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幸せ農家になるために、まずお金と向き合う【ゼロからはじめる独立農家#21】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

幸せ農家になるために、まずお金と向き合う【ゼロからはじめる独立農家#21】

我が農園「菜園生活 風来(ふうらい)」に就農相談に来た人に必ず話すのが「私が農家になったのは幸せになるため。幸せになるのが目的で農業は手段」ということ。そこを取り違えている人が多いということと、私自身への確認のためです。相反するように思えますが、そんな幸せな農業に欠かせないのが実は「お金と向き合う」ということ。大事だけどなかなか話せない。そんなお金の話。

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お金と向き合う

これまでたくさんの就農相談をうけてきました。農家になりたい理由は人それぞれ。「農的暮らしがしたい」「環境意識の高まりから」「ビジネスチャンスを感じて」などなど。この時代に農家を目指す人は何かしらの思いがあります。そんな熱い思いで農家になっても数年で離農する人も多くいます。理由は十中八九、お金が続かないから。

そうならないためには、最初からお金と向き合うことが必要です。小さい農業を目指す人で「農業で大儲けしてやる」という人は少ないと思います。ただ、どんなによいことをしているつもりでも、今の社会ではお金がないと続けることができません。

気候によって収量の増減が大きく、価格は市場次第、なおかつ上下幅のある農業において、経営計画は確かに難しくもあります。しかし、外的要因任せでは安定して稼ぐことはできません。「最悪を想定して、行動は楽観的に」が農業経営の基本だと私は考えています。想定していた収入が農業だけで得られないようであれば、別の仕事で稼ぐことを考えるのも必要です。

風来で一番大きな機械。支出入のバランスを考え購入

小さい農業の基本は百の仕事をする「百姓的経営」。その中ではアルバイトの経験も立派なスキルのひとつ。「農家だから農業だけで食べていく」というような固定観念を捨て、柔軟に考えられる人が結果的に長続きしています。

逆に、就農当初金銭的に大変だった反動からか、身の丈に合わない規模拡大、売り先拡大に向かうことも多々あります。その結果、大手取引先の下請けのようになってしまい、体を壊してしまったという人を何人も知っています。

これらも最初にお金と向き合っていたら無理することなく避けられていたかもしれません。そんな小さい農家が幸せになるためのヒントが「売上基準金額」です。

稼ぐ自由と稼がない自由

農家になる前の私はビジネスホテルチェーンの雇われ支配人でした(その時の経営・経理の経験は、今とても役立っています)。本社から課された売り上げノルマはとても厳しく、「毎年前年対比5%アップ」が至上命題。そんな数字に追われるのはとても大変でした。そんな経験から、就農する時は「何のために稼ぐのか」を考えられるだけ考えて農家になりました。

「幸せになるために農家になる」。そう思ったものの最初は売る物もなく売り上げもなく、先輩農家のところでバイトの日々。それでもどんどん忙しくなってきて、売り上げは上がってきました。しかしどんどん家族との時間がとれなくなってきたことに気づいた時に、前職のこと、そして最初の目的を思い出しました。

そこで導入したのが「売上基準金額」です。前職で使っていた「売上目標金額」はその売り上げを超えればノルマ達成となりますが、「売上基準金額」ではその基準金額の上下5%以内を目指すというもの。下5%よりも少ない金額の時は、目標金額を達成できなかった時と同じように何が悪かったのか反省します。

特徴的なのは、基準金額の5%上より売り上げが多かった時も「働きすぎた」と反省することです。

時間的余裕ができた時は畑を見ながら乾杯

「売上基準金額」は家族の状況によって毎年変動していきます。毎年金額が変わるのであれば「売上目標金額」と同じではないかと思われるかもしれませんが、基準をもうけることでやるべきことがハッキリと見えてきます。「あわよくば」「お金はあればある方がいい」という考えがなくなり、過大な投資をしなくてすみます。

今の資本主義社会だと冗談のような「売上基準金額」ですが、実際に取り入れてみるといろいろな気づきがありました。それまではより多く売るため、また自己満足のため、売るならスーパーよりデパート、また飲食店も星なしより一つ星、それより三つ星などと、よりステータスの高いレストランに販売したいと思っていました。今では、直接個人宅に販売する方がありがたく思えるようになりました。直売だと卸価格にする必要もないため収益が上がり、数を売る必要がなくなり時間的余裕もできるからです。

それからは、大手小売りやステータスのあるレストランなどからオファーがきても、気持ちよく断ることができるようになりました。無理に売り先を探す必要がなくなり、ストレスが軽減しました。「売上基準金額」を導入することで本当の独立を手に入れたように思います。

「自分通貨」を作る

お金を引き寄せるもう一つの方法(遊び)としてオススメなのが、個人通貨を作ること。起農当初は大きな金額が動くので金銭感覚が麻痺してしまいます。私もそうでした。そこでお金を数字ではなく物と置き換えてみればいいのではないかと思い実践しました。風来はキムチのために野菜を育てることからのスタートだったので、個人通貨の単位は「キムチ」にしました。

1キムチのレートは200円。例えば3000円の道具を買うなら「15キムチ」が必要になります。「この3000円のものを買うのには、キムチを15袋売らなければいけない」と思うと、それが本当に必要かどうかを考えるようになりました。

風来の原点キムチ。我が家は「10万キムチ」でした

日本では定価販売が当たり前ですが、海外に行くと値札が付いていない商品がよくあります。そこで値段交渉するのですが、その時「割高か割安か」の基準は自分にあります。個人通貨の発想を持つとそれと同じ感覚が出てきます。

こんな話をすると「うちは1トマトかな」「俺は1メロン」なんて人もいますし、中には「私は1時給かな」なんて人も。こういった遊びを通してお金と仲良くする、向き合う。そうすると不思議なものでお金も寄ってきてくれたりします。今は単位が代わり「野菜セット」(レートは1野菜セット=2000円)になっています(笑)。

お金を漠然と「(気にすると)いやらしいもの」「(人が持っていると)うらやましいもの」と捉えてしまうと、農業の姿勢もブレてしまいます。正面から向き合うことで「支配されるもの」から「道具」として見ることができるようになります。そしてその時に人間にとって本当に必要な「食べ物」を育てている農の強さをあらためて実感できます。

お金も農業も、幸せになるための手段として考え、理想の暮らしを手に入れる。そんな人が増えてくれるといいなと思っています。

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