沖縄の重要な産業、サトウキビ
「沖縄といえばサトウキビ!」と多くの人がイメージするのではないでしょうか。
沖縄の全農家の約7割が栽培し、作付け面積は約5割。サトウキビは沖縄の基幹的作物と言っても過言ではありません。台風などに見舞われることも多い沖縄ですが、サトウキビは台風や干ばつにも強い作物であることから、沖縄で古くから栽培されてきました。
サトウキビの作付けは、春と夏に行われ、1年~1年半かけて栽培されます。栽培期間中は害虫防除をはじめとして、さまざまな作業が必要です。
収穫時期は12~4月。気温が低下することで糖度が増し、サトウキビの汁も多く搾れるそうです。収穫作業はとても大変。ハーベスターという農業機械を使って収穫するのが一般的です。
収穫されたサトウキビは、トラックいっぱいに載せられて製糖工場へ出荷され、黒糖や砂糖が作られていきます。ほとんどの生産者はサトウキビを生産するところまでしか行いません。
しかし今回取材したのは、サトウキビの生産者であり、黒糖作りの職人でもある農家さん。一年通して無農薬でサトウキビ栽培を行い、なんと、収穫は全て手刈り。さらに、黒糖作りも全て手作業で行っているのだとか。しかも「一人で」というのだから驚きです。
効率化が進み、便利な機械が出てくる中、なぜ、全て手作業で続けているのでしょうか?
早速いろいろ聞いてみたいと思います!
■渡久地克(とぐち・すぐる)さんプロフィール
沖縄県・宜野座(ぎのざ)村出身。9歳から祖父が行うサトウキビ栽培、黒糖作りを手伝っており、農業が身近な環境で育つ。大工、サービス業、営業職など沖縄県内でさまざまな仕事を経験。祖父が亡くなったことをきっかけに2016年から本格的にサトウキビ栽培、黒糖作りを手掛ける。黒糖職人として“人間国宝”を目指している。 |
渡久地さんがこだわりの黒糖づくりをするわけ
見るからに「職人!」のオーラを持つ渡久地さん。コバマツ、ちょっとビビりながらもインタビューを開始しました。
コバマツ
うちは宜野座村で一番大きい農家だったから、当時年間300トンは生産していましたね。
渡久地さん
コバマツ
当時から「おじいの農場を継ぎたい」という思いがあったのでしょうか?
おじいが亡くなったことをきっかけに、2014年に宜野座村に戻り、黒糖作りを引き継ぐことを決めました。
渡久地さん
コバマツ
おじいの背中から学んだ、黒糖作りの技術やヒケツなどはありますか?
渡久地さん
コバマツ
渡久地さん
圧搾した汁は、加熱し、アクを取り除いて石灰を入れていきます。ガスではなく、まきの方が断然、火力が強く、早く沸騰させることができるんです。
渡久地さん
渡久地さん
コバマツ
ここまで繊細な黒糖作りですが、サトウキビの栽培から黒糖作りまで、安定した生産をして、更に販売までを軌道に乗せるには時間がかかったのではないでしょうか?
渡久地さん
祖父が亡くなったことをきっかけに、自らが“おじい”の農場と黒糖作りを引き継ごうと決めた渡久地さん。
あくまで手作業にこだわるのは、その方法が一番おいしい黒糖を生み出すことができるから。収穫も黒糖作りも手作業でやっている人は、今ではほとんどいないそうです。
黒糖づくりに挑戦してみた!
サトウキビ収穫
サトウキビの収穫から黒糖作りまでを、体験させてもらうことができました。
北海道人のコバマツ。実は今回初めてサトウキビに触れました。
こちらの道具を使って、サトウキビを刈っていきます。
このキビ鉈を使って、サトウキビを収穫していきます。とっても硬く、なかなか収穫できず。根元めがけて8回振り下ろし、ようやく1本収穫できました。
お次はこちらのサトウキビ専用の鎌を使って、葉を落としていきます。
ある程度収穫できたら、まとめて軽トラへ運びます。とっても重く、一度に7~8本しか持ち運べませんでした……。
トラックいっぱいにサトウキビを積んだら、製糖場に運び、黒糖作りの工程に入ります。
いよいよ黒糖作り
黒糖作りは鮮度が命! 収穫したてのサトウキビを圧搾機に1本ずつ通し、汁を搾ります。
次はサトウキビの汁を煮詰めていきます。途中、食用の石灰を入れるのですが、これは黒糖の食感と味を決める大事な作業だそう。
基本、黒糖作りはサトウキビの収穫が行われる、12~4月に行われます。
ですが、渡久地さんはとても特殊で、夏でもサトウキビの収穫をして黒糖を作っています。夏の気候でしか生み出せない黒糖の味があり、その味を求めているお客さんのために、夏でも黒糖作りを行っているとのこと。
昨年の夏は暑さで2度倒れてしまったそうです。
棒でかき混ぜながら、黒糖を冷ましていきます。素早くかき混ぜ続けるのが大切なのだとか。コバマツは30秒くらいでダウンし、すぐに渡久地さんにバトンタッチしました……。
固まる前の温かいうちに板に流して平らにならしていきます。
一通り体験してみましたが、サトウキビの収穫も、黒糖作りも大変な手間がかかりますね。
(なんの役にも立たなくてすみませんでした)
人気の黒糖として知られるようになった今
今では、テレビで紹介され注目を集めたり、有名チョコレート店で黒糖チョコレートとして売り出されたりしているほか、多くのパティシエからも問い合わせがあるそうです。
コバマツ
渡久地さん
コバマツ
なんという行動力!
渡久地さん
コバマツ
おじいから受け継いできた黒糖作り、次は渡久地さんが次の世代に引き継いでいくことになると思うのですが、それについてはどのように考えていますか?
子供たちに向けて、黒糖作りの体験等もやっていきたいと考えています。
渡久地さん
黒糖は作るのではなく「生まれる」
コバマツ
何一つ同じものは出来上がらないということから、昔から黒糖は作るのではなく「生まれる」と言われてきました。まるで赤ん坊のようなんですよ。
渡久地さん
コバマツ
機械化が進み、味も質も均一化されてきた黒糖。
品質の均一化も大切ですが、そのときその瞬間しか味わえない、食を生み出すことができるのも農業の魅力であり、価値なのではないかと感じました。
時代が変わっても変わらない、沖縄の原風景と黒糖の味が、ここ、宜野座村にありました。