コロナに豪雨に収量減で「もうダメかも」、それでも挑戦し続けられる理由

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コロナに豪雨に収量減で「もうダメかも」、それでも挑戦し続けられる理由

連載企画:農業経営のヒント

コロナに豪雨に収量減で「もうダメかも」、それでも挑戦し続けられる理由
最終更新日:2021年04月20日

農業経営にはさまざまな困難が伴う。京都府亀岡市で九条ネギを育てる田中武史(たなか・たけし)さんも、栽培と販売の両面で多くの難局に直面してきた。45歳で就農してから8年。経験したのは、台風による被害や収量の低下、そして新型コロナウイルスによる販売不振。度重なる試練にも負けず、営農の発展に向けて次の手を打つ田中さんの挑戦を紹介したい。

自然災害の陰で進んでいた収量の低下

田中さんは、ネギを栽培する農業法人のこと京都(京都市)で10年あまり働いた後、2013年に独立して就農した。1年目は個人で営農し、2年目に農業法人の西陣屋(亀岡市)を立ち上げた。ネギをカットしてレストランなどに販売しているほか、加工せずにスーパーなどにも出荷している。
最初の試練は2017年。台風の被害で、1カ月以上収穫できなくなった。2018年には集中豪雨で加工場が浸水し、しばらくネギをカットできなかった。「心が折れそうになった」と振り返るほどの危機だったが、金融機関から運転資金を借り入れ、こと京都からカットネギを仕入れてしのいだ。
この経緯については、以前この連載で詳しく伝えた。

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その取材をしたのは2019年5月で、テーマは災害への対応が中心。だが2年ぶりに訪ねると、田中さんは当時別の課題にも直面しつつあったことがわかった。収量の低下だ。

2018年の集中豪雨で浸水した加工場

当時の栽培面積は10ヘクタール。独立後に1.5ヘクタールから始め、徐々に畑を増やしてきた。ところが就農したばかりのころは0.1ヘクタール当たりで4トンあった収量が次第に減り始め、2019年は1~1.5トンに落ち込んだ。
原因は、田中さんが現場を離れたことにある。事業を大きくするため、営業やマネジメントに専念することにしたからだ。だがスタッフの技術が規模の拡大に追いつかず、雑草の防除や水やりが後手に回り、ネギが生育不良に陥った。同じ作物を作り続けることで生じる連作障害の影響もあった。
ここで田中さんは大胆な決断をした。2020年の栽培面積を5.4ヘクタールに減らしたのだ。担当するスタッフの人数は、逆に14人から16人に増やした。スタッフがじっくり栽培に取り組める環境を整えることで、生育不良を防ごうとした。連作障害をなくすため、一部の畑を休ませる狙いもあった。
収量が落ちたのは、規模拡大の反動だ。それを改善するため、面積を減らして収量を増やそうとしたのは賢明な判断だろう。限られた面積に集中することで栽培がうまくいけば、販売量を減らさずにすむと考えていた。
ところが、2020年は予想もしていなかった難局に向き合うことになった。

ネギの収量の向上が課題

コロナで一時売り上げが半減、資金ショートは回避

就農して以降、田中さんは飲食店を中心に販路を開拓してきた。スーパーなどと違って組織が小さく、オーナーが品質を認めてくれればすぐに食材として採用が決まるからだ。青ネギをメニューで使っている店に営業をかけ、「京都産の九条ネギ」であることをアピールし、売り先を増やしていった。
だがコロナによる飲食店の営業縮小が、これを直撃した。影響が出始めたのが2020年2月。「きついなあ、危ないなあ」と思っていると、緊急事態宣言が出た4~5月には売り上げが前年同月の半分に減った。
台風のときと同様、今回も課題は運転資金の確保だった。事務所や加工場の敷地の賃料、スタッフへの給与などを合わせると固定費が売り上げの半分を占めており、その急減は資金ショートに直結しかねない。
「もうダメではないか」。田中さんは最悪の事態も想像したという。だが日本政策金融公庫に相談すると、ただちに運転資金を融通してくれた。コロナ禍という非常事態のもと、政府系の金融機関として機動的に対応してくれたのだろう。田中さんはこれで資金ショートを回避することができた。

お好み焼きチェーン「電光石火」のメニュー。西陣屋の九条ネギを使っている

また、このとき田中さんはある手応えを得た。コロナのもとでも閉店したり、仕入れを打ち切ったりする取引先がほとんどなかったのだ。宣言が明けると徐々に注文が増え始め、8月の売り上げは前年同月比2割減まで回復した。
「売り先が減るのを心配するより、注文が増えたときのための準備をしたほうがいい」。そう確信した田中さんは販路の開拓に力を入れるとともに、扱うネギの量を増やすための手を打った。他の農家から仕入れ始めたのだ。
2020年は手始めに1軒の農家から仕入れてみた。さらに2021年は合わせて5軒の農家から調達する予定。これにより、技術の向上がまだ途上にある自社で栽培した分だけでは足りなくなったときに備える。欠品を防ぐことができれば売り先からの信頼が高まり、取引の安定につながるからだ。
まだ楽観できる状況になったわけではない。2020年4月期の売り上げが1億8000万円だったのに対し、コロナの影響をまともに受けた2021年4月期は3割程度減る見通し。だが苦境の中でも先を見据え、一歩踏み出すことにした。

今後はネギの仕入れにも力を入れる

新店をオープンした取引先が、迷わず選んでくれる理由

苦労続きの1年だったが、明るいニュースもある。取引先のお好み焼きチェーン「電光石火」が3月下旬、東京都渋谷区に新店を開いたのだ。広島や愛媛、都内の他の場所などにある店舗を含め、メニューに使うネギはすべて田中さんから仕入れている。渋谷店のオープンには田中さんもかけつけた。
独り立ちした当初、田中さんは「自分は営業は得意ではない。でもやるしかない」と語っていた。栽培を離れて営業に回ったことは収量の低下を招いたが、事業を大きくするうえでは避けて通れない選択肢だった。商品の魅力を説き、売り先を増やすのは、多くの農業法人でトップの人間の仕事だからだ。
コロナにめげず新店をオープンした取引先が、迷わず田中さんのネギを使ってくれたことは、「得意ではない」と語っていた営業努力の大きな成果と言える。2022年4月期の売り上げは、2億5000万円を目指している。
田中さんはいま54歳。独立してから経験したさまざまなトラブルを通し、経営者として鍛えられただろうか。そう聞くと、答えは「そうでないと仕方がない」。そして「あと15年は頑張る」。苦難を乗り越え、挑戦はまだまだ続く。

電光石火の渋谷店のオープンで。右は社長の竹長篤史(たけなが・あつし)さん

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