農地の相続税はどう決まる? 農地の相続税評価方法
農地の相続税は、法律上で定められた四つの区分により、それぞれ異なる方法で評価されます。
ここでは、農地の相続税評価額を決める区分と評価方法、固定資産税評価額との違いについて解説します。
農地の相続税評価額を決める四つの区分
農地の相続税評価額を求めるには、まず以下四つの区分のうち、相続した農地がどこに分類されるか確認する必要があります。
- 純農地:宅地の影響を受けない農地にある農地
- 中間農地:市街地近郊にある農地
- 市街地農地:市街化区域内にある農地
- 市街地周辺農地:市街化傾向の強い地域にある農地
農地区分は国税庁「路線価図・評価倍率表」の評価倍率表から、都道府県・地域ごとに確認可能です。純農地は「純」、中間農地は「中」、市街地農地は「比准(市比准)」、市街地周辺農地は「周比准」と記載されています。
以下からは、4区分それぞれの相続税評価方法を見ていきます。具体的なシミュレーションもしていますので、ぜひ参考にしてください。
【純農地・中間農地の評価方法】
純農地と中間農地の相続税評価額は「倍率方式」で求められます。
<倍率方式の計算式>
純農地・中間農地の相続税評価額 = 固定資産税評価額 ✕ 評価倍率
たとえば、相続した農地が固定資産税評価額400万円、評価倍率2.5倍だった場合、計算式は「400万円 ✕ 2.5倍 = 1000万円」。したがって、この農地の相続税評価額は1000万円となります。
なお、固定資産税評価額は、毎年交付される固定資産税納付書に記載されており、評価倍率は国税庁「路線価図・評価倍率表」から地域・地目ごとに確認可能です。
【市街地農地の評価方法】
市街地農地の相続税評価額は「宅地比準方式」または「倍率方式」で求められます。
倍率方式は純農地・中間農地と同じですので、ここでは宅地比準方式での評価方法を見ていきましょう。
<宅地比準方式の計算式>
市街地農地の相続税評価額=(農地を宅地とした場合の1平方メートルあたりの金額 − 1平方メートルあたりの造成費)× 面積
たとえば、宅地とした場合の金額が1平方メートルあたり10万円、造成費が1平方メートルあたり2万円、面積が1000平方メートルだった場合、計算式は「(10万円 − 2万円)✕ 500平方メートル = 4000万円」。したがって、この農地の相続税評価額は4000万円となります。
なお「農地を宅地とした場合の1平方メートルあたりの金額」は、農地が路線価地域にある場合は「路線価 ✕ 画地調整率」、倍率地域にある場合は「近隣宅地の固定資産税評価額 ✕ 宅地の評価倍率 ✕ 画地調整率」で求められます。
また「1平方メートルあたりの造成費」は、国税庁「路線価図・評価倍率表」から地域ごとに確認可能です。
【市街地周辺農地の評価方法】
市街地周辺農地の相続税評価額は「市街地農地として評価した場合の80%」とされています。
<計算式>
市街地周辺農地の相続税評価額 = 市街地農地とした場合の評価額 ✕ 80%
たとえば、市街地農地とした場合の評価額が4000万円だった場合、計算式は「4000万円 ✕ 80% = 3200万円」。したがって、この農地の相続税評価額は3200万円となります。
なお「市街地農地とした場合の評価額」には、上述した市街地農地の評価方法で算出した金額をそのまま用います。
固定資産税評価額と相続税評価額の違い
農地など不動産の評価では、固定資産税評価額や相続税評価額が用いられます。
固定資産税評価額は、主に固定資産税の計算に用いられるもので市町村が算出し、相続税評価額は、主に贈与税や相続税の計算に用いられるもので国税庁が算出します。
固定資産税評価額は、全ての不動産を調査する必要があるため、評価替えがおこなわれるのは3年に1回となります。そのため、納税者間の不公平をなくすために時価の70%程度を目安に算出されます。
一方で相続税評価額は、道路に面する土地の面積や形に応じて価格を算出しており、その価格を「相続税路線価」と呼びます。
相続税路線価は1年に1回発表され、こちらも納税者間の不公平をなくすため時価の80%程度を目安に算出されます。
このように、固定資産税評価額よりも相続税評価額のほうが高くなるケースが多いことを覚えておきましょう。
実際にかかる相続税の計算方法
そもそも相続税とは、相続によって取得する全ての相続財産に対して課される税金です。
そのため、具体的な相続税を算出するには、農地だけでなく、全ての相続財産の評価額を求める必要があるのです。
ここでは、実際にかかる相続税の計算方法を解説します。具体的なシミュレーションもしていますので、ぜひ一緒に計算してみてください。
まずは相続税が発生するか確認しよう
具体的な計算方法を見る前に、まずは相続税が発生するかを確認しましょう。
というのも、相続税には課税されないボーダーラインとして基礎控除が定められており、相続財産の総額が「3000万円 +(法定相続人の数×600万円)」に満たない場合、相続税の申告は不要だからです。
