京大卒・東大在学中のポケマルのスタッフが考える、産直サイトの「つなぐ価値」

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京大卒・東大在学中のポケマルのスタッフが考える、産直サイトの「つなぐ価値」

連載企画:農業経営のヒント

京大卒・東大在学中のポケマルのスタッフが考える、産直サイトの「つなぐ価値」
最終更新日:2021年03月24日

新型コロナが人々の暮らしや経済を変える中、農業の世界で際立つのが産直サイトの躍進だ。既存の農産物流通にはない価値を追求し、さまざまな人材がサイトの運営会社に集まっている。彼らはそこで何を実現しようとしているのか。ポケットマルシェ(岩手県花巻市)のスタッフに話を聞いた。

社内勉強会「ポケマル大学」を開くわけ

インタビューしたスタッフは2人。1人は石川凜(いしかわ・りん)さん。京大農学部で農村社会学を学び、学生時代にポケットマルシェ(以下、ポケマル)のインターンシップ(就業体験)に参加した。2019年3月に大学を卒業し、2021年2月から正社員としてポケマルで働き始めた。
もう一人は岸本華果(きしもと・はるか)さん。東大農学部で環境経済学を学び、現在は修士課程の1年生。2020年12月からポケマルでインターンシップを始めた。2022年3月に修士課程を修了した後は、農業関係の仕事に就きたいと思っている。就農も視野に入れているという。
ポケマルのスタッフは現在、アルバイトなどを含めて約60人。事業規模が大きくなるのに伴い、人数が増えているが、中には1次産業に直接関わった経験のない人もいる。そこで1次産業のことを基礎から学ぶため、社内勉強会の「ポケマル大学」を2021年1月にスタートさせた。
勉強会は毎月2回のペース。漁業関係者を講師に招いたほか、4月には有名な有機農家の久松達央(ひさまつ・たつおう)さんを講師に招く予定。講師を呼ばずに自分たちだけで議論する回もある。石川さんと岸本さんは講師の招請や資料づくりなど、勉強会の事務局を務めている。

石川凜

石川凜さん

なぜ勉強会を始めたのか。そう質問すると、石川さんは「1次産業の課題解決につながることをやりたい。でも『1次産業はこういうものだ』という思い込みで行動すると、間違ったことをしてしまう恐れがある」と話した。
石川さんが気にしているのは、農産物や水産物を買ってもらうため、ツイッターなどで「SOS」という言葉が盛んに使われていることだ。「『価格が暴落して困っている』みたいなツイッターがあったので確かめてみたら、実際にはそんなに下がってなかった。そのことを知ってショックを受けた」
新型コロナの影響で一部の農家が販路を失って以降、SNS(交流サイト)で「SOS」の文字を頻繁に見かけるようになった。農家が自ら発信することもあるし、ポケマルを含め、産直サイトが生産者を応援するために使うこともある。石川さんはそのこと自体を否定しているわけではないが、「本当に困っているのかきちんと調べ、事実ならその理由を調べることが大切」と話す。
この点について岸本さんも「もやもやしている」という。「私が知ってる農家は何でもできる人で、とても格好いいし、尊敬している」。懸念しているのは「助けてほしい」「助けてあげよう」というメッセージが前面に出すぎることで、1次産業の一面的な印象が広まることだ。「農家は弱くて助けてあげるべき存在という世間のイメージを、助長してしまうのが心配」という。

岸本華果

岸本華果さん

販路の一つではありたくない、産直サイトで実現したいのは

1次産業のステレオタイプなイメージの増幅を招いてはいないだろうか。そう自らに問いかける姿勢は、じつに健全だと思う。コロナ禍のもとで、生産者を助けたいという消費者の思いが、想像以上に強いことが確かめられた。その意義を軽視すべきではない。だが、応援は1次産品を買うきっかけにはなっても、農業や漁業が持続的に成長していくための原動力にはなり得ない。
スタッフの自問自答は、勉強会を実りあるものにするうえで大きな意味を持つ。例えば、勉強会で論点になったことの一つに、ポケマルを使う生産者の多くは小規模経営という点があった。売上高でみると、年間で1000万円に満たない生産者がたくさんいる。他の産直サイトも似たような状況だろう。
なぜ大規模農家が少ないのか。石川さんの答えは「わざわざ細かい販路を持つ必要はないと思われているのではないか」。もしそうなら、いまは産直サイトを利用している農家も、卸会社やスーパー、飲食チェーンと安定して大量に取引できるようになれば、サイトから離れてしまう可能性がある。

