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市場が畑を調査するのはなぜ? 沖縄青果市場の取り組みに密着

市場が畑を調査するのはなぜ? 沖縄青果市場の取り組みに密着

全国の農家さんを訪ねるフリーランス農家のコバマツです。以前沖縄県産野菜の流通について沖縄協同青果の市場を取材した際、おもしろい取り組みがあると耳にしました。
なんと、ここ沖縄の市場では、より安全安心な農産物を流通させるために生産者と手を取り合い、農産物の品質向上のための活動をしているとか。なぜ市場が品質向上に取り組んでいるのか? 食の品質向上って具体的にどんなことを行っているのか? 市場の調査に同行し、品質改善を行っている生産者にも実際にお話を聞いてみました。

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なぜ、市場が生産現場の調査をするのか?

今回は、以前沖縄県産野菜の流通について取材した、沖縄協同青果さんにお邪魔しています。以前の取材では、そもそもの市場の仕組みや、沖縄の生産者が日本全国の冬場の野菜の供給を支えてくれていることについて、市場の担当者に話を聞きました。

その際に、
「沖縄県に安全安心な農産物を流通させる取り組みを沖縄県庁と一緒に進めている」
という担当者からの言葉を私は聞き逃しませんでした。
市場なのに、農家さんの元へ赴き、土壌調査や農薬検査、肥料のチェックを行っているのだとか。
いや、市場だからこそ、安全安心を追求する取り組みを行うのか?

今回も市場の方にお話を聞いてみたいと思います!

今回も市場の人に変装し、いざ潜入!!(許可はもらっています!)

■遠藤千晴(えんどう・ちはる)さんプロフィール

沖縄の農業&流通について遠藤さんプロフィール 1994年生まれ。埼玉県出身。東京農業大学応用生物科学部醸造科学科卒業後、就職を機に沖縄県へ移住。株式会社美(ちゅ)らイチゴなどの農業生産法人での勤務を経て、2019年に沖縄協同青果株式会社へ入社。
現在は、営業本部販売促進班にて、市場に日々出荷する生産者の農業技術開発や農産物の販売サポートを行っている。
大好きな農業と農家さんに毎日触れることができること、農家さんから「いいものができたよ」と言ってもらえることが何よりのやりがい。
沖縄青果市場の取材記事はコチラ!
沖縄の野菜が日本の冬の食卓を支える? 沖縄青果市場に潜入取材!
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全国の農家さんを訪ねるフリーランス農家のコバマツです。現在沖縄県に滞在中です。今回は、沖縄県内の青果物の流通を担う、沖縄協同青果さんにお邪魔しました。 沖縄では、冬場のスーパーでも豊富な種類の県産野菜が並んでいます。さ…

沖縄協同青果では、生産者から作物を集めて卸売業者に販売するだけではなく、品質向上の取り組みも積極的に行われているそうですね。
市場が、品質向上の取り組みを始めることになった、経緯や目的はどういったことがあるのでしょうか?
以前の取材でもお伝えしましたが、市場は基本、食品衛生上安全なものを出荷する、など基本的なルールを守ってくれる人に出荷登録していただいています。が、市場で精密な品質チェックを行っているわけではなく、定期的に保健所が抜き打ちで市場の野菜の農薬濃度チェックを行うんですね。そのチェックにひっかかってしまう生産者の方が出てきてしまっていたことが市場としての課題でした。

市場で日々機械とかに通して、衛生面や品質チェックを行っているのかと思いきや、違うのですね!
JA等の出荷団体では、出荷物の安全性を担保するために、出荷された野菜の農薬濃度を機械で測ったり、農薬使用履歴を会員さんに提出してもらったりしてるのですが、市場では客観的に農産物の安全性を確認できないという課題がありました。
そんな課題を市場が抱えているとき、沖縄県で県産野菜の安全安心を推進しよう、という動きがあり、市場と沖縄県がタッグを組み、安全安心な沖縄県産野菜の普及へと動き出しました。

JA等の出荷団体に入っていたら、農薬や肥料の勉強会や組合員同士の情報交換等の機会もありますが、市場と直接取引している農家さんはそのような機会がなかなかないそうです。そんな課題もあり、市場では土づくりや農薬や肥料の使い方について専門家を招いて勉強会を行っているそうです。

ちなみに、このような品質の安全性の確保という点で、全国の市場も同じような課題を抱えているのでしょうか? それとも、沖縄県独自の動きなのでしょうか?
全国の市場は現状農産物の品質を確認する機能が確立されていなくて、どこも同じ課題があると耳にします。市場がここまで生産現場に入り込み、品質改善を行う取り組みは沖縄県ならではないかと思います。

流通を担うだけではなく、「安全安心な食」の流通へとまい進している沖縄協同青果さん。具体的にどのような取り組みを行っているのか? 密着していきたいと思います!

実際の調査に密着!!

