自分の畑の地形や日当たりを把握していますか
農家の仕事場となる畑の環境はそれぞれ違います。新規就農の場合、畑を借りる人も多いと思いますが、まずは1年間使ってみないとその畑を把握することができません。東西南北を確認し、日なたとなる場所、日かげとなる場所、日の当たる時間を知って、初めて作付け計画を作ることができます。これによって、栽培する品目を変更しなければならない場合もあります。比較的狭い畑を使っていることが多い少量多品目農家にとって、畑の地形を知ることは、売り上げに直結する大切なことなのです。
タケイファームは2つの畑(第1ファーム、第2ファーム)を使い野菜を栽培していますが、第1ファームは住宅街の中、第2ファームは隣が雑木林と、全く環境が違います。
タケイファームの売り上げの80%を占める第1ファームの面積は4反(約0.4ヘクタール)と狭く、しかも建物による影で季節と時間によっては日かげとなる時間も多く、冬になると作物が作れないエリアも出てきます。この環境で年間約140種類の野菜を露地で栽培し、レストランへ販売しているのですが、それを可能としている要因の一つは畑の地形を把握し、デメリットをメリットに変えているからなのです。
品目によっては日かげも利用できる
タケイファームの販売先はレストランですので、シェフのニーズに合う野菜を作る必要があります。例えば、ナスタチウム。6月から霜が降りる時期まで収穫が可能ですが、夏の暑さには弱いという弱点がありますので植えつける場所は畑の日かげです。
上の写真に写っている場所は冬の間はほとんど日が当たらず、作物が作れない場所なのですが、夏の時期には半日日かげとなり、暑さに弱い作物にとっては絶好の場所となります。
酷暑と闘わない畑の使い方
長年、露地栽培で野菜を栽培していることで、自然との付き合い方が変わってきました。夏の暑さに加え台風などの自然の猛威。農業を始めて10年ほどは、遮光ネットを使ったり、台風対策をしたり、お金と時間、それに伴う労働力を使い立ち向かっていましたが、ある時、人の力は自然の力には勝てないと悟りました。それからは、酷暑と闘わず、畑の環境や野菜の性質を有効に活用するようにしています。
暑さに強い野菜、弱い野菜を知る
自分の畑の環境を知った上で、どこに何を栽培するかが決まってきます。少量多品目農家は、年間を通して多くの品目を栽培していますが、そこで知っておきたいことは、暑さに強い野菜、弱い野菜です。例えば、白菜。冬ほどではありませんが夏にも需要はありますので、希少性を狙って戦略的に栽培する農家もいるのかもしれません。しかし、栽培する地域によって気温は違うものの、暑さに弱い野菜ですので、私からしてみれば夏に白菜を作るというのは「酷暑と闘う」ということになります。日本人の白菜のイメージは鍋。サラダ白菜は夏でも収穫可能ですが、夏のサラダのイメージはトマトやキュウリです。おすすめとしては、暑さに強い、トマト、キュウリ、ナス、オクラなど、夏野菜と呼ばれているものを栽培して「酷暑と闘わない」ことです。タケイファームの場合、夏野菜の中でも、レストランにも需要があり、それほど栽培に神経質にならず売り上げにつながる品種を選んでいます。
日光を必要とする野菜を知る
植物は「陽性植物」「半陰性植物」「陰性植物」に分けられます。夏の日差しを利用するのも「酷暑と闘わない」ことです。一般的に夏野菜と呼ばれているものは「陽性植物」に入ります。先ほどのナスタチウムのように暑さに弱いものも、畑の日かげを利用して暑さの負担を減らせばよいのです。
水を必要とする野菜を知る
畑の水回りも重要なポイントです。井戸がある畑は恵まれているといってよいでしょう。幸いにして、タケイファームの2つの畑には井戸があります。水を必要とする夏野菜は井戸の近くに植え付けることによって、酷暑の中での生育に大きな差が出てきます。
影を作る障害物を利用して風対策も
第1ファームは住宅街に囲まれています。建物の影響で日当たりが悪い場所があるのですが、建物が風を防いでくれます。ソルゴーなどで風よけをせずとも台風などの強風対策をすることができます。
酷暑と闘わず作業効率アップ
暑さを避けた作業時間
夏は日の出も早いので、朝早くから作業を始め、暑くなる日中は休憩時間を長くして、再び涼しくなった夕方から作業をする人も多いと思います。私も夏の間は朝5時くらいから畑に出てレストランへの出荷分の収穫を始めます。私が早い時間から農作業を始める理由は、暑さがつらくなるためではなく、収穫した野菜の鮮度が暑さによって低下するのを防ぐためです。暑さは野菜にとっても敵なのです。この時期は、農作業で使用している軽バンのエアコンは全開にして車内の温度を上げないようにしています。
暑さを避けた作業スタイル
夏の作業着は速乾性のシャツを着るように心がけています。私が着ているのはスポーツウエアブランドの長袖のインナーシャツです。夏でも長袖を着ている理由は、オクラの葉に肌が触れてかゆくなるのを防ぐためです。速乾性の素材は、汗を感じさせない着心地で作業効率も向上しています。
自分に与えられた条件を最大限に利用するための工夫を
野菜を作るうえで100%完璧な畑というものはなかなかありません。一年を通して、その畑のメリット、デメリットを知り、メリットはそのまま生かし、デメリットをも有効活用できるように、常に考えることが大切です。良い答えがでれば、資材を減らすことができるかもしれません。時間を別のことに使うことができるかもしれません。最終的に私は「酷暑と闘わない」という選択肢をとったことによって、一番良かったのはストレスが減ったことです。
酷暑の中でピーマンを収穫してカゴに入れていたところ、カゴに敷いてあった新聞紙が熱くなって傷んでしまったことがあります。せっかく育てたピーマンが私の不注意で売り物にならなくなってしまったのです。それ以来、収穫カゴは常に日かげに置くようにしています。畑の僅かな日かげを見つけてみてください。周りに日かげがないようであれば、自分の影で日かげを作りましょう。