評価制度は何のために必要か?
評価されるのって、なんか嫌ですよね。
と、いきなりタイトルを全否定するところから入ってしまいました。でもそうじゃないですか。私は高校生の時化学で赤点を取りました。夏休み、みんなが遊んでいる中補習をしたのを覚えています。人と人を比べる、「偏差値」っていったい何なのか。競争することが本当に善なのか。勝ち続けた先に何があるのか。……とまあ競争至上主義社会を批判しても始まらないので、難しいことを考えるのはやめましょう。実際私の経験上、会社という組織において、うまく機能すれば評価制度は絶対に役に立ちます。
「評価制度ってなんとなくかっこいいから始めてみよう」
そんな生半可な考えでは評価制度はすぐに瓦解(がかい)します。まずは目的をはっきりさせましょう。目的は4つあると思います。
・役職・報酬決定の客観的根拠にする
・能力適性の診断をする
・会社と従業員のコミュニケーションを図る
・従業員のモチベーションアップ、成長につなげる
評価によって位が上がる、報酬が増える、従業員の能力の適性が判断できることは想像に難くないと思います。
では「会社と従業員のコミュニケーション」はどうでしょうか。
実は、私としてはこれこそがまさに評価制度の最大の意義だと考えています。
評価をするということは、会社が従業員にどう成長してほしいか伝える場でもあります。逆に、従業員からすれば、働く上での心配事を伝え、どんなことに興味があるか、どんなことをしてみたいか、どんなことが苦手なのかを伝える機会でもあります。
お互いのギャップを埋め、誤解を解き、チームとしての意識をひとつにする。そのような機会を、評価制度は与えてくれるのです。
評価制度には何が重要か?
高校時代、化学の赤点を突き付けられた私はどう思ったか? とても嫌な気持ちになりました。授業は理解できない。テストができるはずもない。スイヘイリーベシランガナ。すべてが苦痛でしかない。
評価なんかまっぴら御免。おととい来やがれ。
そんな昔の私のような社員を生まないために、価値のある評価制度にするために、押さえておきたいポイントは3つあります。
・わかりやすく、具体性があること
・成長に主眼を置くこと
・誠実に話し合うこと
これが私の考える重要なポイントです。今回は、実際に朝霧メイプルファームで使用されている評価シートを元に説明していきます。
わかりやすく、具体性があること
メイプルファームの評価は、勤務態度やコミュニケーションなどの数値化しにくいものと、牛の飼養管理に関わる技術的なものの、大きく2つに分かれています。
基本的な搾乳作業から、牛の扱い。獣医師の指示に従って行う注射など。
個別の作業に対して、それぞれ3段階に分かれて点数が付与されています。
従業員はこの評価シートに自己採点を記入したうえで評価面談に臨みます。一方上司である評価者は、従業員を採点したうえで面談に臨み、お互いの点数を比べながら評価について話し合います。
これだけ見ても、点数の付け方が明確だとは感じませんよね?
技術に対するできる、できないは、実は非常にあいまいです。そこで必要になってくるのがマニュアルです。
マニュアルには決められた手順、守るべきポイントが記述されています。それらを順守できたのであれば、それは紛れもなく「できる」といっていいでしょう。このように、他の従業員と比べて優れているのか、劣っているのか、のような相対評価ではなく、絶対評価を意識することも大切です。
逆の視点から考えてみましょう。とある社長が、評価制度を始めたとします。「搾乳ができる」という項目はあっても、マニュアルがない場合、その社長の感覚で判断するしかありません。
「太郎君が搾乳すると、病気が増える気がするんだよな。だから0点!」
「次郎君の搾乳は、なんかいい感じだから3点!」
こういう評価だと、すべての従業員が成長することは難しいでしょう。やらないほうがマシかもしれません。
マニュアルが整備されていないのであれば、評価制度は作れない。そう思ってもらって構いません。評価制度を作るよりまず、マニュアル作りから始めましょう。
マニュアルを作るまでもない単純な作業ではあるけれど、技術的に難度の高いものもあると思います。そのような作業に対しても、できる限り明確で客観的な判断基準を作りましょう。
図のように、すべての評価項目について、評価根拠が示されています。例えば獣医師の指示に従って行う静脈注射。牛の首の静脈に注射針を正確に刺さなければいけません。その行為が成功している状態を、具体的に説明することで、初めて公平な評価といえます。
