ありがちな使い始めのトラブル
収穫、脱穀、選別を1台でこなすコンバイン。米農家にとって心強い存在ですが、使う時期が限られることから、去年使った後、倉庫などでほぼ1年間放置している人も多いかもしれません。その状態によってはさまざまなトラブルの要因ともなりうるため、注意が必要です。
毎年、私たち唐沢農機サービスのもとにもシーズン直前になって修理が持ち込まれることが多くあります。明日から使いたいのにエンジンが動かなかった、というケースもしばしば。動作確認も含め、日にちに余裕を持ってのぞみたいところです。
保管状態によるトラブル
では、使い始めの故障を回避するためには、どのような点に気をつけて保管すればよいでしょうか。最小限守っておきたいポイントは以下の2点です。
①日陰で風通しがよく、湿気のこもらない場所に置いておく
②使った後は泥やもみなどを残さず、きれいに洗浄しておく
湿気や泥はさびの原因となり、機械そのものを劣化させ寿命を早めてしまう原因となります。また、中にもみやわらなどが残っていると、ネズミやネコなどの小動物が入りこむきっかけとなり巣を作られてしまうケースも。それを知らずに作動させてしまうと、詰まったり部品が欠けてしまったりするので要注意です。
長く使っていないことによるトラブル
また、使い始めてからバッテリーが上がってしまっていることに気づくこともあります。しっかり充電をしておくことが重要ですが、場合によっては新品と交換しなければならないことも。使用時間によって差があるものの、その寿命はおおむね5〜6年ほど。エンジンのかかり具合が悪くなってきたら、交換時期が近づいていると考えられます。
使う前にここはチェックしておきたい!
それでは、コンバインを使用する前に具体的にどこをどう点検すればよいのか紹介します。
機械の隅々までネズミがいないか念入りに確認
先にも触れましたが、わらやもみが残ったコンバインの中は、小動物にとって暖かく居心地がよいもの。各部位のカバーを開けて隅々まで点検し、特に脱穀部のこぎ胴下の空間や、わらが残りがちな排わら処理部周辺はしっかりチェックしておくことをおすすめします。もしネズミが入った形跡を見つけた場合は、コードがかじられていないか確認してください。どこか一部でもかじられていると電気系統に影響を及ぼし、その修理にあたっては複雑に絡み合ったコードを一本ずつ追っていかなければならないため、かなりの手間と時間を要します。
内部ゴムベルト
コンバインの内部には、たくさんのベルトがついています。ベルトが劣化すると稼働が悪くなり、わら詰まりの原因になりますし、もし稲刈り中に切れると作業を中断しなければなりません。ゴム製で消耗品なのでベルトがすり減って細くなっていないか、硬くなってヒビが入っていないか確認しておきましょう。
ここは構造がシンプルであり、自分で取り替える人もいるようです。しかしベルトは種類が多く、農機具屋でも在庫を持ち合わせていないことがほとんど。何かあった時にすぐに対処できるよう、あらかじめ予備のものを購入しておくと安心です。
足回り
機体を支える足回りも消耗品であり、トラブルがつきもの。クローラ(クローラー)やそれを動かしている転輪は摩耗も激しく、使用する前にすり減っていないか状態をチェックしておきたいものです。
クローラを長持ちさせたいなら、アスファルト上での使用はNG。圃場(ほじょう)の中だけで走行するよう心がけましょう。
油さし
コンバインは農機具の中でも稼働している部分が多く、潤滑に動かすためにも使う前にしっかりと油さしをしておく必要があります。刈取部と輸送部をメインに、またチェーンも忘れないよう油をさしてください。大きな機械では油の自動注入器がついているので、タンクに油の残量があるか確認しておきましょう。
部位ごとにおさえておきたいチェックポイント
コンバインの構造は、稲を刈り取る「刈取部」、刈り取ったわらを送る「輸送部」、わらからもみを外す「脱穀部」、もみを選別し保管する「殻粒処理部」、もみを外したわらを処理する「排わら処理部」からなります。
それでは次に、その中でも特におさえておきたい3つの部位について、見ていきたいと思います。
刈取部
ここには、稲を刈り取るバリカン状の刃がついています。切れ味が悪いと詰まりの原因となるため、まずは刃の減り具合を点検します。また同時に、使い始めたら刈り取った後の稲株の状態も確認してください。うまく切れていない場合、長さが不均等になりばらつきが生じるため、その点も刃の交換を判断する基準となります。
殻粒処理部
いわゆる選別部で、風力と揺動板により、脱穀したもみとわらくずはここで分別されています。よくあるトラブルとしては、風を送る羽や揺動板のパッキンの消耗があります。構造上、素人では確認が難しいのですが、もみタンクにわらくずが多く混入するようになったり、もみの取りこぼしが発生したりするようになったら要注意。上記のような原因が考えられるので、その際は農機具屋に相談することをおすすめします。
排わら処理部
円盤状のカッターが落ちてきたわらを細かく切り刻むところで、刈取部と同様、刃が減ると切れなくなり、わらが長い状態のまま吐き出され、詰まりの原因となります。カバーを開けての点検が可能なので、刃こぼれしていたり、減って丸みをおびていたりしないか確認しましょう。こちらも自分では交換ができないため、シーズン前に農機具屋へ依頼しておきたいポイントです。
修理の実例をご紹介
それではここで、具体的な修理の一例を見ていきたいと思います。
今回修理の依頼があったのは、クボタコンバイン5条刈り72馬力のER572です。昨年の稲刈り中、こき胴での脱穀があまりうまくいかず、足回りの転輪も1つ曲がってしまっていました。気がついたのがシーズン後半でしたが、そうした問題があってもコンバイン自体は作動するため、依頼主はそのまま作業を続けたそう。そこでシーズン前に上記2点の修理と、全体の整備点検ということで持ち込まれました。
こぎ歯の交換
脱穀部には、こぎ歯という突起がついたドラム状のこぎ胴があり、ここが高速回転することでわらからもみをたたき落として脱穀しています。今回はこぎ歯のうち、すり減ってしまったなみ歯の交換ですが、そのまま使い続けることも可能なため、中には気がつかないケースも。すると、もみの取り残しが生じ、収穫量の減少へとつながるので気をつけたいところです。なみ歯の状態はひと目見てすぐにわかり、毎年チェックしていればこうしたトラブルを回避することができます。
また、交換は一つずつではなく、全て取り替えることになります。
足回りの転輪交換
次は厚みが減り、曲がってしまった転輪の交換です。先にもふれた通り、消耗品である転輪も、その状態が目で見てわかるので、すり減って鋭利になってきたなと思ったらスグに取り替えることをおすすめします。
実は、ある程度すり減ってしまっていても使うことができることから、作業中にクローラが脱輪してしまったという事例のほとんどは、そこに原因があります。
まとめ
収穫の秋は、農家だけでなく農機具屋にとっても多忙なシーズン。そのため、コンバインを使う直前になって不具合を見つけても、すぐに対応してもらえないケースがあります。余裕を持って整備に出すには夏や冬の閑散期が理想ですが、タイミングを逃してしまった場合でも、使用する1カ月前には作動の点検をしたいものです。
エンジンのかかり具合や稼働させた際に不自然な音がしないか、またベルトや転輪など部品の消耗具合など、まずは自分でチェックすること。そして実際に使い始めてからも、稼働するけれど頻繁に詰まる、タンクにたまったもみがいつもより少ないなど何か気がつくことがあれば、そのまま放置せず、すぐに農機具屋に相談しましょう。