実際、国税庁が公表している「令和4年分 相続税の申告実績の概要」によると、相続税が課税されているのは相続人全体の9.6%ほどとされています。
そのため、まずは相続財産全体の評価額を算出し、相続税が発生するのかを確認しておきましょう。
相続税の計算シミュレーション
それでは、具体的にどの程度の相続税がかかるのか「被相続人に妻と子2人がおり、1億円分の相続財産があるケース」で考えてみましょう。
まずは農地を含めた相続財産すべての金額を算出し、そこから基礎控除額を差し引きます。
今回のケースでは法定相続人は3人なので、基礎控除額は以下の額になります。
3000万円 + 600万円 × 3 = 4800万円
1億円から基礎控除額4800万円を差し引いた5200万円が、相続税の課税対象です。
次に相続税の総額を計算しますが、ここでは実際の分割割合ではなく、法定相続分に応じて各人の相続税額を計算します。なお、法定相続分は以下のとおりです。
今回のケースでは、まず妻が2分の1の遺産を受け取ります。その後、子が2人いるので、残った2分の1の遺産を子2人で分けることになるため、それぞれの取り分は4分の1となります。計算式は以下のとおりです。
妻: 5200万円 × 1/2 = 2600万円
子(2人): 5200万円 ✕ 1/4 = 1300万円
各自の相続額を算出後、以下の速算表を用いてそれぞれの相続税額を計算します。
今回の場合、以下の計算式となります。
妻: 2600万円 ✕ 15%(税率) - 50万円 = 340万円
子(2人): 1300万円 ✕ 15%(税率) - 50万円 = 145万円
これらを足し算すると、相続税の総額は以下のようになります。
340万円 + 145万円 + 145万円 = 630万円
そして最後に、相続税の総額を実際の分割割合に応じて分割します。法定相続分のとおりに相続する場合は先ほどの税額になりますが、配偶者が相続せず、子2人で等分するケースでは「630万円 ÷ 2 = 315万円」ずつ納税する必要があります。
農地の相続税を減額できるケース5選
ここまで、農地相続税の評価方法や相続税の計算方法を見てきましたが、市街地農地や市街地周辺農地の相続税評価額は、宅地と同程度に高くなることが予想されます。
しかし、農地は国の自給率にかかわる大切な土地のため、さまざまな減額評価制度が設けられています。
ここでは、農地の相続税評価額を減額できる、以下五つの制度について詳しく解説します。
- 宅地造成費の控除
- 貸付農地の減額
- 市街地周辺農地の減額
- 広大な農地の減額
- 生産緑地の減額
宅地造成費の控除
宅地造成費とは、地目が宅地ではない土地を宅地にするためにかかる工事費用のことです。
宅地造成費控除は、相続する農地や土地が宅地比準方式で評価される場合に利用できるもので、農地の相続税を決める際に「農地を宅地であるとした場合の価格から、宅地造成費を控除して評価できる」という制度です。
整地や土盛りなどを行うための費用が控除対象となるため、相続した農地が宅地比準方式によって評価額を算定できるか確認しておきましょう。
なお、1平方メートルあたりの宅地造成費は、国税庁「路線価図・評価倍率表」で確認できます。
貸し付け農地の減額
耕作権や永小作権、賃貸借によって貸し付けている農地や土地は、その貸付割合に応じて減額が適用されます。
これは、農地の所有者は他人に貸している農地を自由に使用できないからです。貸し付けている農地を相続した場合は、減額が適用されるかどうかを確認しましょう。
市街地周辺農地の減額
市街地周辺農地に分類される農地は「市街地農地として計算した場合の80%」で評価されます。
そのため、相続した農地が市街地周辺農地に分類されているだけで、納税額が20%抑えられます。
広大な農地の減額
三大都市圏では500平方メートル以上、それ以外の地域では1000平方メートル以上の広大な農地は、一定の要件を満たした場合に減額評価を受けられます。
生産緑地の減額
生産緑地とは、30年間農業経営を続けることを条件に、固定資産税額の軽減を受けられる市街化区域農地のことです。
相続した農地が生産緑地に該当する場合、一定の条件を満たすことで減額評価を受けられることがあります。
なお、相続した農地に相続税の減額制度や節税対策を適用できるかは非常にわかりにくく、専門家ではない一般個人が判断するのは困難なため、その道の専門家に相談することをおすすめします。
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農地の相続税は「相続税納税猶予の特例」で節税可能
農地の相続税が想定より高く、税金の支払いに困った際は「相続税納税猶予の特例」の活用を検討しましょう。
相続税納税猶予の特例とは、農業を営んでいた被相続人から農地を相続した相続人が、一定の要件を満たした場合に相続税の納税猶予を受けられる制度です。
