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今さら聞けない「肥料3要素」の働きとは? 正しい施肥のポイントは?

今さら聞けない「肥料3要素」の働きとは? 正しい施肥のポイントは?

農業の基本中の基本である肥料3要素。新規就農する時に誰もが学ぶ知識だが、実際はあまり理解できていない人も多いのではないだろうか。JAの指針どおりにやっていれば失敗は少ないが、土の中で何が起きているのかも気になるところ。そこで今回は、土壌肥料学を専門とする宮城大学食産業学群教授の木村和彦(きむら・かずひこ)さんに、肥料の基礎知識や施肥設計の学び方など、押さえたいポイントについて話を聞いた。

3要素の軸は窒素。適正施肥をしないとどうなる?

JAからの指導や新規就農者向けの研修などで、肥料の3要素「窒素、リン酸、カリ」についてある程度の知識は多くの農家が持っているだろう。しかし、改めて3要素の役割について説明できる人は少ないのではないだろうか。

まずは3要素の役割をイメージできるようにしておこう。
化学的な知識を求められる元素について、木村さんは次のようにかみ砕いて説明してくれた。

■木村和彦さんプロフィール

農学博士。1984年東北大学農学部卒業。同学農学部助手を経て、2005年に宮城大学食産業学部助教授、2009年より現職。専門分野は土壌肥料学。

窒素の役割

「植物が光合成をするためには多量のたんぱく質が必要です。そのたんぱく質をつくる基となるのが窒素です。窒素を与えるとたんぱく質がつくられて光合成が活発になり、緑の濃い大きな体をつくります。人間が肉などのたんぱく質を食べて体を大きくするのと同じです」

リン酸の役割

「リンはエネルギー代謝を調整する基本成分です。いくら植物の体内にたんぱく質がたくさんあっても、リンがないとうまく新陳代謝ができません。また遺伝子の塩基配列にもリン酸化合物が含まれています。代謝や遺伝情報などによって体をつくる時の調整役となる基本要素がリンなのです」

カリの役割

「一言で表現すると、カリはスポーツドリンクのようなもので、水分補給と同時にミネラルなどの栄養分も摂取できる要素です。カリがあると植物の中の水分を維持することができます。例えば、雨や曇りから急に日が照った時に、植物がへなへなっとしてしまうことがありますが、カリにはそれを防ぐ役割があります」

3要素が少ない時・多い時にどうなる?

肥料は過不足なく与えることが原則で、少なすぎ、多すぎも植物の成長には良くない。そこで、3要素それぞれの肥料が少なすぎる時と多すぎる時にどのような問題が起きるのかを簡潔に解説してもらった。

肥料3要素が少なすぎる時と多すぎる時

少なすぎる時 多すぎる時
窒素 栄養失調の状態。黄色くなって育たない ・葉や茎が育ちすぎて実がならずに枯れてしまう
・病原菌や害虫からやられやすくなる
リン酸 今まで施肥をつづけてきた土であれば、土壌にある程度蓄えられているので、不足することはほとんどない(いわゆる黒ぼく土は除く) ・土壌中の微量元素と結びつくと吸収しにくくなる
・値段が高いのでよけいなコストがかかる
※基本的に必要量しか吸収しないので、やりすぎでも影響はほぼない
カリ 水分ストレスに弱くなり、へたってしまう カリの多すぎる牧草は、食べた牛が病気になることがあるが、人間に影響はない

「リン酸もカリも、施肥量の過不足でそれほどの影響が出ることは基本的にありません。3要素の中で最も気をつけてほしいのが窒素。特に多すぎる時が心配です。不足しているのであれば、様子を見ながら追肥すればいいのですが、多くやりすぎてしまうと、土に入った分はもう抜けなくなってしまいます。窒素をやりすぎると吸収した植物が病害虫のエサになりやすくなりますし、体が大きくなり体力を消耗してしまいます。人間もメタボになると疲れやすくなるでしょう。痩せるのも大変になりますしね」