評価者の好き嫌いではなく、だれが判断しても同じ評価になるような制度を目指しましょう。
成長に主眼を置くこと
評価をすることで従業員のあらを探し、おとしめるようなことがあってはならないと思います。
「いやいや丸山さん、そんな悪い人間はいないよ」。そうかもしれません。ではひとつ、例え話をしましょう。
とある牧場の社長は、出来杉山君がお気に入りでした。出木杉山君には仕事をなんでも任せ、毎日のようにほめます。
一方の丸山君、仕事はどんくさいし、提案もない。毎日ラーメンのことばかり考えているような、ぼんやりとした様子。丸山君のことが嫌いなわけではないけど、評価ではついつい出来杉山君と比べてしまいます。彼のように仕事を頑張れ、だとか、彼のように提案をしろ、だとか言ってしまう。果たしてそんな評価で、丸山君は成長するでしょうか? おそらくラーメン屋に転職してしまうかもしれません。まかないでラーメンが食べられそうだし。
努力してほしいことを伝えるのは重要です。しかしそれは先ほども言ったように、誰かと比べる相対的な評価ではなく、誰でも納得ができる、絶対的な評価であるべきです。
また、人には必ず向き不向きがあり、長所もあれば短所もあります。社長の好みの分野でしか評価しないと、多様性が失われてしまいます。第三者の意見も取り入れて、なるべく多面的な評価になるように心がけましょう。
酪農業(に限りませんが)は技術だけではなく、「心がけ」も大事だと思います。人工授精が上手なことも大事ですが、牛にやさしくできることはもっと大切だと思います。そのような数値化しにくいことも、評価の項目に入れてほしいです。
叱られてばかりいるより、ほめられた方が絶対に成長します。評価は従業員全員の成長のためにあるのだと肝に銘じましょう。
誠実に話し合うこと
話し合うことが、何よりも重要だと私は考えています。話し合うことで、お互いの理解が深まり、誤解も解けます。評価とはいわばギャップを埋め、共通認識を強固にする儀式ともいえます。例えば先ほどの例、「牛にやさしくできる」のような数値化できないことについて、考えてみましょう。
ある従業員が、その項目について、自己評価を高くつけたとします。意外に感じた社長は、そのわけを聞いてみます。彼は牧場で人になつかない臆病な牛と、仕事終わりにスキンシップをとって仲良くなることを、毎日のように行っていたのだそうです。
社長は彼がそんなに牛が好きだったのだと、その時初めて知ることができました。
評価者である社長のするべきことを考えてみましょう。評価を通じて、従業員に対して「今この仕事を頑張ることで、将来このようなポジションになってほしい」と、思いを伝える機会になります。
上の立場の人間は、結構口下手というか、寡黙な人も多いです。従業員としては、普段はめったに人をほめない社長がそんな風に自分を評価してくれていたんだと、働く意欲が増すことでしょう。
誠実とは、言い換えれば、従業員としっかりと向き合うことだと思います。
私は評価面談が私の仕事のうちで最も大切な仕事だと思っています。なので、評価面談を行う月はとても疲れるし、緊張します。従業員一人一人のことを真剣に考え、何を話すのか、何を話されるかを覚悟して臨まなければいけません。
私から評価するのと同時に、従業員からも意見を言ってもらいます。時には厳しい意見もあります。それでも信頼関係があるからこそ言ってもらえるのだと考え、従業員と話し合える場を大切にしたいと思っています。
普段の会話ではなく、改まった場だからこそ言えることもありますよね。
評価は愛
私は高校生の時、「化学なんて役に立たないぜ。てやんでい」と思っていました。しかし酪農業界にいれば常識ですが、酪農は化学の知識が、むちゃんこ求められます。薬の作用機序や、脂肪の組成など、化学を理解していないとチンプンカンプンなことばかりです。
今になって後悔しても遅いです。今必死で勉強しています。当時アホだった私は、化学のことを信用も信頼もせず、誠実な態度をとっていませんでした。当時の化学の先生も、そんな態度の私を信頼して向き合うことなど難しかったでしょう。
信頼関係、いわば愛がなければ評価制度は骨抜きです。形だけの評価制度は、する方もされる方も疲れるばかりです。
評価に愛を。
と、ここまで評価についての概要を話してきました。次回は実際に朝霧メイプルファームの従業員に下した評価を、許可をとりつつ紹介したいと思います。そこに愛はあるんかいな。その目で確かめてください。