メガファームの2代目社長が挑む、父親が磨いた「野生の勘」の見える化

マイナビ農業TOP > 農業経営 > メガファームの2代目社長が挑む、父親が磨いた「野生の勘」の見える化

メガファームの2代目社長が挑む、父親が磨いた「野生の勘」の見える化

連載企画:農業経営のヒント

メガファームの2代目社長が挑む、父親が磨いた「野生の勘」の見える化
最終更新日:2021年04月12日

経営のバトンタッチにはさまざまな課題がある。では継ぐ対象が、栽培面積が200ヘクタールを超す農場の場合、何が焦点になるだろう。経営や栽培の仕組みを移管する際のハードルは何か。稲作を手がけるフクハラファーム(滋賀県彦根市)の2代目社長、福原悠平(ふくはら・ゆうへい)さんを取材した。

30代前半でメガファームの社長になったわけ

フクハラファームは創業者の福原昭一(ふくはら・しょういち)さんが約30年前に勤めをやめ、専業農家になったのを機に規模拡大がスタートした。兼業のころの面積は約2ヘクタール。1994年に法人化した。
現在の栽培面積は210ヘクタールと、じつに当時の100倍超。コメや麦の裏作でキャベツも作っており、延べ面積は240ヘクタールに達している。ごく一般的な小規模経営から、国内屈指の大規模経営へと成長したわけだ。
2代目の悠平さんはいま37歳。大学を卒業して飲食店で働いた後、20代後半で実家に戻り、父親のもとで農業を始めた。勤め先が店を閉じたことが就農の理由で、そのころは後を継ごうとは思っていなかった。
30歳になったころ、社長になることを意識し始めた。父親から「そろそろ引退を考える年齢が近づいた」と言われたからだ。その2年後に改めて「そろそろ代わろうと思う」と言われ、「腹をくくることにした」と決意を告げた。こうして悠平さんは、2017年にフクハラファームの社長になった。

広大な農場

200ヘクタール超の広大な農場

ここで確認しておくと、「そろそろ代わろうと思う」と言ったときの父親の年齢は、多くの農家がバトンタッチを考えるタイミングでは必ずしもない。まだ60代になったばかりだったからだ。零細な家族経営では、息子が60歳で勤めをやめて実家に戻り、高齢の父親と一緒に農業を始める例も少なくない。
これに対しフクハラファームでは、父親が「自分が元気なうちに交代すべきだ」と考え、30代前半だった悠平さんに社長の座を譲った。トップになるための準備期間を長々ととるよりも、早いうちに交代したほうが経営者としての自覚や能力が高まり、会社にとってもプラスになると判断した。
当然、一代で巨大農場を築いた父親と、わずか数年で社長になった悠平さんの間には経営のスキルに大きな開きがある。父親は社長からは退いたとはいえ、いまも会長の立場で農作業をし、ときに悠平さんに助言する。
社長交代から2021年で5年目。悠平さんは農場を運営するうえで何を課題と感じ、これから経営をどう発展させようとしているのだろうか。

福原悠平さん

2代目の社長の福原悠平さん

長期的な課題である栽培技術の継承はどのように解決するのか

「まず解決すべき課題は、地権者の管理」。悠平さんはそう話す。
フクハラファームが水田を借りている相手は約500人。年賀状を出すなど接点を保つよう努めてはいるが、直接会ったことがある人はほとんどいない。
地権者と会うことが必要になるのが、あぜをなくして田んぼを1枚にまとめるときだ。生産効率を高めるうえで必須の課題で、地権者の同意が要る。ところがいざ連絡してみると、相手が亡くなっていることがある。家族が同じ場所に住んでいればいいが、引っ越してしまっていることもある。
そこで考えているのが、県が運営している農地中間管理機構(農地バンク)の活用だ。農地バンクを介して水田を借りるので、農家は地権者と直接やりとりしないですむ。フクハラファームの田んぼのうち、農地バンクを介しているのは約2割。この比率を高めるため、地権者との交渉を急ぐ。

さまざまな課題

農場が広大なためにさまざまな課題がある

もう一つの課題が在庫管理だ。
ほかの農家から仕入れる分を含め、フクハラファームが販売するコメの量は年に1700トンにのぼる。そのすべてを事務所と同じ敷地内にある5つの倉庫で保管し、卸会社などとの契約に応じて順次出荷していく。
コメは1トン単位のフレコンバッグ(袋状のコンテナ。以下、フレコン)に詰めて保管しており、後に出荷する分を倉庫の奥に入れる必要がある。扱っているコメの品種は11種類。これをどの売り先にいつ出荷するかを念頭に置き、5つの倉庫に振り分ける。置き場所を間違え、前のフレコンをどけて奥のフレコンを出すようなことが頻発すれば、大変な非効率になる。しかも空調が効いていない3つの倉庫は3月いっぱいまでしか保管できないため、置き場所を決めるのはいっそう難しくなる。
この差配を一手に担ってくれているのが、父親の右腕とも言うべき存在だった60代のスタッフ。日々コメが出荷されていく中で、どのフレコンがどの倉庫にあるかを把握しているのも、現時点では彼一人しかいない。
いまはこのスタッフのおかげで混乱なく在庫管理ができているが、いずれ別の人が担うべきときがくる。まず着手すべきは、どのコメがどこにあるか記録をつけてもらうこと。次にこの仕事をこれから誰に担ってもらうかを決め、ノウハウの移管を進める。会社の収益にも関わる重要な仕事だ。

