1000万円のハウスを元手ゼロで建設、新規就農者の賢い補助金活用術

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1000万円のハウスを元手ゼロで建設、新規就農者の賢い補助金活用術

連載企画:農業経営のヒント

1000万円のハウスを元手ゼロで建設、新規就農者の賢い補助金活用術
最終更新日:2021年04月06日

農家をサポートする補助金や制度融資はさまざまにある。だがあまりに種類が多いうえ、中身がよく変わるので、うまく活用するのは簡単ではない。そうした中、千葉県野田市の野菜農家、荒木大輔(あらき・だいすけ)さんは自ら補助金を使っているだけでなく、周囲の農家にアドバイスする立場にもある。賢い補助金の活用法について荒木さんに聞いた。

なぜ補助金や融資の仕組みに詳しいのか

荒木さんは現在、39歳。2015年に実家で就農した。栽培面積は2.4ヘクタールで、枝豆やネギ、パクチー、ホウレンソウなどを作っている。主な出荷先は、ちば東葛農業協同組合(JAちば東葛、本店千葉県柏市)だ。
荒木さんは補助金や融資の仕組み、申請方法など農業関連の制度に明るく、利用の仕方に困った近隣の農家から頻繁に相談を受けている。農協から勉強会に講師として招かれ、新しい制度の内容などについて話すこともある。制度に精通している理由は、東京農業大学を卒業した後、農協の全国組織である全国農業協同組合中央会(JA全中)で10年ほど働いたからだ。そこで農政で何が焦点になっているかを調べ、資料をまとめる仕事を担当し、制度の細かい内容やその背景にある農政の考え方について学んだ。

荒木さんの主力の品目の一つの枝豆

大学時代は卒業したら、すぐに就農しようと思っていた。そうせずに、いったんJA全中に就職したのは、祖母から「農業はもうからない」と反対されたからだ。回り道のように見えて、この経験は荒木さんにとって大きな財産になった。就農と同時にさまざまな手を打つことができたからだ。
農業を始める際にまず「青年等就農計画」を作成し、野田市に提出した。計画が適切かどうかを市に判断してもらうためだ。新たに農業を始める人を後押しするのが目的で、農業経営基盤強化促進法で定めた制度だ。
計画には、目標とする所得や労働時間、品目ごとの生産量、栽培面積の見通しなどを記した。荒木さんによると「作物ごとの経費や収量、販売単価などの基礎的なデータを集められるかどうかが重要」。JA全中でさまざまな資料を作っていたので、さほど難しくなかったという。
期待していた通り、計画は野田市にすんなり認められた。その結果、得ることができたのが「認定新規就農者」という立場だ。このことが、就農から数年の間に営農の基礎を固めるための出発点になった。

JA全中での経験が財産になった(東京都千代田区)

減価償却費で所得制限をクリア、1000万円の投資資金をどのように確保したのか

認定新規就農者になったことで、受給が可能になったのが「農業次世代人材投資資金」だ。申請先はこれも野田市。年に最大150万円の補助金を、最長5年間にわたって受け取ることができる。かつての名称は「青年就農給付金」。農業を始める人にとって最もポピュラーな助成制度だろう。
この制度でネックとされてきたのが、受給に所得制限がかかる点だ。農業を始めたばかりで経営が不安定な生産者をサポートするのが狙いのため、所得が一定額を超えると受給額が減る仕組みになっている。具体的には年100万円以上で受給額が減り始め、350万円に達するとゼロになる。
所得は売り上げから経費を引いて算出する。そのため、売り上げが増えると受給額が減る可能性が出てくるが、荒木さんにその心配はなかった。売り上げが伸び悩んだからではなく、1000万円でハウスを建てたからだ。

1000万円で建てた栽培ハウス

設備投資をすれば、減価償却費が発生する。これは費用に計上されるため、所得を減らす効果がある。もちろん、荒木さんは必要のないハウスを作ったわけではない。ハウスの建設は就農前から考えていたことで、認定新規就農者になるとき市に提出した計画にも書き込んでいたプランだ。
ここで重要なのは、所得を圧縮する効果があるのを念頭に置いて投資した点だ。だが荒木さんのような戦略がなく、受給額が減るのを心配し、規模拡大をためらう農家が少なくない。その結果、制度に批判が高まったため、農林水産省は2021年度の申請分から所得制限を撤廃することにした。

荒木さんが1000万円の投資資金をどうやって確保したのかに話題を移そう。調達先の一つは、千葉県が実施している「『輝け!ちばの園芸』次世代産地整備支援事業」だ。この事業の対象になったことで、投資額の25%を県が補助し、付随して市がさらに15%を補助してくれた。地域が推奨している枝豆やホウレンソウを栽培することが、事業に採択される際の条件になった。

千葉県の支援事業の対象になったことを示すプレート

もう一つが、日本政策金融公庫の融資制度の「青年等就農資金」だ。融資の条件は、やはり認定新規就農者であること。返済期間は17年以内で、無利子。担保は融資対象の物件で、荒木さんの場合はハウス。保証人は要らない。
融資の限度額は3700万円で、荒木さんはハウスを建てるのに必要な残りの約600万円を借り入れた。つまり元手がゼロで、担保をあらかじめ用意することなく、1000万円のハウスを建てることができたのだ。
じつは荒木さんは、ハウスを建設するために日本政策金融公庫の融資を使うことも、青年等就農計画に書き込んでいた。制度についての豊富な知識を背景に精緻な計画を立て、当初描いたシナリオ通りにここまで来た。

認定農業者として営農のレベルアップ

ここから先は新規就農者の立場から脱皮し、地域の担い手としての歩みが始まる。その第一歩が、農業経営改善計画の市への提出だ。
この計画が認められ、2021年2月に「認定農業者」になった。日本政策金融公庫から限度額3億円の低利融資「スーパーL資金」を受けられるなど、行政の本格的な支援のもとで営農のレベルアップを目指す。
本来ならもっと早く認定農業者になれそうなものだが、この時期に認定を受けたのには理由がある。次世代人材投資資金は、認定農業者になると支給対象から外れるからだ。そこで荒木さんは2020年に5年間の受給期間が終わったのを受け、次のステップへと進んだ。
一連の話を通して浮かび上がってくるのは、制度を理解し、適切に活用することの大切さだ。例えばハウスの建設に補助金を使えたのは、地域が推奨する品目を選んだからだ。だがいくら補助金が出るからといって、過剰な設備を作れば、その後の運営費がかさむなどマイナス面が大きくなる。
農業への手厚い補助金には一部に批判もある。だが問題なのは経営の規模や内容の向上に結びつかないような使い方であって、うまく活用して営農の発展に役立てるのは非難されるべきことではない。そこで荒木さんはこう強調する。「補助金は用法と用量を守って正しくお使いください」

野田市による農業経営改善計画認定書

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