日本の消費量は世界の0.5%に過ぎず
JA全農は年2回、春肥と秋肥の価格を発表する。農林水産省によると、JA全農を通じて流通する肥料は全体の55%を占める。そのためJA全農は国内の肥料のプライスリーダーと言ってよく、発表する価格は国内流通の指標になる。
表を見てほしい。2021年の秋肥単肥価格は、据え置きとなった石灰窒素を除き、すべて値上げとなった。価格の変更は、基本的に2021年6月から適用される。
分 類 | 品 目 | 成 分 (%) |
前期比(%)(春肥対比) | |
単
肥 |
窒素質 | 尿素(輸入) | 46 | 24.0 |
尿素(国産) | 46 | 12.1 | ||
硫安(粉) | 21 | 10.4 | ||
石灰窒素 | 21 | 0.0 | ||
りん酸質 | 過石 | 17 | 5.3 | |
重焼りん | 35 | 5.3 | ||
加里質 | 塩化加里 | 60 | 8.4 | |
けい酸加里 | 20 | 2.7 |
※ 価格変動率はJA全農の県JA・経済連向け供給価格ベースであり、JA・農家向け供給価格の変動率とは一致しません。
※ 適用開始:2021(令和3)年6月から(地域・作物により異なる場合があります)
農家の経営費に占める肥料代は、平均すると7%、31万1000円(2018年、農水省調べ)だ。畑作だと16%、99万円になる。数%~20%を超える肥料の値上げは、少なくない農家にとって懐が痛い問題だ。
化学肥料の値上げの主な理由は、原料の国際相場の上昇だ。日本で肥料の需要は減っているものの、世界に目を向けると、特に発展途上国で需要が増えている。日本の肥料消費量は世界の0.5%(2018年)に過ぎないので、肥料の消費大国の影響を受けてしまう。なお、上位5カ国は消費の多い順に、中国、インド、米国、ブラジル、インドネシアだ。
穀物の相場高とインドの需要増
肥料の三要素は窒素、リン酸、カリだ。それぞれの肥料の原料となる尿素、りん安、塩化カリのいずれの値上がりにも影響しているものが、二つある。コメ、小麦、トウモロコシ、大豆といった穀物の国際相場の値上がりと、インドの動向だ。
※ 小麦、とうもろこし、大豆は、シカゴ商品取引所の各月第1金曜日の期近終値の価格。コメは、タイ国家貿易取引委員会公表による各月第1水曜日のタイうるち精米
100%・2等のFOB価格。
※ 過去最高価格については、コメはタイ国家貿易取引委員会の公表する価格の最高価格、コメ以外はシカゴ商品取引所の全ての取引日における期近終値の最高価格。
穀物相場の値上がりにより、米国やブラジルといった大穀倉地帯を擁する国で、肥料の需要が高まった。穀物価格が上がると、農家は多少高い肥料を使っても儲けが出る。そのため、これらの国で肥料価格が上がった。特に肥料のプライスリーダーである米国の相場に、国際価格が引きずられたところもあるようだ。
また、JA全農耕種資材部によると、インドでは、2021年6月から9月にかけてのモンスーン期の降雨に恵まれ、豊作の見通しが期待されることも、同国での肥料需要の裏付けとなっている。
中国や東南アジアの需要に輸送費値上げも
肥料の消費量1位である中国は、自国の食料安全保障を重視する姿勢をとる。同国の畜産業は2018年に発生したアフリカ豚熱から回復の途上にあり、世界各国からの穀物の輸入を増やしてきた。そのことは、世界的な肥料価格上昇の原因の1つだ。また、自国での農業生産に必要となる肥料の安定確保、備蓄にも力を入れる。中国では肥料を輸入するとともに、国内でも肥料を生産しているが、国際市況が高騰する中、国内向けの安定確保を図るため、ごく最近では輸出関税導入との噂まで出ているという。
なお、塩化カリは「パーム油の価格が10年来の高値となっていることから、原料となるアブラヤシ原産国の東南アジア向け価格はさらに上昇すると見られており、山元側は好調な需要を背景に値上げを打ち出しています」(耕種資材部)。
こうした国際市況に加え、海上運賃の値上がりと、円安傾向も値上げに響いた。鉄鉱石や穀物の輸送が堅調で、かつ原油高に伴って燃料費が上がった。コロナ対策に伴い乗組員の検疫が増え、コンテナ船での輸送にコロナ禍前より時間がかかりがちなこと、巣ごもり需要でコンテナ船の積み荷が増えていることなども影響しているようだ。
求められる土壌分析、国内の未利用資源の活用
肥料の高値は一体いつまで続くのだろうか。
「需要の増加というのは、売る側からするとビジネスチャンスですから、生産を拡張するとか、新しい鉱山を切り開く計画に着手するといったことが起こり得ます。そのため、中長期的には供給が増えて需給のバランスがとれるという見立てもあります。けれども、半年ですぐ供給量が増えるかというと、そうではありません」(耕種資材部)
短期間に値下がりに転じるとは、考えにくいようだ。では、しばらく続きそうな値上がり基調の中で、どんな対策ができるのか。JA全農は、土壌分析に基づく適切な施肥を推奨している。必要な養分のみを補う施肥にすれば、肥料の施用量を減らし、結果として肥料代を節約できるということだ。
過去に「土の激やせ・メタボを“健診”で防ぐ 現場に密着した実践的土壌学【#1】」で紹介した、スマートフォンで確認できる簡易な土壌分析ツールも、JA全農が開発に参画している。
加えて、国際市況の影響を受けにくい、国内資源に由来する肥料を使う手がある。家畜ふん由来の堆肥(たいひ)、下水道汚泥由来の汚泥肥料などだ。
なお、JA全農は肥料の原料価格を抑えるために、海外への投資もしてきた。たとえば中国のりん安を製造する肥料メーカーに出資している。ただし、今後も投資を増やせばコスト減になるかというと、そう単純ではない。肥料の国内需要が減っているために、山元や肥料メーカーに高額の投資をするのは、リスクにもなり得る。
ほかに、世界でスタンダードになっている肥料に、日本の肥料の質を合わせていく方法も考えられるという。
農水省は肥料の値上がり傾向を受け、2021年5月末に「農業者の皆様へ」というページを立ち上げた。配送費の節減、安価な銘柄への切り替え、購入先の見直し、土づくり、土壌診断や土壌管理アプリといった項目を立てて、肥料代節約の指南をしている。
肥料の高値はしばらく続く。肥料との付き合い方を、改めて見直してみてはどうだろうか。