コロナで見えた販売増のチャンス、「補助金の達人」が利用した支援策とは

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コロナで見えた販売増のチャンス、「補助金の達人」が利用した支援策とは

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コロナで見えた販売増のチャンス、「補助金の達人」が利用した支援策とは
最終更新日:2021年04月21日

「補助金は用量と用法を守って正しくお使いください」。千葉県野田市の野菜農家、荒木大輔(あらき・だいすけ)さんがよく使うフレーズだ。全国農業協同組合中央会(JA全中)で働いた経験があり、周りの農家から補助金の使い方について相談を受けるほど制度に詳しい。そんな荒木さんにとって、新型コロナウイルスの流行は営農をさらに発展させるためのきっかけになった。

コロナ関連の補助金で軽バンとスプリンクラーを購入

荒木さんは枝豆やホウレンソウ、パクチーなどの野菜を育てている。JA全中では農政の調査などを担当。就農後は補助金を活用し、元手ゼロで1000万円のハウスを建てるなど、助成策に関する豊富な知識を営農に生かしてきた。

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そのノウハウは、新型コロナで農林水産省が設けた支援策を使う際にも生きた。補助金を原資にスプリンクラーと軽バンを導入したのだ。
支援策の名称は「経営継続補助金」。マスクの購入など「感染拡大防止の取り組み」を対象にしたものと、機械の購入や販路の開拓など「経営継続に関する取り組み」を対象にしたものの二つがあり、荒木さんは後者を利用した。
補助率は経費の4分の3で、支給上限は100万円。経費のうち6分の1以上が、コロナ対策に関連していることが条件になる。従業員同士の接触を減らしたり、少人数で作業できるようにしたりする省力化投資などだ。

スプリンクラー

経営継続補助金で買ったスプリンクラー

荒木さんの場合、スプリンクラーがコロナ対策と認められた。自宅近くの畑に水をまくため、これまで使っていたのは畝に沿って地面にはわせた8本の灌水(かんすい)チューブ。水道の蛇口とチューブを長いホースでつなぎ、チューブに開いたたくさんの穴から水をまいていた。
ここで負担になっていたのが、チューブにホースをつなぐ作業。8本のチューブにホースを順番につなぎ直すのに、かなりの時間を割いていた。これに対し、スプリンクラーは畑の真ん中に1台置けば、全体に水をまくことができる。
荒木さんは現在、2人のスタッフを雇っている。もしどちらかがコロナに感染すれば、水やりが滞ったり、水やりに時間をとられて他の作業に影響したりする可能性がある。スプリンクラーはその対策として認められた。
では「コロナ対策が経費の6分の1以上」という条件との関係はどうだったのだろう。スプリンクラーと軽バンの購入費は合計で142万円。その6分の1は約23万7000円。そしてスプリンクラーの値段は24万円。条件をぎりぎりのところでクリアし、経営継続補助金の支給を受けたのだ。
一方、経費の4分の3という補助率を適用すると、支給額は約107万円になる。ただ支給額には100万円という上限があるため、荒木さんは100万円の補助を受けることになった。残りの42万円は自己資金をあてた。

軽バン

軽バンには「経営継続補助金」の文字

売上減ではなく需要増により申請

補助金で軽バンを買った目的も見てみよう。経営継続補助金の主な使い道は、販路の回復や開拓。多くの農家はコロナで販売が減ったのを理由に補助金を申請したが、荒木さんは需要が増えたために申請した。
軽バンで運ぶ作物はパクチー。一年中出荷できる作物だが、これまで荒木さんは9月から翌年の3月までしか出していなかった。その他の時期は、メインの作物である枝豆などの栽培や出荷を優先していたからだ。
パクチーの売り先は、レストランを販路に持つ千葉県内の卸会社。コロナの影響で、多くの飲食店が来店客の急減に悩まされた。そのあおりで、この卸会社は飲食店などへの販売量が一時、前年の半分以下に落ち込んだ。
荒木さんは2020年9月にコロナ下で初の収穫を始めたとき、注文が減ると思っていた。だが予想は外れ、前年よりも需要が増えた。販売減に直面した卸会社が運送費を圧縮するため、仕入れ先を近場に絞ったからだ。

パクチー

収穫したばかりのパクチー

パクチーは他の野菜と比べて消費量がもともと少なく、市場を使う大量流通には乗りにくい。そこでこの卸会社は、宅配料を負担して各地から仕入れていた。だがコロナで販売減に直面し、宅配料を負担して遠隔地から仕入れるのが収益的に難しくなった。近隣からの調達に集約したのはそのためだ。
これを受け、荒木さんは二つの手を打った。一つは周年栽培の開始。スタッフを含めて作業のやりくりの仕方を改め、枝豆の栽培に支障が出ないように工夫した。もう一つは集荷の開始。近くの農家からも仕入れ、卸会社に販売することにした。通年の販売量は4倍に増えると見込んでいる。
そこで必要になったのが、運送に使うための軽バンだ。それまでパクチーを宅配便の集荷所まで運んでいた車では、入りきらなくなったのだ。コロナは飲食業や農業にさまざまな混乱を引き起こした。荒木さんはその中で、販売を増やすチャンスに恵まれ、補助金を使って出荷体制を整えた。

パソコン

野田市のコロナ対策事業で買ったパソコン

荒木さんが利用した地元のコロナ関連の助成策にも触れておこう。野田市が独自の緊急対策事業として実施したもので、支給額は一律で10万円。感染症の拡大防止に協力した個人事業者などが対象だ。
商店や飲食店を担当する商工観光課の事業だったため、農家も対象になるのかどうか不明だった。その点が農家の間で話題になったため、荒木さんが確認に行くと、農家にも出ることがわかった。申請書には家の直売所で農産物を売る際にマスクをしたり、客数を制限したりすると書き込んだ。
農政課は何度も訪ねたことがあるが、商工観光課に行ったのは初めて。荒木さんが条件を確認したおかげで、仲間の農家も10万円を受け取ることができた。使い道は自由。荒木さんは9万8000円でノートパソコンを買った。以前のパソコンと比べてずっと軽く、持ち運びが楽になったという。

求められる情報収集のノウハウ、ウオッチすべきものとは

ここまで見てきてわかるように、営農を発展させるため、前向きな投資をするときに補助金を使うのが荒木さんの基本姿勢。「補助金に頼りたくない」というポリシーがあるなら話は別だが、もしそうしたこだわりがないのなら、経営のレベルを高めるために補助金をうまく活用すべきだろう。
そこで重要になってくるのが、制度に関する情報収集だ。荒木さんがウオッチすべきだと指摘するのが、政府が年末にまとめる翌年度の予算案。予算を伴う制度の見直しや、新たな制度の創設はこの中に盛り込まれる。
とはいえ、政府の発表文をそのまま読んでも、何がポイントかを理解するのは簡単ではない。それを補完してくれるのが、制度をわかりやすく解説してくれる専門メディアや、農家同士で情報交換するSNS(交流サイト)など。県の出先機関や農協の担当者に日ごろから相談することも大切だ。
いかに情報収集のアンテナを広げるかがカギを握る。荒木さんは「人的なネットワークを広げるべきだ。制度に詳しい人が周りにいれば、恩恵は大きい」と強調する。農家は生産者であるとともに経営者でもある。情報への感度を高めれば、営農を発展させるチャンスは増えるだろう。

荒木大輔

「ネットワークが大切」と説く荒木さん

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