農協改革で政府が求めた買い取り方式への移行
まず委託と買い取りの違いを確認しておこう。農協にとって一般的なのは委託方式。農家から販売を委託された農産物を、農協が市場に持ち込み、卸会社がそれを買い取る。売買価格はふつう市場の需給で決まる。
これに対して買い取り方式は、農家から農産物を農協がじかに購入する。価格は相場と関係なく、作付け前に決めることが多い。農協は買い取った農産物を市場には出さず、事前に契約しておいた業者などに販売する。卸会社やスーパー、外食チェーンなどだ。これを「直接販売」と呼ぶ。
整理すると、委託と買い取りは農家と農協との取引の仕方を指す用語であり、直接販売は農協とその売り先との取引を示す。価格が市場で決まる委託とは違い、買い取りと直接販売は値段を安定させやすい。
市場に出してみないと値段が決まらない委託方式は、農家の経営を不安定にする。農協は価格変動リスクを負わないので、売り込みに熱心にならない。だから、農協が販売リスクを負う買い取り方式を増やすべきだ。
これが2015~2016年の農協改革論議で、政府がJAグループに突きつけた課題だった。改革の主なターゲットになった農協の上部組織、全国農業協同組合連合会(JA全農)は、買い取りを増やすことを約束した。
筆者は、委託と買い取りのどちらが正しいかという議論には意味がないと思っている。重要なのは、両者の利点を生かしてバランスをどうとるかだ。JAとぴあ浜松で買い取り事業を担当している特販課長、山下智子(やました・ともこ)さんは「100%買い取りにするのはよくない」と話す。