不出来に関わる重要な問題です。1996年の就農当初から一貫して有機農業に取り組む草間舎(くさましゃ)の園主・瀧沢郁雄(たきざわ・いくお)さん(49)の畑は、いつもきれいな状態を保っています。もちろん、除草剤に頼ることは一切ありません。数ある作物の中でも、種まき後の管理が難しいとされるニンジンを例として、日々どんなことに注意を払い、どうやって対処しているかを聞きました。果たして、有機農家の「雑草管理の哲学」とは?

抜かりない畑の管理、その裏にあるのは

中央アルプスの壮大な景観が美しい長野県伊那市西箕輪。瀧沢さんが夫婦で営む草間舎の圃場(ほじょう)は山際の農業地帯にあります。

草間舎の営農スタイルは、年間40~50種類の野菜を作る「少量多品目栽培」です。水稲30アールを含む計180アールを、基本は一人で管理しています。

育てた野菜やコメは、季節の野菜を入れた「旬の野菜セット」として、個人や飲食店の元に届けます。野菜の梱包は妻の森絵(もりえ)さんの役目で、配達するのは郁雄さんの仕事。セットの中には、原料の大豆から作った自家製みそや、飼育する鶏が産んだ卵を入れることもあります。

野菜の安全性だけでなく、おいしい、美しいも兼ね備えた品質の高さが草間舎のアピールポイントです。しかし、美しいのは野菜だけではありません。「畑がきれい」なんです。もちろん、雑草がまったく生えていないわけではありません。けれど、畑の隅々まで管理が行き届いていて、除草剤なしでどうやってこれほどきれいな畑を保っているのか、疑問に思うくらいです。

その裏には、瀧沢さんの雑草に対する深い考え、いわば「雑草管理の哲学」があります。

播種(はしゅ)後は要注意、秋作のニンジン

草間舎の瀧沢郁雄さん

草間舎の瀧沢郁雄さん

ニンジンの栽培管理を例にとって説明してもらいました。

ちなみに、瀧沢さんが作るニンジンは、野菜にこだわるレストランから注文が入るほど人気があります。「有機だから」ではなく、「おいしいから」選ばれた自信作です。瀧沢さんの作る野菜全般にあてはまるそうですが、えぐみが少なく、後味がすっきりしているのが特徴。食べた後、「口に爽快な感じが残る」(瀧沢さん)と言います。

ニンジンは播種後の成長速度が遅いため、生育初期の管理に注意が必要な作物です。瀧沢さんの畑では、発芽してから1カ月で3センチほどしか伸びません。せいぜい本葉が2~3枚出る程度です。

6月下旬から回数を分けて種をまく「夏まき」の場合、ちょうど梅雨の時期に当たるため、雑草も勢いよく成長します。梅雨の長雨で土壌に水分がたくさんある状態で気温が急激に上昇すると、雑草が一気に伸び始め、雑草がニンジンの成長速度を上回れば、ニンジンの生育が妨げられます。うかうかしていると、作物が雑草に負けてしまい、手の付けられない状態になってしまいます。そのためある程度の大きさに育つまでは、雑草に競り負けないよう周囲の環境を整える必要があります。

畑で見られる、オヒシバやエノコログサといったイネ科の雑草は特に厄介です。というのも、これらイネ科の雑草は地面に張り付くように根を張るため、除草の際には近くのニンジンが抜けないよう、慎重さが求められます。除草に余計な時間を取られれば、作業全体の能率が落ちて、他の作物の収量に影響が出かねません。

エノコログサとオシヒバ

しかし、瀧沢さんの畑では、そうした厄介な雑草はあまり生えてきません。生えるのは主にスベリヒユ(スベリヒユ科)で、これは除草にさほど労力がかからないというのです。

この違いはどこから来るのでしょうか。

ニンジン畑のスベリヒユ

草間舎のニンジン畑。株間に生えているのがスベリヒユ(画像提供:草間舎)

雑草の管理は種をまく前から

実は、瀧沢さんの雑草管理は、種をまく以前に始まっています。

ニンジンの場合、前の年に同じ場所で大豆を栽培することで、管理するのが大変な雑草が生えない状況をあらかじめ作っているのです。取れた大豆はみその原料として活用します。

大豆は栽培の途中に、畝間の土を耕しながら除草を行います。「中耕除草」と呼ばれる方法です。これは機械を使って行えるので、比較的簡単に草一本ない状態を作り出せます。その際、土を耕すと同時に株の根元に土を飛ばしていきます。土に埋まった大豆の茎の部分からは新たに根が出て、そこから養分や水分を吸収するため、大豆の生育も促進されます。

草間舎では、管理機で3~4回、中耕除草をします。よく晴れた日の午前中に行い、地表に露出した雑草の根が乾いて枯れてしまうことを狙います。仮に根が地表に露出しなくても、飛ばした土で埋没させることができます。

これにより、フレッシュな雑草の種の供給元を絶ち、翌年のニンジン畑の管理が楽になります。瀧沢さんは「雑草の種をできるだけ落とさないことがひとつの技術」だと言います。

大豆の中耕除草

管理機で行う大豆の中耕除草(画像提供:草間舎)

草間舎式、ニンジンの除草術

次に、ニンジンの具体的な除草手順を追いましょう。

6月下旬に種をまいてから2週間後、手押しの中耕除草機で1回目の除草をします。

ニンジン畑と手押しの中耕除草機

ニンジン畑での1回目の除草の様子(画像提供:草間舎)

写真を見ると、この時点ですでに雑草が少ないことが分かります。「普通、この時点で雑草が生えているという認識はないでしょう」と瀧沢さん。全長50メートルほどの列が3つありますが、作業には30分もかからないと言います。

さらに、2週間後。再び同じ方法で2回目の除草をします。除草機を入れられない株間の雑草については、ニンジンの間引きと共に手で引き抜いていきます。なにより大切なのは作業の効率性です。こうして手で処理する場合は、雑草が大きくなってからの方が抜きやすいので、さらに1週間程度時間を空けることもあるそうです。

間引き後のニンジン畑

間引きと草取りを終えたニンジンの列(画像提供:草間舎)

ここまで来れば安泰です。あとは2週間後にもう一度、手押しの中耕除草機か三角ホー(クワの一種)で畝間をかいていきます。そうすれば9月には、立派に育ったニンジンが収穫できます。

「畑の命を管理する」という考え方

ニンジンの栽培管理の例から分かるように、瀧沢さんにとって肝心なのは、作業を適期に行うこと。除草機をかけるタイミングを逃して、手で雑草を抜かなければならなくなった場合、本来2時間で終わる仕事が3日かかることさえあります。

有機農業では、優先順位を付けて効率よく作業を進めることと、畑で起こりうる問題を想定して必要な準備をしておくことが基本です。畑の作物が病気になっても、農薬をまいて対処することはできません。だからこそ、自分の思い通りにできる雑草の管理は、できることをやろうと思うのだそうです。

畑をきれいな状態に保つことは、病気や虫が発生しづらい環境を整えることでもあります。そして、作物が雑草に負けずに元気いっぱいに育つことは、それ自体が病気や虫への対策でもあります。なぜなら「絶好調の生命体」には病気も虫も付きにくいからです。

農家の仕事は、田畑の命を育て、管理すること──。農家が向き合うべきは作物だけではなく、雑草や虫、獣も含まれるというのが瀧沢さんの考え方です。瀧沢さんの「雑草管理の哲学」とは、農業をする上での基本となる考え方とも言えそうです。

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