安全安心の取り組みは主に2つあるそうです。

1つ目は日々出荷されている野菜から、畑で起こっている問題を見つけること。

2つ目は土づくりや、農薬・肥料の使用についてアドバイスを行い、安全安心な生産技術を普及させることです。出荷登録している何軒かの農家さんと連携して、葉野菜の栽培技術向上に挑戦しています。

この2つの取り組みについて、密着取材したいと思います。

日々の品質チェック

AM6:00の市場。セリの真っ最中でにぎわっています

品質チェックはまず、出荷されている野菜を見るところから始まります。

市場に出荷され、セリにかけられている野菜達

生産者ごとに区画が分かれているので、1カ所づつ野菜をチェックしていきます

同じコマツナでも、生産者ごとに大きさが違ったり、茎が細く短いもの、長く太いものなどの違いがあったり

虫食いがあるコマツナ

少しでも野菜の異変に気づいたら、誰が出荷しているか確認

異変を感じた野菜の生産者に連絡し、最近肥料を変えたか、農薬の散布の状況はどうかなどをヒアリング。野菜に出ている問題の原因を探ります

このように、市場では日々野菜の品質のチェックを行い、野菜の異変に少しでも気づいたら出荷している生産者に連絡を入れて、原因を探り、対策や課題解決に向けて一緒に取り組みます。

小さい野菜や大きすぎる野菜、虫食いのある野菜はB品、C品扱いになってしまうので、その分価格も安くつけられてしまいます。そのため、市場が品質チェックを行い、農家さんに品質改善のアドバイスを行うことで、農家さんの手取りも増え、市場は品質の良い農産物を多く流通させることができる。まさにWin-Winの関係を作ることができる取り組みだと感じました。

畑から農産物の品質を改善

市場に出荷されている野菜をチェックするだけではなく、実際に市場に出荷している農家さんの畑へ行き、土壌や野菜の状態のチェックも行います。

試験農場でもある農家さんの元を訪問

現状は、数軒の農家さんと連携し、栽培の試験を行い、マニュアルを作成しています。今後は他の農家さんにもそのマニュアルを持っていき、安全安心な野菜の栽培技術を普及させていくとのこと。

農家さんに最近の畑の様子や、収穫状況についてヒアリング

早速畑の状態をチェックしていきますね!!

こちらの道具を使って、土壌や野菜の状態をチェックします

調査その1. pHのチェック

土壌pHメーター、EC(導電率)メーターなどで土の健康状態のチェック

右のpHメーターの値はpH6.5! 土のpHは6.0~6.5の弱酸性が作物が育つのに良しとされている値なのでとても良い状態です。左はECメーターで、肥料や塩分の量や浸透度の指標になります

調査その2. 野菜の硝酸イオン濃度を測定

野菜に含まれている硝酸イオン濃度を測定。肥料のやりすぎで増加し、値が高いと食味にも影響が出るといわれます

調査その3. 野菜の糖度を測定

野菜の葉を搾った汁を糖度計に入れる

糖度チェック。この時は糖度5.5だったそうです

市場ではこのような調査を日々行っているんですね! 正直、市場の役割のレベルを超えているような!
私も、土づくりや栽培のプロというわけではないので、こういった日々の調査の中で気づいたことを、栽培指導のプロの機関に相談に行ったりするなど、さまざまな方の協力を得て品質改善に取り組んでいます。

農家さんにも話を聞いてみた

市場が安全安心な農産物の流通のために、実際に畑でここまで調査し、栽培技術まで確立させようとしている動きについて、農家さんはどのようなことを思っているのか?
試験栽培を市場と共に進めている大城善昭(おおしろ・よしあき)さんにお話を聞きました。

2020年の9月頃から、沖縄協同青果さんと一緒に、試験栽培に取り組んでいるそうですね。具体的に今までの栽培方法とはどのような違いがあるのでしょうか?
まずは土壌の物理性改善から行いました。今までは、硬く水はけの悪い土質でした。そこを市場の指導の下、機械で深耕し、土に空気を入れて、水はけが良い土壌へと改善しました。
肥料や農薬の使用も、例年よりも減らしましたね。

水はけが悪く硬い土だと、栽培する過程でも問題が起こりそうですね……。それで実際に、市場からのアドバイスを取り入れて栽培上の変化はありましたか?
まず、機械で深耕したことで、根の張りが良くなり、収穫できる量が増えました。今、試験圃場(ほじょう)として栽培している畑は、葉野菜を中心に育ててきました。雨が多い時期になると、野菜の根が腐ってしまい、半分近く収穫できないものがあったんです。
私自身も、理由が分からず「この時期の収穫はこういうものなのか」と思っていましたが、遠藤さんのアドバイスを取り入れたら、過去にないくらいの量を収穫できるようになりました。しかも、肥料の種類や量も改善したら、質の良い葉野菜が収穫できるようになりましたね。

栽培方法を改善して1年も経たないうちにそんなに成果が出ているんですね! 今までは半分以上収穫できない時期があったとのことですが、同じ品目を育てている農家さん同士で栽培についての情報交換などはないのでしょうか? 周りの農家さんに相談したりはしなかったのですか?
うちではほとんど、直接市場に卸したり、個人に販売したりしているんです。だから、なかなかJAの組合員同士のつながりや交流がなくて、栽培についての情報交換をする機会が今までなかったんですよ。

そうですよね。全員がJAに出荷しているわけではなく、個人で直接販売している人達もいる。JAへの出荷が少なければ、組合員との交流も少なくなり、なかなか情報も入ってきませんよね。
沖縄県でも安全安心な農産物を生産したいと思っている生産者は多くいます。でも、沖縄の気候・土壌に合った栽培技術が確立されていないんです。
そこに市場が入って、栽培技術を確立できるように動いてくれることは本当にありがたいことです。
今年の夏は遠藤さんのアドバイスの下、緑肥をまいてより良い土づくりをしてみようと思います。また、どのような変化が畑で起こるか楽しみです。

市場が、単なる流通だけではなく、より安全安心な食の流通を行うために、生産現場にまで入り栽培技術の指導まで行っているのは、全国的に見ても相当珍しいことのようです。
農家さんと一緒に安全安心な農産物の流通を作り出していく。生産者は質の良い農産物を多く出荷して高値で販売することができ、流通を担う市場は安全安心な農産物を多く供給することができ、消費者はそれらを安心して購入することができるようになる。
この取り組みが沖縄県だけではなく全国的に広がれば、三方良しのより良い循環が広まっていくのではないでしょうか。


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