需要を見込んで有機で就農
井上さんは現在、36歳。2012年に東京都西多摩郡瑞穂町で就農した。農業を始めてから10年近くが過ぎており、新規就農の域はすでに脱している。1ヘクタール強の畑を借り、さまざまな野菜を育てている。
なぜ長年続けてきた有機栽培から慣行栽培に変えたのか。そのことを理解するために、井上さんの歩みをふり返ってみよう。
出身は神奈川県相模原市。自動車整備の会社で働いていたが、中学時代の友人から「農業専門学校に行ってみないか」と誘われ、会社をやめた。祖母が九州で農業をやっていて、以前から農業に興味があったことも背中を押した。
専門学校には有機と慣行の2つのコースがあった。だが井上さんが入学した年は慣行を希望する学生が集まらず、コースは有機だけになった。
どうしても有機栽培をやりたいと思っていたわけではなかった。だがコースはほかにないと知ったとき、井上さんはこう考えた。「仕事としてやる以上、お金をしっかり稼がないといけない。既存の農家の多くは慣行栽培なので、有機のほうが特色を出して売り先を見つけやすいのではないか」