農地が被相続人から相続人に引き継がれるにあたり、多額の税金が課されることが原因で農地が放棄されることを防ぐための制度と言えます。
ここからは、相続税納税猶予の特例に関する、以下の3点について詳しく見ていきましょう。
- 相続税納税猶予の適用要件
- 相続税納税猶予の手続き方法
- 納税猶予される税額の計算方法
相続税納税猶予の適用要件
相続税納税猶予の特例を受けるためには、「被相続人」「相続人」「農地」ごとに、以下要件➀~➂のいずれかに該当している必要があります。
被相続人の要件 | ➀死亡の日まで農業を営んでいた者 ➁生前一括贈与(贈与税納税猶予)をした者 ➂死亡の日まで特定貸付けまたは認定都市農地貸付け等をしていた者 |
相続人の要件 | ➀相続税の申告期限(相続開始から10カ月以内)までに農業経営を開始し、引き続き農業経営を行う者 ➁生前一括贈与(贈与税納税猶予)を受けた者 ➂相続税の申告期限までに特定貸付け、または認定都市農地貸付け等を行った者 |
農地の要件 | 被相続人が営農していた、または特定貸付け・認定都市農地貸付け等を行っていた農地で、以下のいずれかに該当する農地 ①相続により取得したもので遺産分割がされている農地 ②贈与税納税猶予の対象となっていた農地 ③相続の年に被相続人から生前一括贈与を受けた農地 |
被相続人は、亡くなった後にのこされる農地を相続人に相続させるか、生前に贈与しておく必要があります。そして、農地を相続した相続人は、引き続き営農を続けなければなりません。
また、相続税の申告期限(相続開始を知った日から10カ月以内)までに遺産分割が終了していなければならない点にも注意が必要です。
相続税納税猶予の手続き方法
相続税納税猶予の特例を受けるためには、相続開始を知った日から10カ月以内に、以下の必要書類をそろえて相続税の申告を済ませる必要があります。
- 被相続人及び相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書または遺言書
- 相続人全員の印鑑証明書
- 相続税の納税猶予に関する適格者証明書
- 担保提供関係書類
また、納税猶予期間中は申告期限から3カ月ごとに、猶予の継続を希望する旨を、税務署に届け出なければなりません。
途中で宅地に転用して営農を中止する場合は、猶予されていた相続税だけでなく、猶予期間中の利子税も発生するため注意が必要です。
納税猶予される税額の計算方法
相続税納税猶予の特例によって猶予される税額は、以下のように計算します。
- (A)通常の方法で相続税額を計算する
- (B)農業投資価格で評価した場合の相続税額を計算する
- (A)と(B)の差額について、納税が猶予される
たとえば通常の評価が1億円、農業投資価格が500万円だった場合は、以下のように計算します。
※農地以外に相続財産がなく、妻と子2人がいる場合
(A): 1億円 -( 3000万円 + 600万円 × 3人 )= 5200万円
相続税の総額 = 5200万円 × 30% - 700万円 = 860万円
(B): 500万円 - 5200万円 = 0円以下
相続税の総額 = 0円
納税猶予額 =(A)860万円 -(B)0円 = 860万円
なお、農業投資価格とは、農地が恒久的に農業に使用される前提で売買が成立する価格のことです。国税局長によって毎年決定されており、国税庁「路線価図・評価倍率表」から確認可能です。
農地の相続税納税猶予を受ける際のポイント・注意点
相続税納税猶予の特例は、節税効果が非常に高いため、農地を相続して営農を続ける場合は、積極的に活用したい制度です。
ここでは、相続税納税猶予の特例を利用する際に、知っておきたいポイントと注意点をそれぞれ紹介します。
- 農地の相続税納税猶予額が免除されるケース
- 農地の相続税納税猶予が終了してしまうケース
農地の相続税納税猶予額が免除されるケース
相続税納税猶予を適用している期間中、以下のようなケースに該当する場合は、納税猶予を受けた税額が免除されます。
- 相続人が死亡した場合
- 相続人が該当の農地を後継者に一括贈与した場合
- 20年間営農を継続した場合(ただし一定の要件あり)
原則として相続税納税猶予の特例を利用した農地は、相続人が営農を続ける必要がありますが、相続人が死亡した場合や後継者に一括贈与した場合は納税猶予が免除されます。
20年間営農を継続した場合も免除されますが、こちらは「三大都市圏の特定市以外かつ、生産緑地地区以外」であることが条件のため注意が必要です。
農地の相続税納税猶予が終了してしまうケース
相続税納税猶予を受けている間、以下のようなケースに該当すると納税猶予が打ち切られてしまいます。
- 納税猶予を受けた農地での営農をやめた
- 3年ごとの継続届出書を提出しなかった
上記のケースでは猶予を受けた相続税全額に加え、利子税も支払わなければなりません。
なお、生産緑地で納税猶予を受けた場合、買取の申出によっても納税猶予が終了します。
相続した農地の売却時にかかる税金は?
