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都会の住宅地で地方の有機米を売るには? 青森の農業法人の挑戦

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ライター:

都会の住宅地で地方の有機米を売るには? 青森の農業法人の挑戦

東京都世田谷区の小田急線・世田谷代田(せたがやだいた)駅近くに店舗をオープンして有機米の販売を始めた青森県の稲作農家がいる。稲作農家が都内で店舗を構えるというのも極めてまれだが、販売しているコメも自社で生産している自然栽培米や有機米が主体で、一般のコメに比べ販売価格はかなり高い。都内で有機米販売店舗が成り立つのか? この店舗の経営者であり、かつ生産者でもある株式会社アグリーンハートの社長、佐藤拓郎(さとう・たくろう)さんに自社の有機米作りと都内での店舗販売の可能性について聞いてみた。

世田谷代田で有機米販売を始めた青森の農家

小田急線世田谷代田駅は、運営する小田急電鉄が混雑緩和のため上下線の線路を各2本ずつ計4本にする複々線化を進め、駅が地下に移設されたことから地上部には次々に新しい店舗がオープンしている。
小田急電鉄は駅の再開発にあたって食をテーマにしたテナントを募集、東京農業大学とコラボした複合施設「世田谷代田キャンパス」もできた。青森県弘前商工会議所にここへの出店依頼があり、オープン当初はリンゴ農家が出店していたが、コメの販売でも経営が成り立つと見込んだ青森県黒石市の農業法人、株式会社アグリーンハートが引き継いだ。
「DAITADESICA (ダイタデシカ)フロム青森」と名付けられた店舗は、売り場面積が18.6坪(61.5平方メートル)で、正面には「新米販売中」の赤いのぼり旗が立てられ、その下にたわわに実った稲が置かれている。

店内には、「つがるロマン」や「まっしぐら」といった青森県の銘柄米以外に「たくろん米」という名前の精米が置かれている。この精米は佐藤さんが自身の名前「拓郎」から名付けた自社ブランド米で、銘柄をうたわない精米。佐藤さんは農産物検査の検査員資格を有しているが、検査費用を無くすために未検査米を使った精米商品に仕立てた。イチ押し商品がたくろん米の「玄米」で、同社ではもみすりした後すぐに玄米を真空パック詰めして商品にする。こうすることによって一般の玄米とは違い、表皮が硬くならず、通常の炊飯で柔らかい玄米を食べられるという。
店内には分づき精米できる小型の精米機が置かれ、消費者の好みに合わせて玄米を精米して販売しており、七分づきが人気だという。中でも青森県黒石市の安入(あにゅう)地区で生産している自然栽培米「安入米」をもみすり直後に真空パックした玄米は人気で、1升(1.5キロ)の店頭での販売価格は税込みで1940円。

店内に置かれた精米機

世田谷代田に密着! 地元で米の配達サービスも

DAITADESICAのオープン直後に始めたのが「だいたんぼプロジェクト」。世田谷区代田の人だけの自然栽培の田んぼを青森県黒石市に作るというプロジェクトで、1口5000円支払うと会員(だいたんぼクルー)の特典として次のようなサービスが受けられる。
①自然栽培「だいたんぼ」で取れた新米3升(約4.5キロ)をクルー限定でいちはやく店舗で渡す
②秋に販売する「代田米」のパッケージに名前を記載
③配達サービスも行う
④希望者は農業を知る・体験するメニューに参加できる
⑤万が一、都内で食料調達が難しくなった場合、優先的に食料を販売する
このプロジェクトは開始して間もないが、すでに60件の申し込みが来ているという。ユニークなのが配達サービス。代田は1キロ四方当たり2万人弱が住むという人口密集地帯で、「デシカ号」と名付けた自転車が配達する。今後、顧客世帯の米びつにセンサーを設置、コメが少なくなると自動的に配達できるようにするシステムも構想中だ。

アグリーンハートのコメ作りとは

世田谷代田の店舗での有機米販売の状況は後述するとして、まずは同社がどのようなコメ作りを行っているのか紹介したい。

3つの認証を取得

アグリーンハートは「グローバルGAP(農業生産工程管理の国際基準)認証」、「有機JAS認証」、「ノウフクJAS(農福連携産品規格)認証」の3つの認証を取得している国内唯一の農場で、「奇跡のリンゴ」で有名な木村秋則(きむら・あきのり)さんの協力も得て、完全無肥料・無農薬の自然栽培でのコメ作りも行っている。
代表の佐藤さんが自然栽培を始めたきっかけは、親戚に病気がちになった人がいたことや、友人の子供が障害を持って生まれたこと。こうした人たちに活躍の場を農業で与えられないか考え、まず有機野菜の栽培とそれを冷凍加工する施設を作り、次に黒石市から紹介された安入地区の保全管理されている水田を借り受け、そこで自然栽培のコメ作りを始めた。最も手間のかかる除草は乗用式の除草機械を開発したメーカーがあり、その機械で行うようになった。自然栽培の面積は7.5ヘクタールで、50ヘクタールは低コスト栽培に取り組んでいる。