JAなどが販売している化学肥料には「10-20-15」や「25-10-10」など、窒素、リン酸、カリの割合の異なる商品があり、土壌に不足している要素を補うのに適したものを選ぶ。商品の中に割合のぴったり合うものがない場合は、「窒素の施肥量に合わせてください」と木村さんは言う。窒素の適切な施肥が最も重要であり、リン酸もカリも、少しくらいの過不足があっても影響はごくわずかだからだ。

施肥のポイントを伝授! 微量要素も忘れずに

施肥の種類・量、投入の方法などは作目によって千差万別で、それぞれに合った内容で投入するのが基本だ。その際に何を参考にすべきかだが、JAや県などが作成している指針があるので、それに従って適正量で施肥しよう。不安だからといって投入しすぎてもかえって良くない結果を生むことがあるので、「過不足なく」が鉄則である。

あくまで指針に従うことを基本とした上で、木村さんからいくつかのポイントを挙げてもらった。

稲作の施肥のポイント

稲作で木村さんがおすすめするのは、堆肥(たいひ)と化成肥料を合わせた複合肥料だ。

「堆肥のような有機系肥料は分解されてから効いてくるので時間がかかります。一方の化成肥料は、水に溶けやすく、即効性があります。このタイムラグを利用して、初めに化成肥料で不足する養分を強化してやり、有機系肥料で後からじわじわと効果を出すのが、効率的にもベストなやり方です。また、堆肥は有機系肥料の中でも分解がゆっくりなため、土壌改良効果もあります」

堆肥は土壌改良剤として別途散布するケースが多いためか、手間を嫌って使用しない人が増えており、土が痩せる原因ともなっている。最近は堆肥と化成肥料を混ぜたものが「混合堆肥複合肥料」として市販されており、使用方法は、農研機構が作成したマニュアル「混合堆肥複合肥料の製造とその利用」が参考になる(※1)。
また、2019年に法律が改正され、化学肥料と堆肥、さらには土壌改良資材などを配合した肥料の規格ができた。今後、堆肥などの有機系肥料と化学肥料を混合したさまざまな肥料が販売されるだろう。これらは土づくりも同時にできるもので期待も大きいが、自分の田畑の状態に応じて適切なものを使用することが重要である。

※1 農研機構「混合堆肥複合肥料の製造とその利用」(PDF)
https://www.naro.go.jp/publicity_report/publication/files/kongotaihi_manual.pdf

人工的にカリ欠乏を起こした稲。下の葉が枯れている(画像提供:木村和彦)

野菜の施肥のポイント

野菜の場合は品目によって施肥の考え方がまったく異なる。
例えば、小松菜などの葉菜類の場合は可食部となる葉や茎をしっかりつくればいいので、体をつくる窒素と、水分を維持するカリが重要なポイントになる。
トマトやキュウリなどの果菜類では、体だけではなく実もつくらなければならないので、窒素を調整するリン酸も大事になる。
小松菜でうまく収穫できたからといって、同じ内容の施肥でトマトもうまくできるとは限らないのだ。

野菜ごとに異なる施肥基準は、JAの栽培ごよみや都道府県の指導指針などを参考にするとよい(※2)。施肥のタイミングや必要量は気候によっても異なるため、地域ごとに施肥基準が作成され、公表されている。そうした専門機関がつくった基準を参考にして、不足分を与えて適正な土壌にしてあげよう。

※2 農林水産省「都道府県施肥基準等」
https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/hozen_type/h_sehi_kizyun/

中量要素・微量要素で代表的なもの

肥料で重要な元素は3要素だけではない。中量要素・微量要素も植物の成長には必要で、適宜投入しなければ、土壌中から減少していってしまう。どの元素も押さえておきたいが、ここではあえてポイントとなるものをいくつか木村さんに選んでもらった。

カルシウムとマグネシウム

カルシウムとマグネシウムは苦土石灰で定常的に投入するアルカリ性の元素である。土壌はなるべく弱酸性から中性を保つべきだが、放っておくと土壌はだんだん酸化してくるので、pHを測って適宜必要量を投入する。pHが基準値であれば投入しない。ただし、pHの測定もせず「なんとなく」で苦土石灰を投入していると、pHが高くなりアルカリ性の土壌になってくるので注意。pH値が7を超えるとアルカリ性になり、マンガン、鉄、銅、亜鉛などの金属元素が水に溶けにくくなり欠乏症を起こす。

