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農業の道に進んだのは、商品企画のため 年間1万個売れるイチゴアイスの開発者

窪田 新之助

ライター:

農業の道に進んだのは、商品企画のため 年間1万個売れるイチゴアイスの開発者

大粒のイチゴ「あまおう」にアイスクリームを詰め込んだ指輪型のお菓子が、年間1万個売れるほどの好評を博している。開発したのは、福岡市東区の農家・田中智哉(たなか・ともや)さん(47)。民間企業で商品企画を担当した経験を生かし、農家へ転身している。その経緯や今後の展開について聞いた。

注文に追いつかないほどの人気ぶり

苺の実アイス

田中さんが開発した指輪型の「苺の実アイス」

田中さんが開発したお菓子「苺(いちご)の実アイス」は、「あまおう」の中身をくりぬいてアイスクリームを詰め、ヘタの位置にプラスチック製の指輪を挿して、凍らせたものだ。アイスクリームの味はバニラといちごミルクとチョコの3種類がある。販売価格は1個当たり350円。
2017年8月の発売以来、福岡県の観光地である地元のホテルや直売所のほか、JAにも卸している。2019年からは自社サイトでも販売、「ふるさと納税」の返礼品にもなっている。田中さんは「年間1万個を製造していますが、まだまだ需要に追いついていないですね」と語る。

素材そのものの価値を高める商品を

スニーカーなどを製造する株式会社ムーンスターや福岡県の銘菓「鶴乃子」を製造する株式会社石村萬盛堂などで、サラリーマンを経験してきた田中さん。ほぼ一貫して仕事としてきたのは商品企画である。その職歴から、いつか自分で商品の企画から開発、販売をすべて手がけたいという気持ちが強くなっていた。

ただ、「自分にはパティシエのような加工の技能があるわけでも、メーカーのような資本力を持っているわけでもない」(田中さん)。だからこそ、原材料の仕入れ値は安く抑えたい。さらに言えば、加工の技能がなくても、素材そのものが持つ価値をさらに高められる余地があるものがいい。そんな発想で目を付けたのが農産物だった。
「自分で農産物を生産すれば、仕入れは安く済む。さらに栽培の技術を高めて品質を上げれば、それが価値を高めることになり、新しい商品を生み出せるんではないかと。つまり農業を戦略として捉えたんです」(田中さん)

売れる商品のポイントはコスト、商品価値、ターゲット層

サラリーマン時代に商品企画を担当していた田中さん

田中さんが商品を企画する際に大事にしているのはコストと商品価値、ターゲット層の三つ。「これらが融合すれば、売れる商品につながっていきますね」。ヒントは、サラリーマン時代に家族でたびたび訪れていた居酒屋にあったという。

「子どもを連れていくと、山口県のメーカーが作っているイチゴのアイスを出してくれてたんです。毎度、それをもらうと子どもが大喜びで。福岡には大粒のあまおうがあるから、それで女性と子どもをターゲットに作ったら、もっと受けるんじゃないかなと思いました」

アイスを選んだ理由はもう一つある。イチゴ作りと作業競合しないからだ。アイスが売れるのは夏なのに対し、イチゴの収穫は11~5月なので重ならない。しかもアイスを売れば、収入がない時期をなくすこともできる。
田中さんはこんな考えを持ってから、41歳でサラリーマンを辞めて、まずは福岡県農業大学校でイチゴ作りを学んだ。1年で卒業して、博多湾北部の志賀島(しかのしま)に移住。離農する農家から施設や機械を譲り受けて、育苗棟も含めて25アールの園芸施設でイチゴを作り始めた。2016年のことだ。

3倍の儲けになるように設定したわけ

苺の実アイスの販売単価は、あまおうを青果物として市場に出荷する場合と比較して3倍儲かるように設定した。その理由について田中さんは次のように語る。「3倍ぐらいでないとやる意味がないし、やる気が出ない。それに、そのぐらいの値段を取っても売れるような魅力的な商品でないと、生き残っていけないと思います」

ターゲットは女性と子どもに絞ったほか、購買目的としては観光地での土産用か贈答用に狙いを定めた。加えて畑から始まる商品を作ることで、独自の物語が生まれる。「だから価格が少々高かろうが、購入していただけるのです」と田中さんは説明する。

原材料費を抑えるため、使うのは4、5月の収穫分だけ

収穫したあまおうのうち、苺の実アイスの原料にするのは大粒(30~45グラム)のイチゴ。自分で生産しているだけでは足りないので、周囲の農家からも集荷し、それらを県内の加工会社に委託して製造している。周囲の農家にとってみれば、原料用はパック詰めをせずに済むのが利点だ。

原材料費を抑えるため、加工に使うのは市場単価が下がる4、5月の収穫分だけ。この時期以外の収穫物はすべてJAに出荷している。

苺の実アイスの原料となる大粒イチゴ

目下の課題は、需要に供給が追いつかなくなっていること。原料となるイチゴが足りていない。その対処としてまずは栽培面積を広げる。2022年に3アール分の園芸施設を建て増しする計画だ。

ただ、それでも足りない。田中さんは1~3月の収穫分も加工に回さなければいけないと見ている。もちろん、そうなると原価が上がっていく。
そこで計画しているのが、自ら加工場を運営することだ。年間3~4万トンの製造能力を持った加工場を2023年に建てる予定。「自社で加工することで製造原価を抑えたい。私とパートの2人で運営するつもりです」(田中さん)

田中さんはイチゴを作る面白さについて「栽培の技術が上がるにつれて、大粒の実の収穫量が増えること」と語る。最近では60~70グラムという大粒がそれなりの量で取れるようになってきた。この大きさを生かした新たな商品を企画しているという。

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