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養豚のシステム化で労働生産性を向上 従業員を「1億円プレーヤー」に

山口 亮子

ライター:

養豚のシステム化で労働生産性を向上 従業員を「1億円プレーヤー」に

熊本県菊池市にある熊本興畜株式会社代表取締役の石渕大和(いしぶち・やまと)さん(冒頭写真)は養豚農家の2代目で、母豚150頭規模だった家族経営を10年足らずの間に12倍の1800頭規模に急拡大した。現在は熊本県内に3つの農場を持っている。規模拡大ができたのは、養豚のシステム化を推し進め、労働生産性を飛躍的に高めたからだ。

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経験と勘に頼っていた養豚をシステム化、見える化

「今まで養豚というのは、ベテランが『ブタの顔を見ろ』『毛艶で調子が分かるだろう』と言って指導するような、職人的な感じが強かったんですね。これでは従業員の教育に15年、20年かかってしまいます。これが日本の畜産業が遅れてきた要因なので、生産をシステム化し『見える化』してきました」

代表の石渕さんがこう説明する通り、熊本興畜は経験と勘に頼っていた養豚の効率化に挑んできた。その第一歩となったのが、繁殖に関する作業を集中させ、限られた人数で効率的な飼育を可能にする「スリーセブン」システムの導入だ。これは母豚を7つのグループに分け、3週間の間隔を置いて交配、分娩(ぶんべん)、離乳させる方式。フランスで始まったこのシステムは、今でこそ国内で導入する業者が増えてきたが、石渕さんによると2005年の同社の導入は「日本でも何番目か」という早さだったという。

3週間のうち1日に交配を集中させれば「3週間分の子豚が集中して生まれるので、その日は大変だけれども、従業員にとっては休みがとりやすくなる」と石渕さん。土日もなく働いたり、まとまった休みをとれなかったりしがちな養豚の働き方を変えられるわけだ。

加えて、畜舎の中にさまざまな日齢のブタがいると、病気が出やすくなる。スリーセブンシステムを導入すると、日齢が集約されることによりブタを一斉に飼い始めて一斉に出荷するオールイン・オールアウトができ、オールアウト後に畜舎の洗浄消毒をするため衛生的な環境を保ちやすい。

施設の95%を機械化し、ブタの管理にIoTも取り入れる(画像提供:熊本興畜株式会社)

個人の潜在能力を伸ばし高い給与を実現

効率化のもう一つの柱に「ウィーン・トゥ・フィニッシュ」という管理方式がある。ウィーン(wean)は離乳の意味で、「離乳から出荷まで」同じ豚舎で育てるアメリカ発祥の方式だ。国内で採用する業者はまだ珍しいという。

「ふつうの養豚場は、離乳後の子豚をまず子豚舎で飼って、70日齢30キロくらいになったら、そこから肥育舎に移動します。この移動をなくして、離乳後の子豚は最初からずっと肥育舎で育てます。労働生産性と防疫が目的です」(石渕さん)

従業員の平均年齢は31歳と若い(画像提供:熊本興畜株式会社)

効率を追求するのは「個人の潜在能力を伸ばして、労働生産性を高くし、高い給料がもらえることが大切」と考えるからだ。人材の育成が養豚業の最大の課題だと感じており、「作業者や職人ではなく、考える力が強い人材を育成する」と掲げていて、そのために従業員の待遇を良くし、長く働きやすい環境を整えたいという。週休2日制を敷いていて、初任給は24万5000円からだ。

「山の中にある養豚場ですけど、福岡県と同じくらいの年収を物差しに給与を設定しています。田舎にいながらも、都市部と同じくらいの年収を稼げれば、皆さん働いてくれるし、地域に残ってくれます」

高い給与を設定できるのは、やはり労働生産性が高いから。物流部門を除いた従業員は22人で、周辺の同業者に比べて6割ほど少ない。

繁殖や肥育の成績をポイント化してボーナスを決める独自のしくみを作り、社員のモチベーション向上につなげている。社員一人一人が、どのような管理がどんな結果につながったか振り返り、改善策を考えるようになった。

さらに「目指せ1億円プレーヤー!」という目標を掲げていて、1従業員当たりの売り上げ1億円を目指す。かなり野心的な目標だ。コストカットにも余念がなく、飼料の自家配合施設を持つことで、飼料代を抑えることができている。

管理職のミーティングで各農場の生産成績を発表しているところ。ほかにも各部門別などの社内ミーティングを月に5回ほど開く。会議には社員教育の側面もある(画像提供:熊本興畜株式会社)

フランチャイズチェーンのしくみを参考に、農場長をサポート

熊本興畜の従業員の平均年齢は31歳、社歴は平均1.5年。もともと家族経営だったのをここ8年ほどで拡大してきたため、かなり若い。

「技能実習生はいなくて、全員日本人です。全国の養豚場を回っている獣医の方が言うには、日本人だけでやっている養豚場では、平均年齢が一番若いはずということです」(石渕さん)

新人になるべく早く戦力になってもらうためにも、システム化は重要だったのだ。
「全国の養豚業者と話をする機会があって、どこも、農場長の育成に苦労しているんです。管理職である農場長と副農場長が育たないと」

そう話す石渕さんは、3つの農場を持つだけに「うちも育成に苦労しています」としつつ、課題解決のための腹案をすでに持っている。

「農場長、副農場長って、電気設備の修理もできる、種付けも分娩もできる、浄化槽の管理もできる、人間力もあるというように、さまざまな能力が求められます。しかしそれでは、50人に1人できるかどうかという難度になってしまうんです。だから、農場長になるハードルを下げて、農場長をサポートするしくみを力を入れて構築していますね」

参考にするのは、コンビニエンスストアや飲食のフランチャイズチェーンのしくみだ。店長にスーパーマン張りの能力がなくても、本部からさまざまなサポートをすれば、全国で統一されたサービスを提供できる。3農場の間で、農場長の能力によって出来不出来のムラが出ないよう、特定の作業を極めた専門作業員(種付けマイスター、分娩マイスター、肥育マイスター)を各農場に送る体制を整えつつある。

労働生産性の追求に加え「補助金を受けないで経営している」ことも、熊本興畜の特徴だ。現在1800頭いる母豚を、2030年に2倍の3600頭にすると掲げる。「養豚業界で変わり者と言われています」と飄々(ひょうひょう)と話す石渕さんたちの今後の活躍に注目したい。

1万4000頭を飼育する小国黒渕肥育農場(画像提供:熊本興畜株式会社)

熊本興畜株式会社
https://kumakousaiyou.jbplt.jp/

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