フレコンバック

フレコンバッグで保管している大量のコメ

そして長期的な課題が、父親の栽培技術の継承だ。
悠平さんによると、「僕たちは到底気づかないようなことに会長は気づく」。例えば稲の葉の色のかすかな変化を察知し、「病気になりそうだ」と指摘する。そう言われて悠平さんたちが改めて見直しても、他の葉と同じ色にしか見えない。だがその後、実際に病気が発生し、父親の観察眼に驚く。
野鳥の動きを目で追いながら、「あの辺りに虫が発生している」と気づき、アドバイスする。雲の様子を見て「もうすぐ雨だ」と話すこともある。雨が降るとまいたばかりの除草剤が流れてしまうため、大切な情報になる。
父親の知識や技術を「見える化」しようと、作業計画や実施状況を圃場(ほじょう)ごとに管理するシステムを導入してはいる。だが、悠平さんは「スマート農業の技術を使えばすぐ代替できるような次元のものではない」と強調する。
ただし、新しい技術を使うこと自体を否定しているわけではない。そこでいま考えているのが、父親の視線の「見える化」だ。ウエアラブルメガネを装着してもらい、どこを見ているかを録画し、何に気づいたかを音声で記録する。このアイデアを話したら、まんざらでもない様子だったという。

裏作を増やすことで目指す売り上げアップ

膨大な在庫を適切に管理する技術も、稲の変化にいち早く気づく観察力も、父親や右腕のスタッフが長い時間をかけて身につけてきたものだ。悠平さんはそれを「野生の勘」と表現する。農場を徐々に大きくしていく過程で直面したさまざまな困難を乗り越える中で、高めてきたノウハウだ。
この野生の勘で実現したものは極めて大きい。フクハラファームのコメの生産コストは一般の稲作経営だけでなく、ほかの多くの大型農場と比べても低い。経験と勘に頼る父親たちの経営管理を、悠平さんは「ドンブリ勘定」と思っていたが、その内容は想像していた以上に高度なものだったのだ。
一方、父親とは違って悠平さんには、さまざまなノウハウを身につけるための長い時間は与えられていない。目の前には、すでに広大な農場があるからだ。そしてトラブルは、悠平さんの成長を待ってはくれない。
その一つが、台風などによる収量の低下だ。だが悠平さんは「天候のせいにしたくない」と話す。だからデータ管理が重要になる。父親のレベルにすぐ達するのは難しいが、データの活用以外に経験を補う手段はない。

コメの裏作のキャベツ

コメの裏作で栽培しているキャベツ

品目の多様化にも取り組む。コメの裏作にキャベツ以外の作物も育てることで、単位面積当たりの収入を増やすのが狙いだ。まず2021年からネギの栽培を始める。経営を発展させるために、悠平さんが掲げた大きな目標だ。
では父親のノウハウを、悠平さんはどこまで習得することができたのだろう。そう聞くと、答えは「見えを張って言うと2割」。続いて「他のスタッフが分担している分も含めれば」と話した後、「とても10割に達していない」。
フクハラファームにはいまも年に6~7ヘクタールの水田が集まっており、農場そのものもまだ発展途上にある。悠平さんはそのプロセスの中で、父親が経験したことのない難局に向き合うこともあるだろう。それが新たな成長の糧にもなる。2代目が率いるメガファームのこれからの展開に注目したい。

この連載を全部読む
農業経営のヒント
農業経営のヒント
「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。

関連記事
1000万円のハウスを元手ゼロで建設、新規就農者の賢い補助金活用術
1000万円のハウスを元手ゼロで建設、新規就農者の賢い補助金活用術
農家をサポートする補助金や制度融資はさまざまにある。だがあまりに種類が多いうえ、中身がよく変わるので、うまく活用するのは簡単ではない。そうした中、千葉県野田市の野菜農家、荒木大輔(あらき・だいすけ)さんは自ら補助金を使…
コロナで見えた販売増のチャンス、「補助金の達人」が利用した支援策とは
コロナで見えた販売増のチャンス、「補助金の達人」が利用した支援策とは
「補助金は用量と用法を守って正しくお使いください」。千葉県野田市の野菜農家、荒木大輔(あらき・だいすけ)さんがよく使うフレーズだ。全国農業協同組合中央会(JA全中)で働いた経験があり、周りの農家から補助金の使い方について…

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

カテゴリー一覧