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競輪選手から日本最南端の養蜂家へ転身。運命を変えた石垣島への移住

競輪選手から日本最南端の養蜂家へ転身。運命を変えた石垣島への移住

全国の農家を渡り歩いているフリーランス農家のコバマツです。今回訪れたのは石垣島で養蜂家として新規就農した枝並(えなみ)さん夫妻。夫の畝日(うねび)さんは元競輪選手という異色の経歴の持ち主で、石垣島に移住して養蜂を始めたそうです。どうしてプロのスポーツ選手から転身し、参入が難しいとされている養蜂家となったのか? しかもどうしてわざわざ、石垣島で?
未経験からの就農にもかかわらず、養蜂家としての営農を成り立たせたその秘訣(ひけつ)についてインタビューしてきました。

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石垣島での養蜂の現状

沖縄県は、ミツバチの飼育数がなんと全国1位! 女王バチ1匹が引き連れるミツバチの集団「蜂群(ほうぐん)」の数で2019年にトップとなりました。
年中温暖な気候は、ハチ達が過ごすのにも適した環境のようです。
石垣島で養蜂の現状 ミツバチ

沖縄県のまとめでも、県内生産者は2010年の71人から2019年には196人と、10年で2.7倍になっています。
中でも、ハチミツ用としてではなく、ビニールハウスの中で野菜や果樹の授粉に使う交配用のミツバチの生産が盛んになってきているようです。

養蜂家達は、専業ではなく、他にも野菜や果樹を育てていて兼業でハチを育てている人がほとんどです。
そんな中、専業の養蜂家として石垣島で新規就農したという枝並さん。石垣島内には、現在6軒の養蜂家がいますが、専業でやっているのは枝並さんただ1軒だそうです。

沖縄で増えつつある養蜂家として専業で新規参入した枝並さんにお話を聞いていきたいと思います。

■枝並畝日さん、由香(ゆか)さんプロフィール

石垣島で養蜂の現状 ミツバチ榎並さんプロフィール 夫の畝日さんは東京出身。19歳で競輪選手としてデビューし45歳まで現役で活躍。スポーツ選手として日々体づくりを意識していたこともあり、食への意識は高かった。
両親や娘そして妻が立て続けに病気になってしまったことから健康への意識が強くなり、「安心安全な食べ物を自分達で作ろう」という意識が芽生え、養蜂家として石垣島で新規就農。2012年に株式会社石垣島はちみつを設立した。
妻の由香さんも東京出身。自分自身が体調を崩してしまった経験もあり、食や健康を強く意識し始めるようになり、畝日さんと共に石垣島はちみつを運営する。
主に販売や商品開発、情報発信を担当する。自分たちのこだわりのハチミツと、島の薬草やハーブなどの自然の恵みを生かした商品作りを行い、多くの人に手にとってもらうことが目標。

枝並さんが養蜂を始めるまで

コバマツ

枝並さん、東京出身で元はプロのスポーツ選手だったそうですね!!
はい、19歳から45歳まで26年間、競輪の選手をしていました。

枝並さん

石垣島で養蜂の現状 ミツバチ江並さん競輪選手時代

養蜂家になるまでは、全国を転戦して2035回出走し、競輪レース優勝34回、1着は341回の好成績を残す競輪選手だった

コバマツ

枝並さんはどうして石垣島に移住してきたのでしょうか?
関東に住んでいたころ、家族が次々に体調を崩してしまったことから、主治医の先生に「暖かい気候の地域に移住した方が良い」と勧められて石垣島を選び、39歳で移住しました。
実は移住してきてからも5年は競輪選手を続けていたんです。

枝並さん

コバマツ

最初は農業をする目的で石垣島に移住してきたわけじゃないんですね!
移住してきた当初は、仕事もまだ何をするか決めていませんでした(笑)。
40代になり、いよいよ引退を考え始めて。じゃあ石垣島でどんな仕事をしたいかと考えるようになりました。

枝並さん

コバマツ

移住してから、仕事を考えたんですね! 競輪選手から農業って全くの異業種ですが、何がきっかけだったんでしょうか?
両親が病気で亡くなったり、娘も生まれて病気が発覚したりということが続き、食や健康への意識が強くなっていったんです。
石垣島に移住してくる以前から妻も体を悪くして、自分で安心安全な食べ物を作りたいと考えるようになりました。

