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洋酒作りで農家に販路 商店街に実力派ワイナリー、パチンコと地銀店舗跡に

窪田 新之助

ライター:

洋酒作りで農家に販路 商店街に実力派ワイナリー、パチンコと地銀店舗跡に

秋田県小坂町の鴇(ときと)地区はかつて、県外のワイナリーにブドウを出荷する産地だった。そんな事態を変えたのは隣町・鹿角市の株式会社MKpaso(エムケイパソ)。ワイナリーを設けて、「鴇」の名前を付けたワインを広めている。代表の三ケ田一彌(みかだ・かずや)さんにその思いとこれからを聞いた。

地名、品種、年号を表示できる「日本ワイン」

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秋田県鹿角市でMKpasoが運営する「ワイナリーこのはな」。製造するワインのブランドはブドウの産地名から「鴇」と名付けられた。主な使用品種はヤマブドウの交配種「ワイングランド」「小公子(しょうこうし)」「ヤマ・ソービニオン」で、これら3品種を商品に応じて使い分けている。
産地名を名乗れるのは、国産ブドウだけを原料に国内で製造した「日本ワイン」だから。同じ地域のブドウを85%以上使用すれば、収穫地名として表示することができる。さらに単一品種、同じ収穫年のブドウの使用量が85%以上であれば、品種と年号も表示できる。

商品のうち「小公子」を使ったワインと後ほど触れるシードル(リンゴを発酵させたスパークリングワイン)は、JR東日本が運行する周遊型の臨時寝台列車「TRAIN SUITE(トランスイート)四季島」(2021年6月末時点ではコロナ禍で運休中)のラウンジで提供され、その名が知られるようになってきた。

「鴇」

「鴇」ワインの赤(画像提供:株式会社MKpaso)

醸造所と貯蔵所はもともとパチンコ店と地銀

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元パチンコ店に入っているワイナリーこのはな

そんな勢いのあるワイナリーの醸造所と貯蔵所は、JR鹿角花輪駅から徒歩圏内の商店街の同じ並びにある。三ケ田さんの案内で訪ねたのは意外な建物だった。
「もともとパチンコ屋だったんですよ」。目の前にある醸造所は窓ガラスにワイン関連のポスターが貼ってあるものの、建物の造りはたしかにパチンコ屋のそれっぽい。入口には「18歳未満は立ち入り禁止」の文字を記したふだが残っている。

その後に連れて行ってもらった同じ並びの貯蔵所の方はもとは地銀。建物に入ると、壁がコンクリートのためひんやりとしている。空調を使わなくても、ワインの貯蔵に適した室温に保てるそうだ。
部屋の中にはワインを梱包した箱が並ぶ。奥には金庫の部屋が残っていて、中には当時のロッカーが設置されたまま。「貸付手形」と書かれた古ぼけた名札が貼られた引き出しを開けると、そこにもワインボトルが横並びになっていた。

「地元にワイナリーが欲しい」

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三ケ田さん(右)とブドウ畑の管理を担当する田子博文(たっこ・ひろふみ)さん

三ケ田さんがこのワイナリーを開業したのは2010年。「鴇の味を伝えたかったんです」。三ケ田さんはこう語る。鴇はワイナリーこのはなから車で20分ほどの小坂町にある地区だ。

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ワイナリーこのはなの自社農園

かつて東京で不動産の仕事をしていた三ケ田さん。父親が亡くなったのを機に34歳で鹿角市に帰郷。妻がプログラマーだったことから、パソコン教室を運営した。
授業の一環で開設したのがECサイト。手始めに、小坂町の企業が菜種の生産から加工までを手がけている菜種油を売り出した。ただ、仕入れ販売は1年でやめてしまう。「一から自分で作っているわけではないので、商品に愛情が注げなかった」(三ケ田さん)

そんな時に出会ったのが、小坂町鴇地区でワイン用のブドウを作る農家たちだった。農家から聞いたのは、ブドウの出荷先は県外で、他産地のブドウと混ぜて使われる。それでは鴇の味がしない。鴇を伝えたい、そのため地元にワイナリーが欲しいということだった。

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自社農園ではブドウの花が咲いていた

これに共感した三ケ田さんはワイン造りを独学して、48歳を迎えた2010年にワイナリーを開業。原料のブドウはすべて鴇地区から仕入れた。酵母に使用したのは乾燥酵母のほか、秋田県醸造試験場が開発した「HGP‐C‐2」。2013年には廃業した鴇地区の農家から0.5ヘクタールのブドウ畑を借りて、原料の生産にも乗り出す。

補助金に頼らない訳

年間の製造量はシードルと合わせて約1万2000リットル。初期投資にかかったのはほとんどが製造に関する装置で、計2000万円。すべて自己資金でまかなった。電気代や地代などの維持運営費は年間50万円少々。「いずれもかなり安い方」という。

設備の整備に補助金を活用しなかった理由を尋ねると、「まずは小さく、そして自分の好きなようにやりたかったから」と三ケ田さん。「補助金を入れると、失敗しても誰も責任をとらないじゃないですか。必死じゃないから、うまくいかないんです。それに土産と特産は違う。補助金を入れると、行政の意向が入って、どうしても土産を作るようになってしまう」

国産シードルとブランデーにかける思い

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鹿角市産のリンゴで造ったブランデー

三ケ田さんがいま、ワインとともに注力するのがリンゴの果汁を使った酒造り。鹿角市は100年以上続くリンゴの産地である。ただ、農家の経営は厳しく、後継者がいるところは限られる。
こうした事態を変えたくて、ワイナリーこのはなで造り始めたのがシードル。規格外品の販路をつくることで、農家の新たな収入につなげたいと思っている。

シードルの利点は白ワインと同じ機材を使って、同じ工程で造れること。醸造所ではブドウの収穫が始まる9月から12月まではワインを主発酵させる。終わったらすぐに機材を洗浄して、翌年4月まではシードルの製造に従事する。
一方でリンゴを原料にしたブランデーの委託製造も始めている。ブランデーの強みは長期保存できるほか、ワインと混ぜることでポートワインに変わることだ。いずれはポートワインも専門の会社に製造を委託するつもり。

ワイナリーを通じて地域の農業を支援する三ケ田さん。とはいえ、それは三ケ田さん一人の力だけで今後発展するものではない。たとえばシードルやブランデーの生産量を増やそうとすれば、リンゴの搾汁工場が必要になる。地域を挙げた取り組みになるか注目したい。

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