ここからは、相続後に農地を売却した場合にかかる以下三つの税金について解説します。
- 登録免許税
- 印紙税
- 譲渡所得税
相続後に農地の売却を考えている方は、かならず把握しておきましょう。
登録免許税
登録免許税とは、農地など不動産の所有権を移転した際の登記手続きにかかる税金です。
相続によって所有権移転登記をした場合、登録免許税は「固定資産税評価額 × 0.4%」ですが、売買によって所有権移転登記した場合は「固定資産税評価額 × 2.0%」がかかります。
たとえば、固定資産税評価額500万円の農地を売買したケースでは、「500万円 × 2.0% = 10万円」の登録免許税が課税されます。
なお、登録免許税は買い主が負担するのが一般的ですが、場合によっては買い主・売り主両者の連帯納付になることもあるため注意しておきましょう。
参考文献:国税庁「登録免許税の税額表」
印紙税
印紙税とは、不動産の売買に伴い、契約書や領収書などの文書を作成した場合に課される税金です。
農地では、主に売買契約書に課税され、具体的な税額は契約金額によって以下のように異なります。
契約金額 | 税額 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
10万円以下 | 200円 |
10万超〜50万円以下 | 400円 |
50万円超〜100万円以下 | 1000円 |
100万円超〜500万円以下 | 2000円 |
500万円超~1000万円以下 | 1万円 |
なお、印紙税額は文書によっても異なります。詳しく知りたい方は、以下の国税庁HPを参考にしてください。
参考文献:国税庁「印紙税額の一覧表(その1)第1号文書から第4号文書まで」
譲渡所得税(所得税・住民税)
譲渡所得税とは、農地などの不動産を売却し、利益が発生した場合にかかる所得税と住民税のことを指します。
譲渡所得税の計算式は以下のとおりです。まず(A)で譲渡所得金額を求め、それをもとに(B)で具体的な税額を算出します。
【譲渡所得税の計算式】
(A):譲渡所得金額 = 譲渡による収入金額 −(取得費 + 譲渡費用)
(B-1):取得後5年以降の売却
譲渡所得税額 = 譲渡所得金額 ✕(所得税15% + 住民税5%)
(B-2):取得後5年以内の売却
譲渡所得税額 = 譲渡所得金額 ✕(所得税30% + 住民税9%)
たとえば、取得費200万円、譲渡費用100万円の農地を1000万円で売却した場合、譲渡所得金額は「1000万円 −(200万円 + 100万円)=700万円」となります。
その後5年以内に売却した場合、計算式は「700万円 ✕(所得税30% + 住民税9%)=273万円」となり、このケースでは273万円の譲渡所得税がかかります。
参考文献:農林水産省「農地を売った場合の税金」
農地の相続税は節税可能! 専門家に相談して早めの対策を
本記事では、農地相続時にかかる相続税の評価方法や計算方法、節税対策などについて解説しました。
相続人が営農を続ける場合は納税猶予の特例の適用を受けることをおすすめしますが、途中で営農をやめた場合は相続税と利子税を納めなければなりません。
将来営農をやめる可能性がある場合は、特例の適用を受けずに減額評価制度を利用することも検討すべきでしょう。
とはいえ、相続税の具体的な試算や節税対策の適用可否は非常にわかりにくく、税金の知識を持たない方が適切な判断をするのは難しいのが現実です。
そのため、税金の専門家である税理士に相談し、正確な相続税評価を試算してもらうことをおすすめします。
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