枝並さん

コバマツ

でも、生産者になるといえば、養蜂以外にも選択肢は多くあると思うんですけど、どうして養蜂を選んだんですか? 養蜂で新規就農という人、初めて会いました!
体力勝負のアスリートだった私は、いわゆる健康オタク。競輪選手のときから、天然のサプリメントとしてハチミツを摂取していて。そんな、栄養バランスが良くて健康増進にも役立つハチミツに着目しました。
さらに、世界的にミツバチが激減していることを知り、丈夫で健康なミツバチを自分たちで育てたいと思うようになり、養蜂の道に入りました。

枝並さん

コバマツ

ハチミツの効能と、環境問題に着目して始めたんですね!
養蜂で新規就農って、どんな手順で進めていくのでしょうか……?
まずは蜂箱を置かせてもらう場所探しからですね。次に、県の畜産課に蜜蜂飼育届を提出して、受理されたら、ようやくハチの飼育を始めます。ハチは巣箱から2キロ先まで飛んで花粉を集めてきます。私たちは無農薬の花の花粉をエサにしたハチからハチミツを採取したかったので、巣箱の近くで農薬をまいていない土地を探すことから始まりました。

枝並さん

コバマツ

そんなに飛ぶんですね! 農薬がまかれていない土地を探すの、大変そうですね。
最初のころは蜂箱を置く場所の選定がうまくできず、一つの蜂箱の5万円の日本ミツバチたちが、農薬にやられて死んでしまったり、大きな台風で巣箱が20箱くらい飛ばされたこともありましたね。

枝並さん

コバマツ

養蜂ってそんなリスクもあるんですね……。
でも、石垣島で生活していくうちに、地域の人から無農薬で果物や野菜を作っている農家を紹介していただき、少しづつ養蜂場を増やしていくことができました。島の人たちの協力もあり、そのような失敗も無くなっていって、なんとか軌道に乗っていきました。

枝並さん

コバマツ

地域の方たちも温かく受け入れてくれたんですね! 養蜂の技術も地域の養蜂家から学んだのでしょうか?
もちろん、石垣島の養蜂家から学ぶこともありますが、ほぼ独学です。うちは、「強く健康なミツバチを育てること」
「安心安全な食べ物を作ること」
に特にこだわっています。

抗生物質の入ったエサを使わなくてもハチが健康で過ごし続けることができる環境づくりや、混ぜ蜜(※)をせずに、加熱していない生のハチミツを提供する方法など、こだわりたい部分は独学で作りあげてきました。

枝並さん

※ ハチミツに別の糖類や甘味料などを加えること。

江並さんが養蜂を始めるまで 蜂の巣を点検する江並さん

こまめにハチ達の様子をチェックする枝並さん


江並さんが養蜂を始めるまで 蜂の巣 蜂群

害虫が発生していないか、ハチ達が元気に活動しているか確認する

コバマツ

素人の質問なんですが、ほとんどの養蜂って抗生物質を使っているんですね……。
ダニなどの害虫が発生してハチたちが弱っていってしまわないために薬を使うんです。
私はどうしたら薬を使わずに済むのかを研究しました。試行錯誤の結果、薬を使わずに健康で強いミツバチを増やすことに成功しました。

枝並さん

コバマツ

あと、市販されるハチミツに加熱しているものが多いというのはどうしてですか?
うちは非加熱処理ですが、加熱処理をするのは水分を飛ばすためです。通常、ハチの巣に蜜がたまったらハチが羽を羽ばたかせてハチミツの水分を飛ばすんですよ。ハチの羽で乾かすのは時間がかかるのと、もう一つはビン詰めしやすくするために加熱しているのではないでしょうか。

枝並さん

コバマツ

自然のハチミツはハチが羽を羽ばたかせて乾かすのですね!
ハチ達もそんなに手間ひまかけてハチミツを作っているなんて……。知らなかった。ハチさんありがとう。
そんなこだわりのハチミツ作り、生産から販売まで、最初からうまくいったことばかりではないと思うのですが、どのように軌道に乗せていったのでしょうか?
当初はハチミツの生産だけだったので、初年度は年商4万円なんてこともありました(笑)。その後交配用のハチの飼育を始めて、いまでは県外へミツバチの出荷を始めたことをきっかけに、経営が軌道に乗り始めました。現在は石垣島6カ所、竹富島1カ所の蜂場でミツバチを飼育しています。

