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農業経営のトップランナーが集い商機をつかむ場所、食農連携機構を知っていますか

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

農業経営のトップランナーが集い商機をつかむ場所、食農連携機構を知っていますか

農業の構造変化が進んでいる。「もうからない」「継がせたくない」との嘆きが渦巻いていた時代は過去のものになり、起業家精神にあふれた人がたくさん挑むようになっている。そんな時代を切りひらいてきたトップランナーたちが集う組織がある。一般社団法人の日本食農連携機構(東京都千代田区)だ。

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農業経営者と需要サイドをつなぐ組織

日本食農連携機構は、農協の上部組織の農林中央金庫で副理事長を務めた増田陸奥夫(ますだ・むつお)さんが中心になり、2009年に設立された。
機構を立ち上げたとき、増田さんには二つの問題意識があった。

消費者はレストランや家庭でおいしい食事を楽しんでいるのに、誰がどうやって食材を作っているのかほとんど知らない。一方で農家は自らの収益には関心があるが、「需要側」が何を求めているのかあまり考えてこなかった。

ここでの需要側は消費者だけではなく、食品メーカーや外食、小売業者など農産物を扱う業界を広く指す。食農連携という言葉には、両者を結びつけることで、食に関わるすべての産業を活性化したいとの思いが込められている。

増田陸奥夫

日本食農連携機構の理事長の増田陸奥夫さん

会員数は2021年3月末で176。実需者にはヤオコーやバロー、東急ストア、ニチレイ、エスビー食品、カゴメなどが名を連ねる。特筆すべきは、農業側の顔ぶれだ。理事として運営に関わっている人の名前を挙げてみよう。

例えば、和郷園(千葉県香取市)の木内博一(きうち・ひろかず)さん。トップリバー(長野県北佐久郡御代田町)の嶋崎秀樹(しまざき・ひでき)さん。前田農産食品(北海道中川郡本別町)の前田茂雄(まえだ・しげお)さん。恵那川上屋(岐阜県恵那市)の鎌田真悟(かまた・しんご)さん。そして日本農業法人協会の会長で、こと京都(京都市)の山田敏之(やまだ・としゆき)さん。

どんな組織の誰が日本の農業を代表しているかは、さまざまな意見があるだろう。だがここで挙げた人たちが、農業界でかなり名の知られた経営者であるという点に異論のある人はそう多くないと思う。ほかにも、理事ではないのであえて名前は出さないが、有名な経営者がたくさん参加している。

機構の理事長の増田さんは農林中金時代から、農業の未来を担う農業法人の後押しに力を注いできた。その幅広い人脈が、組織の付加価値を高めるうえで決定的な意味を持った。農業界のトップランナーとも言うべき経営者たちが交流し、ビジネスチャンスを探る組織が日本食農連携機構なのだ。

機構のメンバー

機構に集う農業経営者たち。設立10周年の記念式典で(東京都千代田区の帝国ホテル)

懇親ではなくビジネスチャンスをつかむための場

活動の柱は、2カ月に1回のペースで会員向けに開くセミナーだ。農林水産省の幹部や研究者、食品関連企業の担当者、農業法人のトップなどが講師を務め、農業の最新動向についてさまざまな視点から解説。参加者はセミナー後の懇親会も利用して人脈を広げ、新たなビジネスチャンスをつかんできた。

一方、会員でなくても参加できる活動もある。その一つが「東北食農塾」だ。主に東北地方の農家が集まり、東北の農業が抱える課題やその解決策について意見交換する。参加費は無料。2020年1月に仙台市で開いた第1回会合では、人材の確保や物流の効率化などをテーマに約20人が議論した。

特徴はセミナーと同様、単なる懇親の場ではなく、実際にビジネスに生かすのを目標にしている点にある。第1回の会合後、相互に農場を視察したり、合同でスタッフの研修会を開いたりするなど、経営の改善に具体的な動きが始まっている。機構が促したのではなく、農家による自発的な動きだ。

第2回の会合は2021年1月にオンライン形式で開いた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で活動に一定の制約はかかっているが、会合で得たネットワークをどう生かすかは農家の意欲次第。2022年に3回目を開く予定だ。

東北食農塾

第1回の東北食農塾の様子

7月には新たな取り組みも始める。株式会社の「日本食農連携ビジネス」を設立し、農業経営者を対象にしたコンサルティングに乗り出す。
最大の目玉は、こと京都の山田さんや和郷園の木内さんが運営に参加し、農家とじかに接してアドバイスする点にある。2人は「自分たちの経験を生かし、伸び悩んでいる経営者たちの背中を押したい」と意気込んでいる。

他の多くの業界と違い、農業は企業的な経営手法を確立するための歩みの途上にある。いまもそのプロセスの中心にいる2人が助言役を務めることで、課題を共有しながら解決策を探る効果を期待できる。その先の細かいアドバイスは機構のスタッフや、機構と協力関係にある農林中金が受け持つ。

コンサルタント料は、実際に売り上げが増えた金額などをもとに算出する案を検討している。農業関係者にはまだ有償で指導を受けることに慣れていない人が多いため、成功報酬にしたほうがいいと判断した。このあたりも、現役の農業法人が主導するプロジェクトらしいアイデアと言えるだろう。

山田敏之

こと京都の山田敏之さん

トップランナーたちを集めた理事長の先見の明

機構の理事長の増田さんと筆者が初めて会ったのは、バブル経済の崩壊による金融危機の前夜の1995年。大手銀行や農協が大量の資金を貸し込んでいた住宅関連のノンバンクの経営が悪化し、どう処理するかが焦点になっていた。このとき、農林中金の広報室にいたのが増田さんだった。

いまとは違い、当時の農協グループは一般メディアの取材に前向きに応える姿勢に欠けていた。だが巨額の不良債権処理に直面するという危機的な状況の中で、増田さんは積極的に情報を開示し、農協グループが置かれている状況への理解を求めた。広報マンのお手本と言うべきメディア対応だった。

マーク

日本食農連携機構のロゴマーク

農協関連の不良債権処理という緊迫したテーマの後、筆者はかなり長い間、農業取材から遠ざかっていた。次に増田さんに会ったのは2008年ごろ。すでに農林中金の副理事長を退任し、機構の設立に向けて準備を進めていた。
「これから成長していく農業法人を応援したい」。増田さんは当時そう語った。長年農業に関わってきた人間として、本当にやりたい仕事が見つかったという確信に満ちた言葉だった。

すでに法人化する農家は増え始めていたが、いまほどメジャーな存在ではなく、増田さんの古巣の農協とも微妙な関係にあった。機構に集まった経営者たちのその後の発展ぶりを見ると、増田さんの先見の明に驚かされる。

では、いまから伸びようとする農家にとって、機構はどんな役割を果たすのだろうか。その問いに答えを出すことができるのは、当事者である農家自身。トップランナーたちと、次代を担う経営者の今後の連携に注目したい。

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「食と農」の現場を日々取材する記者が、田畑、流通、スマート農業、人気レストランなどからこれからの農業経営のヒントを探ります。
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