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多品目栽培だけが選択肢じゃない、「豆がメイン」に転換した有機農家

吉田 忠則

ライター:

連載企画:農業経営のヒント

多品目栽培だけが選択肢じゃない、「豆がメイン」に転換した有機農家

有機農業を志す新規就農者には、少量多品目栽培を選ぶ人が多い。珍しい作物で特徴を出せるという理由から、有機農業を長年続けている生産者の中にも多品目の人が多くいる。ではそのやり方が自分には向いていないと思ったとき、どんな選択肢があるのだろう。茨城県常陸太田市で就農した北山弘長(きたやま・ひろなが)さんがメインにしたのは大豆や小豆などの豆の栽培だった。

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サンフランシスコで出会ったオーガニック食品店

北山さんは現在、53歳。1.5ヘクタールの農地で17種類の豆のほか、コメを栽培している。約300羽の鶏卵用のニワトリも飼育している。

もともと米サンフランシスコにある日系企業で働いていた。米国に進出する日本企業に対し、事務所のオープンを支援する会社だ。オフィスを設ける場所を探したり、内装のデザインを提案したりするのが仕事だった。

サンフランシスコでの就職に先立ち、インテリアデザインを専門的に学ぶために現地の短大に通っていた。そのころから、米国の暮らしで魅力と感じていたことがある。オーガニックの食品などを販売する自然食品店だ。

販売方法は「量り売り」が基本だった。店頭に並んでいるコメなどを袋に入れ、重さを量ってもらってお金を払う。あらかじめ包装してある日本のスーパーとは違う売り方に、北山さんは引かれたという。

北山弘長

豆を中心に栽培している北山弘長さん

転勤を何度か経験した。最初はドイツにあるグループ会社に異動になった。そこで多くの人が日曜日は店舗などを開けずにきちんと休もうとする生活を知り、新鮮な驚きを覚えた。思い浮かべたのは、満員電車に揺られる日本の働き方だ。そのころ、1次産業で働いてみたいと漠然と思い始めた。

問題はどこでやるかだった。医療制度や老後の暮らしのことなどを考えると、いずれ日本に帰りたいと思っていた。ロサンゼルスでの勤務を経て、東京に転勤になったことで心が決まった。東京で3年ほど働いた後、1年の準備期間を挟んで常陸太田市で就農した。38歳のときのことだ。

常陸太田市で就農したのは、実家が茨城県だったことに加え、「知人の知人」がそこで農業をやっていたからだ。同じ地域で先に有機農業を始め、すでに実績をあげていた布施大樹(ふせ・たいき)さんのような人がいたことも大きかった。地域の農家の中心的な存在である布施さんのところに最初の1年は週3~4回行き、栽培や販売について学んだ

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さまざまな豆

北山さんが栽培しているさまざまな豆。左から「娘来た」「紫いんげん」「里川豆」「孫が来た」「金砂郷在来青御前(かなさごうざいらいあおごぜん)」

映画「よみがえりのレシピ」を見て営農の形を転換

当初は年間で約50種類の野菜をつくり、個人顧客に宅配で送ったり、自分で届けたりしていた。有機農業の典型的なパターンだ。だがやっているうち、北山さんは「自分の性格には合わない」と思うようになった。

少量多品目栽培は同じ時期に似たような作物に偏るのを避けるため、綿密な作付け計画を立て、常に先へ先へと段取りを考えながら作業することが重要。それが自分には向いていないと考え始めた。

2011年の東日本大震災で他の地域に移った農家の顧客を引き継いだことが、やり方を変えるきっかけになった。顧客の増加は売り上げにはプラスだったが、その結果、かえって限界を感じるようになってしまった。妻の郷子(きょうこ)さんによると「量が増えたことで、いっぱいいっぱいになってしまった」のだ。

このとき北山さんは一つの選択をした。野菜の栽培を思い切ってやめ、並行して続けてきた採卵鶏の飼育に力を入れることにした。ニワトリを狭い鶏舎に入れず、ストレスの少ない「平飼い」で育てるこだわりの養鶏だ。

平飼いの養鶏

ニワトリにストレスをかけない平飼いの養鶏

次の転機もすぐやってきた。「よみがえりのレシピ」という映画を、布施さんたちと栃木県に見に行った。各地域に昔からある在来種をテーマにした映画だ。

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