枝並さん

コバマツ

ハチミツだけではなく、出荷用のハチの飼育もして経営を軌道に乗せていったんですね!
枝並さんの、ハチミツとミツバチの蜂群はどこに向けて販売されているのでしょうか?
ハチミツは、石垣島はちみつのオンラインショップでの販売はもちろん、石垣島のセレクトショップや飲食店、ホテルなどでも使っていただいたり、販売されていたりいます。その他、関東、関西、東北、など少しづつ卸先が増えてきています。
蜂群は全国に、販売していますよ。

枝並さん

江並さんが養蜂を始めるまで 蜂箱

野菜や果物の授粉用のハチとして出荷される蜂箱

コバマツ

大人気じゃないですか! どんな宣伝をしたんですか?
実は初め、ほとんど宣伝は行っていませんでした。島内限定販売からスタートしたところ、天然のハチミツを求めるお客様が徐々に増え、観光客、島外へと口コミで広がっていきました。本当にありがたいことです。
おかげ様で今は1年経たずに完売してしまうほどになりました。

枝並さん

コバマツ

希少性が高いからこそ、食にこだわりを持っている人たちの間で広まっていったんですね!
そうだ、コバマツさん、せっかくなのでハチミツ味見してみてください!

枝並さん

コバマツ

え、いいんですか! ぜひいただきたいです!
江並さんが養蜂を始めるまで ハチミツ商品

石垣はちみつのハチミツ商品

江並さんが養蜂を始めるまで ハチミツ スプーン

貴重な純粋ハチミツ

江並さんが養蜂を始めるまで コバマツ ハチミツ試食

早速いただきます

コバマツ

すごく香りが良くて、優しい甘さですね! ハチミツってのどが“イガつく”のですが、それがない!!
自然そのものの味は人が作り出すことのできない、香りと味わいだと思います。のどが痛いときになめるという方もいらっしゃるほど、優しい味で好評です!

枝並さん

6次化の工夫

コバマツ

販売や商品開発は、由香さんがしているそうですね!
はい、今はハチミツを使ったコスメの開発や加工品作りをしています。
ハチミツを使った、美容ローションや石けん、蜜ろうバームなどを石垣島の化粧品会社と試行錯誤して開発しました。

由香さん

6次化 化粧品 ローション

ハチミツを使って開発した化粧水。島産のハーブとアロマ精油を使用

6次化 化粧品 蜜ろう

蜜ろうバーム。島のパッションフルーツの種を圧搾法で抽出したオイルを使用している

コバマツ

こだわりのハチミツで作った化粧品達、すごくお肌に良さそう!
口にするものだけではなく、肌から吸収する化粧品も余計なものを使わないものを作りたかったことと、また、自分自身も肌が弱いという理由から、開発しました。こちらの方も肌にトラブルを持っている方からもリピートいただき、多くの方に喜ばれています。
最近ではハチミツのお酒、ミードの商品開発も行いました。

由香さん

6次化 ミード

ハチミツとお水だけで造った醸造酒。ワインなどよりも古く、1万年以上前からあったとされる人類最古のお酒

コバマツ

加工品はどのようなきっかけで始めたのでしょうか? なにか狙いがあったのでしょうか?
沖縄の企業のハチミツ好きの方よりご縁をいただき、ミードを作る機会をいただきました。その古い歴史とお酒のストーリーに感動し、なんとかしてこのこだわりのハチミツで、沖縄からミードを誕生させることはできないかと考えたんです。化粧品は自分で企業に売り込んで商品開発へとこぎつけました。

由香さん

コバマツ

お酒は特別な発信やブランディングを行ったわけではなく、天然に近いハチミツ作りを行った結果、お誘いを受けたんですね!

移住してその地で根を張るということ

関東で競輪選手として長年活躍してきた枝並さん。
知らない土地で、未経験の職業を独立して行うことの大変さを経験してきましたが、やはり地域の人達が温かく受け入れてくれたことが大きいようです。

蜂箱を近所の農家の畑に置かせてもらうときも、
「畑に人が出入りしてくれた方が防犯になる。
外から来てくれた人が挑戦してくれるのは、島の活気にもなるからありがたいこと」
そんな温かい言葉を多くもらったそうです。

地域に入っていくのは難しそう、受け入れられないのではないかという固定観念をなくして踏み出すことが大切なのではと枝並さんのお話を聞き思いました。

石垣島でハチが育ちやすいのは、暖かい気候だけではなく、人を受け入れて応援する石垣島の人々の温かさも影響しているのではないかと感じたコバマツでした。

その土地で根を張ること 江並さん

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