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少量多品目農家は自分の立ち位置を知れ! 野菜の価値を把握し適正に売る方法

少量多品目農家は自分の立ち位置を知れ! 野菜の価値を把握し適正に売る方法

農業を始めて一度の営業もせずに、現在は栽培した野菜の95%をレストランへ直接販売しているタケイファーム代表、武井敏信(たけい・としのぶ)です。このシリーズでは売り上げを伸ばすためのちょっとした工夫をお伝えします。

前回は「値付け」について解説しましたが、自分が作る野菜の味や価値、強みやストーリー、つまり「立ち位置」を知らなければ、正しい値付けや提案はできません。それによって、損をしている人もいるのではないでしょうか。今回は、自分の野菜の価値を正しく認識するためのテクニックを解説します。

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自分の野菜の「立ち位置」を知らない農家が多い

あなたは自分の野菜をどう思いますか?
味や見た目、価格など、指標となる基準はそれぞれ違いますが、すごく良いものを作っているのに、どれだけ優れているかわからず、それに伴うきちんとしたブランディングや見せ方をせずに、価値あるものを安く売ってしまっている農家がいます。

「立ち位置」を知ることで値段が10倍になったタケノコ

私が4年前から訪問を続けている静岡県のタケノコ生産者はその良い例です。
その竹林は天を見上げるほどの急斜面にもかかわらず、生産者夫婦によってきれいに管理されています。しかし足場の悪さのため、普段クワを手に農作業をしている私でも初めて掘ったときは四苦八苦。4月だというのに汗びっしょりとなり、たった1本掘るのに30分ほどかかってその1本でギブアップしてしまいました。
しかし、生産者は夫婦2人で多い時には1日に300キロを掘るそうです。しかも、タケノコの先端が地表に出ていない段階で、地面が割れたヒビを見つけて掘るという職人技。日の光に当たっていないタケノコのやわらかさと味は普段見かけるものとは大違いです。
初めて訪問したとき、キロ当たりいくらで販売しているのかを質問してみたところ、JAにキロ400円でということでした。あまりにも過酷な労働とクオリティーに合っていない価格に驚いてしまい、一緒にいた料理人と、このタケノコを価値がわかる人にしっかりした値段で販売しなければもったいないと話しました。最初は、知り合いのシェフを紹介していたのですが、シェフ仲間の間でも口コミが広がり、今では、時期になるとその竹林にミシュランシェフもやってくるようになり、販売価格もキロ4000円になっています。

30分格闘して掘ったタケノコ

値段に見合うクオリティーを追求するために、自分の立ち位置を把握する

一方、味も見た目もそれほど良くもなく、品質の管理もしっかりとできずに値段だけが高いために、結果、野菜が売れ残ってしまう農家もいます。その値段を付けたいならば、それなりのものを作り、それなりの見せ方、品質管理をすることが必要です。それによって、自分が売りたい価格を付け、名の知られたお店で販売することができたり、私の場合であれば、有名なレストランに使ってもらったりすることができます。
そのためには、野菜の味や見た目、品質を見極めるための勉強が必要で、まずは、現在の自分の「立ち位置」を知ることが大切なのです。

武井が自分の立ち位置を知るためにやったこと

他の農家の野菜と食べ比べる

農業ド素人の私が見よう見まねで野菜を作りだした頃、一般消費者向けに野菜セットの販売を考えていました。野菜の知識はほぼゼロに近かったので、野菜の宅配サービスをしている会社から無料のお試しセットを取り寄せましたが、当時は、その野菜がおいしいのか、まずいのかすらわかりませんでした。自分が作った野菜でさえおいしいのかわかりません。
このようなスタートでしたので、野菜を作り、それがお金に変わることになってからは、自分の野菜のレベルを知るために、他の農家が作った野菜を食べまくりました。スーパー、百貨店、道の駅、マルシェ、オンラインショップ、野菜を購入できる場所はたくさんありましたので、当時は、野菜で稼いだお金を野菜の購入に使っていたような気がします。いろいろな野菜を食べ始めると、自分の野菜より香りが強かったり、甘みを感じたりと、味の違いがわかるようになり、明らかにレベルの差を感じだしたのです。それからは、品種にこだわったり、収穫方法を変えたり、季節感を考えたりし始めました。その結果、現在は、作った野菜の95%をレストランに販売することができています。
農業の経験値は関係なく、まずは自分以外の野菜を食べ多くの野菜の味を知ることで、「自分の立ち位置」を知ることが重要で、これを定期的に行うことで、さらにレベルアップすることが可能となります。