ホウ素

野菜専用の肥料に入っていることの多い元素。植物の細胞壁となる成分で、根や新芽の発育を促進する。特に白菜やダイコンなどアブラナ科系の葉菜類で不足しやすい。

ケイ素

特に稲作で補いたい元素。葉や茎、もみの周りに硬い鎧(よろい)のようなケイ酸の層をつくる。手で触るとチクチクしたり、葉っぱで手が切れたりするのはケイ酸の層ができているため。この層が病害虫から身を守ってくれる。また葉が硬くなって立ちやすくなるので、根元部分まで日光を届かせて光合成効率を上げ、収穫するまで穂にでんぷんを届けられるようになる。

施肥設計はどう学ぶ? まずは土壌診断から

土壌診断をして、データに基づいて施肥設計をする──。土壌を適正な状態に保つためには、窒素、リン酸、カリの3要素だけではなく、中量要素・微量要素や作目ごとの施肥基準まで計算に入れなければならず、不慣れな生産者では少し考えただけでも頭がパンクしてしまいそうになるだろう。
そのため新規就農者の多くが、JAなどの集出荷団体からの指導によって、混合肥料の種類や施肥量を決めているはずだ。確かに、最初のうちはそれでもいいが、土壌の状態は環境によって異なるし、年ごとに変化もしていく。

施肥設計の必要性について、木村さんは次のように語った。
「農業というのは、植物や土に働きかけ、そこからのアウトプットを得る産業です。インプットとアウトプットの関係を常に頭に入れるのが農業の基本。それなくして漫然とやっていては産業とは言えません。ビジネスの基本としてもよく使われる、千利休の「守破離(しゅはり)」を参考にしてください。まずは土の状態を調べて、JAや都道府県の指針を守る「守」の段階。次に基本どおりではうまくいかない時や、質を高めたい時などに、肥料を追加したり成分を変えたりする「破」の段階。「離」の段階は、例えば自然農法みたいに、基本から離れて達観しているような状態ですかね。そこまで行くと、農業というより生き方のひとつとも言えそうですが(笑)。言われた通りのことだけやるというのは、基本である「守」よりも前の段階ですね」

施肥設計の第一歩は、なんといっても土壌診断である。JAや普及センターなどに頼めば土の状態を調べてくれる。診断結果から施肥のアドバイスをしてくれる民間会社もあるので、初めのうちはそういうサービスを利用するとわかりやすいかもしれない。
地域で評価の高い生産者など、他の人の土を見せてもらうのも一つだ。技術の習得は他の人のまねをすることから始まる。

書籍も勉強の基礎である。JA全農肥料農薬部がまとめている「よくわかる土と肥料のハンドブック」(農山漁村文化協会)が施肥設計を学ぶのにちょうどいい。さらに「だれにもできる 土の物理性診断と改良」(同上)では、施肥のことだけではなく土の硬さや水はけなどの物理性についても学べる。「このシリーズはわかりやすい」と、木村さんのおすすめだ。

注意してほしいのは、「これだけ与えれば十分」「どこでも誰でもできる」などのうたい文句で宣伝される商品や農法だ。万能を売りにしている商品や農法があると飛びつきたくなるかもしれないが、施肥は環境や作目などによって千差万別であることを忘れてはいけない。あくまでも土壌診断を基礎にして、早見表を参照したり、指針に沿った計算をしたりしながら、適正な管理の仕方を地道に身につけるしかない。

何から始めていいかわからなければ、都道府県庁に直接行って、農業普及指導員などに聞いてしまうことだ。わからないことがあれば、足踏みをせずにまずは第一歩を踏み出してしまうことが肝心。
「『求めよ、さらば与えられん』ということです」と木村さんはエールを送る。

小松菜の生育比較。右はアルカリ障害を起こしたもの

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