最新技術で低コスト栽培

低コスト栽培の要は直播(ちょくはん)で、4つの直播栽培の方式を取り入れている。
この中で最も高い評価をしているのがオプティム社と石川県が共同開発した打ち込み式ドローンでの播種(はしゅ)で、1反(10アール)当たりまっしぐらで9.1俵、つがるロマンで8.6俵の収量を上げた。しかも2020年産は自動航行で播種したというのだから画期的。今年は播種期に降雨がなく、他の直播では芽が出るまで30日から40日かかったが、打ち込み式では8日で発芽したことに驚いたという。

佐藤さんはドローンでの作業の様子を見せてくれた

直播の面積で最も多いのがV溝直播で約37ヘクタールをこの方法で栽培しているが、直播に力を入れているのは、耕作放棄地が年々増えており、移植(田植え)では面積をカバーできなくなっているため。さらに効率化するため乾田直播にもチャレンジする計画で、すぐに地元に戻り、圃場(ほじょう)の整備を進める予定だ。
ただ、有機、自然栽培米は必ずしも目標通りの生産量を達成するというわけではなかった。2021年産米の反収は低いところで3俵、多いところでも6俵しかなかった。

雑草との闘い

収量減の最大の原因は「雑草」。有機栽培や自然栽培は農薬を使わない分、雑草との闘いが宿命づけられているが、それは同社も同じ。2020年のヒエに続き、2021年産の米ではコナギが大発生した。コナギはイネの倍の力で土中の栄養分を吸収するため、イネに十分な栄養素が回らなくなってしまう。もちろん発生と同時に除草機で取り除いたが、繁殖力が旺盛で抑えることができなかった。
コナギの発生を抑える方法としては、秋にわらを水田にすきこむ際に、わらを細かく砕いて完全堆肥(たいひ)にする方法があり、2022年産に向けてまずそれを実践することにした。

収量アップのためにBLOF(ブロフ)理論を導入

省力化のほか、やはり単位面積当たりの収量を増やす栽培方法を取り入れる必要があるため、2021年産で試験的にBLOF理論(生態調和型栽培理論)による有機米作りに取り組んだ。その結果、慣行栽培と遜色ない収量を上げる事ができたので、2022年産ではこの理論による栽培面積を一気に11ヘクタールに増やす計画を立てている。BLOF理論で最も重視されることは土壌の状態で、まず土壌診断した上で適正な有機肥料の投入が必要になる。この有機肥料の代金は同社の見積もりでは慣行栽培に比べ5倍にもなるが、それでも取り組む価値があると佐藤さんは言う。
その勝算の根拠は、生産面ではBLOF理論で面積当たりの収量アップに確信が持てたこと、販売面では有機農産物の販売に力を入れている団体と事前契約が締結できたことにある。特に有機米への転換期間中の水田で生産されたコメであっても慣行栽培のコメに比べ高い価格で契約できたことが大きい。さらには世田谷代田店舗での有機米や自然栽培米の販売が上向いている。今年に入ってから店舗の売り上げは、月によっては前年対比140~190%になっており、すでに予定していた有機米や自然栽培のコメは完売のめどが立った。

情報発信で売れ行きに伸び

DAITADESICA店内で商品を手に取り説明する佐藤さん

取材当日(2021年10月30日)はオンラインで「青森おうちで大収穫祭」が開催された日で、佐藤さんは世田谷代田の店舗からライブ出演した。このオンライン収穫祭は、コロナ禍で昨年ねぶた祭りの会場開催ができなくなった際、ネット上で祭りの模様を配信した地元の有志が立ち上げた番組。今年は農家を中心とした15団体がネットで地元にまつわるプログラムを配信、世田谷代田の店舗もライブ会場に選ばれた。この番組の効果は大きく、佐藤さんが生出演中にチャットで45件もの質問が寄せられた他、この店舗の存在が視聴者に知られ、すぐに買い物に来た人もいた。
佐藤さんは有機米の販売の可能性について「日本はオーガニック農産物の市場は欧米に比べ少ないと言われていますが、当店では有機米の問い合わせは急増しており、その需要はかなりあると実感しています」と、店舗での売れ行き額を示してそう答えた。

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