野菜農家を訪ねる石川凜

茨城県の野菜農家を訪ねた石川さん

どうすれば、それを防ぐことができるのか。そう聞くと、石川さんは「本当にやりたいことは、売り場を提供することではない」と答え、岸本さんは「ポケマルのサービスは既存の流通と違い、“スケールメリット”を追求しにくい仕組みなので、単なる販路の一つではないということをうまく伝えないといけない」と話した。
ここでスケールメリットとは、大量の農産物を扱うことで可能になる輸送コストの圧縮効果を指す。産地から市場を経てスーパーに届く流通ルートがその典型だ。これに対し、産直サイトは宅配便を使うことが多く、一品当たりのコストがかさみがちになる。産直サイトが直面している課題だ。
筆者はこの取材で、問題解決のアイデアを期待したわけではない。産直サイトの行方を左右する難題であり、解決に道筋がつけば農産物流通における位置づけを飛躍的に高めるようなテーマだ。そのためにもいま大事なのは、産直サイトで何を実現したいのかを確認することだと思う。

石川さんが目指しているのは「生産者と消費者がコミュニケーションを楽しみ、両者が学びを得る場」をつくること。その内容として「食に対する意識の向上」「精神的なもの」などを挙げたが、最も思いがこもっているのは次の言葉のように感じた。「より多くの生産者がより多くの消費者とつながる社会が、よりよい社会だと信じている」

コメ農家を訪ねる岸本華果

富山県のコメ農家で田植えを手伝う岸本さん

これに関連し、岸本さんは「倫理にもとづいた消費が大事だと思う」と語った。国際協力に興味があり、安いバナナを日本に供給するフィリピンの住民が農薬散布の被害に苦しめられていることなどを調べてきたからだ。
自分たちの豊かな暮らしが、いったい誰に支えられ、成り立っているのかをもっと知るべきだ。そんな思いが岸本さんの原点にある。こうした発想は、国内の生産者のことを考えるときも共通。だから「食べ物を作ってくれる人にもう少し敬意を払い、食べ物を大事にしたほうがいい」と話す。
生産者と消費者をつなげることができれば、2人の目標は実現に近づく。だから産直サイトが意味を持つ。その成否は、思いをどれだけサービスに落とし込めるかにかかっている。それができれば、規模の大小に関係なく、産直サイトは生産者にとってより大切なものになる。

複雑なものを複雑なまま捉える、問うことをやめない姿勢

インタビューで2人に感じたのは、「1次産業に関わりたい」という思いを大切にしつつ、自分たちの知識を疑ってみる柔軟な態度だ。
その一つが、2020年に話題になった種苗法の改正だ。一部から「改正は農家の権利を侵害する」という反対意見が出たとき、岸本さんは当初「そうかもしれない」と思った。だが育種家や農家に話を聞くうち、種苗の知的財産を守ることを目的にした法改正の意義を理解するようになったという。
こうした話は取材の中で何となく出てきたものではなく、2人が勉強会を開こうと思った動機にも関係する大事なポイントだ。勉強会で重視しているのは「複雑なものを、複雑なまま捉える」「異質なものも尊重する」「問うことをやめない」の三つ。その姿勢を十分に感じ取ることができた。
筆者は田畑を訪ね、生産者の話を聞くたび、大きな活力をもらって帰ってくる。それが取材の目的の一つにもなっている。そして1次産業の未来に夢を抱き、関わろうとする人々の活躍に期待したいと思っている。

高橋博之

ポケマル代表の高橋博之(たかはし・ひろゆき)さん

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。
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