農家の野菜セット

他の農家の野菜を見比べる

私がマルシェに参加していた頃、半年に1度のペースで、ミーティング当日にメンバーがそれぞれの野菜セットを持ち寄り品評会を開催していました。ちょうどその頃は、野菜セットもネットで販売していましたので、送った野菜がどのような状態で届いているのかを知りたいために、前日に収穫し宅配便で送りました。
私を含めてメンバーは8人いましたので、一度に自分以外の7つの野菜セットをチェックできる楽しい機会でもありましたが、自分の野菜をチェックする人たちが同じ農家なので、緊張したのも覚えています。
農家の野菜セットといえども個性があり、野菜の種類や数、パッケージング、挨拶状や説明書、ダンボールのサイズやガムテープまで、それぞれの細かい工夫が参考になることが多く、帰りは自分以外のメンバーの野菜を持ち帰り、味のチェックもしました。野菜だけでなく、梱包に至るまで、「自分の立ち位置」を知ることは勉強になります。

品評会でメンバーの野菜セットをチェック

おいしい野菜を知る

農家は、それぞれの考え方で、栽培する品種や栽培方法を選び、利益を得るために良いものを作ろうと毎日努力しているはずです。そして、収穫し実際に食べていると思います。それが、おいしいか、まずいか、これはその人の主観なので他の人とは違います。例えば、今までにニンジンを1000本食べた人と100本食べた人では、ニンジンに対する経験値が10倍違います。100本の経験値の人がおいしいと認めても、1000本の経験値を持っている人が同じものをおいしいと感じるかはわかりません。味の経験値が違うからです。
また、品種の特性もありますので、生で食べるか加熱して食べるか、どちらに適しているかも違います。さらに言うと、自分で調理するか、シェフが調理するかによっても味に違いがでます。
自分が栽培した野菜を自分が売りたい価格で販売するには、その味の見極めができるかが重要なのです。
「自分の立ち位置」を知るために、畑で朝から晩までクタクタになるまで農作業をするのと同じくらい、味を知ることは大切なことなのです。

買った野菜を自分で調理して食べる

使い方、使われ方を知る

販売先によって、野菜の使われ方にも違いがでてきます。
例えばジャガイモ。消費者がお客の場合、自分が栽培したジャガイモをおいしく食べてもらうためには、その品種の特性を知らなければなりません。コロッケなどに向くホクホク系と煮崩れしないねっとり系、最近ではモチモチ系のジャガイモも見かけるようになりましたので、品種に合う料理の提案が必要です。その説明は、シールであったり、ポップであったり、口頭であったりと違いはあるかもしれませんが、しっかりと伝えることが重要です。
私の場合は、レストランが主な取引先ですので、同じジャガイモでもシェフによって使い方は違います。シェフと電話で話す機会があれば、どうやって使うかを聞きますし、食べに行くことによって、実際に料理となった野菜の形や味を知ることができます。

油との相性が良い品種のジャガイモ

時々、シェフが畑に見学に来ることもあります。そんな時は、絶好のチャンスです。畑で見てもらい、食べてもらうことで、サイズ感を聞くこともでき、調理法も聞くことができます。スープにするのであれば、虫食いなどは関係ありません。
使われ方を知ることができれば、「自分の野菜の立ち位置」を知ることができ、虫食いだからといって廃棄することなく販売につなげることもできるのです。

畑に見学に来たシェフ

最高のクオリティーに到達するために正しい努力や工夫を

「自分の立ち位置」を知るためには、やみくもに自分の野菜と向き合うだけではあまり意味がありません。自分で栽培したのですから、おいしいと思う気持ちはわかります。鮮度も良いので、時間が経過して販売されているものよりは見た目も良いかもしれません。トマトであれば、人気があって売れているトマトと比較しなければ、自分の立ち位置を知ることはできません。他と比較して、自分の販売先に合った努力や工夫をしっかりと見極めるようにしましょう。

トマトの味をチェック

おまけの虎の巻

自分の野菜の味の立ち位置を知るために、他の野菜と食べ比べをすると思います。スーパーの顔の見える野菜コーナーなどでは、近所の農家が出店していますので、同じ野菜がいくつも並んでいます。味の判断は主観なので好みはありますが、最低5種類ほど食べれば自分の味の順位がわかります。ついでに、見た目や鮮度、パッケージや価格も勉強してしまいましょう。

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