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京大卒・東大在学中のポケマルのスタッフが考える、産直サイトの「つなぐ価値」

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

京大卒・東大在学中のポケマルのスタッフが考える、産直サイトの「つなぐ価値」

新型コロナが人々の暮らしや経済を変える中、農業の世界で際立つのが産直サイトの躍進だ。既存の農産物流通にはない価値を追求し、さまざまな人材がサイトの運営会社に集まっている。彼らはそこで何を実現しようとしているのか。ポケットマルシェ(岩手県花巻市)のスタッフに話を聞いた。

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社内勉強会「ポケマル大学」を開くわけ

インタビューしたスタッフは2人。1人は石川凜(いしかわ・りん)さん。京大農学部で農村社会学を学び、学生時代にポケットマルシェ(以下、ポケマル)のインターンシップ(就業体験)に参加した。2019年3月に大学を卒業し、2021年2月から正社員としてポケマルで働き始めた。
もう一人は岸本華果(きしもと・はるか)さん。東大農学部で環境経済学を学び、現在は修士課程の1年生。2020年12月からポケマルでインターンシップを始めた。2022年3月に修士課程を修了した後は、農業関係の仕事に就きたいと思っている。就農も視野に入れているという。
ポケマルのスタッフは現在、アルバイトなどを含めて約60人。事業規模が大きくなるのに伴い、人数が増えているが、中には1次産業に直接関わった経験のない人もいる。そこで1次産業のことを基礎から学ぶため、社内勉強会の「ポケマル大学」を2021年1月にスタートさせた。
勉強会は毎月2回のペース。漁業関係者を講師に招いたほか、4月には有名な有機農家の久松達央(ひさまつ・たつおう)さんを講師に招く予定。講師を呼ばずに自分たちだけで議論する回もある。石川さんと岸本さんは講師の招請や資料づくりなど、勉強会の事務局を務めている。

石川凜

石川凜さん

なぜ勉強会を始めたのか。そう質問すると、石川さんは「1次産業の課題解決につながることをやりたい。でも『1次産業はこういうものだ』という思い込みで行動すると、間違ったことをしてしまう恐れがある」と話した。
石川さんが気にしているのは、農産物や水産物を買ってもらうため、ツイッターなどで「SOS」という言葉が盛んに使われていることだ。「『価格が暴落して困っている』みたいなツイッターがあったので確かめてみたら、実際にはそんなに下がってなかった。そのことを知ってショックを受けた」
新型コロナの影響で一部の農家が販路を失って以降、SNS(交流サイト)で「SOS」の文字を頻繁に見かけるようになった。農家が自ら発信することもあるし、ポケマルを含め、産直サイトが生産者を応援するために使うこともある。石川さんはそのこと自体を否定しているわけではないが、「本当に困っているのかきちんと調べ、事実ならその理由を調べることが大切」と話す。
この点について岸本さんも「もやもやしている」という。「私が知ってる農家は何でもできる人で、とても格好いいし、尊敬している」。懸念しているのは「助けてほしい」「助けてあげよう」というメッセージが前面に出すぎることで、1次産業の一面的な印象が広まることだ。「農家は弱くて助けてあげるべき存在という世間のイメージを、助長してしまうのが心配」という。

岸本華果

岸本華果さん

販路の一つではありたくない、産直サイトで実現したいのは

1次産業のステレオタイプなイメージの増幅を招いてはいないだろうか。そう自らに問いかける姿勢は、じつに健全だと思う。コロナ禍のもとで、生産者を助けたいという消費者の思いが、想像以上に強いことが確かめられた。その意義を軽視すべきではない。だが、応援は1次産品を買うきっかけにはなっても、農業や漁業が持続的に成長していくための原動力にはなり得ない。
スタッフの自問自答は、勉強会を実りあるものにするうえで大きな意味を持つ。例えば、勉強会で論点になったことの一つに、ポケマルを使う生産者の多くは小規模経営という点があった。売上高でみると、年間で1000万円に満たない生産者がたくさんいる。他の産直サイトも似たような状況だろう。
なぜ大規模農家が少ないのか。

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