情報不足による物流の無駄が関係者を不幸にしている現状
NTTグループでは、従来からスマート農業の推進を図ってきました。ICTを活用し、さまざまな分野においてスマートな社会を実現するというグループの方針に基づいています。今ではNTT研究所をはじめ、グループ30社が連携し、ステークホルダーの持つあらゆる課題に対する解決策を検討することで、自動運転農機やドローンを活用した農業の自動化、遺伝子・バイオ技術を活用した魚類や農産物の高速成長、高品質化、農産物流通の高度化・効率化など、フードバリューチェーン全体の最適化を図る新たな価値創出を行っています。
日本の農業が抱えている課題は数多くありますが、生産者、流通業者、小売業者に共通しているのが人手不足と運送コスト、昨今注目が集まる環境問題などが挙げられます。現在、農産物の取引は全国約1200カ所の卸売市場を経由する市場流通が主要なルートになっていますが、電話・FAXと紙をベースにしたアナログ取引が主流のため情報が分断され、多くの無駄な時間と労力が発生しています。また、大都市の中央卸売市場に農産物が集中的に集められ、余った農産物は地方卸売市場に転送されるため、農産物の品質低下や輸送コスト増、運送手段が無い場合は廃棄といったフードロスの問題も起きています。
生産者は出荷後に決まる価格に不安を覚え、流通業者は売り先の調整に悩み、小売業者は入荷直前まで入荷量が決定しない、このような負のスパイラルを解決する手段として提案しているのがNTTグループの考える「農産物流通DX」です。
「品不足であっても仲卸業者/小売業者の注文に応えるために卸売業者はひたすら電話をかけてかき集める、このようなよくある光景も情報が共有されていないことにより需要と供給のバランスが崩れているためです。バラバラになっている情報を一元化することで、多くの方にメリットが生まれるのではないかと考えています」(日本電信電話株式会社 研究企画部門 食農プロデュース担当 担当部長 久住嘉和さん)
さまざまな課題を一手に解決する新しい物流の形「農産物流通DX」
農産物流通DXは端的に言うと、「情報を軸にして農産物流通の最適化を図ること」です。市場に集まるさまざまな農産物情報をNTTスマートフードチェーンPF 上に蓄積し、AIなど使った最先端のデジタル技術により分析・予測を行い、その結果をもとに売り手と買い手が仮想空間上で未来の取引を行う、仮想市場を実現することで数々の課題を解決します。
仮想市場の基盤となるNTTスマートフードチェーンPFには、産地の気象情報、輸送距離や地域別の価格差、取引量、需要、季節性など、生産から小売に関わる膨大なデータが集められ、さまざまな分析結果が蓄積されます。これらのデータを元にAIが農産物の流通予測を立て、利用者に必要な情報をスマートフォンやタブレットを通じて渡す仕組みです。
生産現場から小売まで、リアルタイムに精度の高い情報をここから得られることで、市場搬入する前に取引を成立させ、物流もそれに見合う形で効率化することが可能になります。効率化された物流になれば輸送費は抑えられ、温室効果ガスやフードロスにつながる無駄も省けます。
2021年からはプロトタイプとなる予測技術の開発に着手しており、大阪において株式会社神明ホールディングスと東果大阪株式会社の協力のもと、実証実験が始まっています。2022年には東京を含む広域化実証、競りを含むEC実証、商用版としての予測技術の確立を目指しており、2025年から国内と海外においてサービスを展開していく予定です。
農産物流通DXは生産者・卸売業者・小売業者それぞれに新しい価値を提供する
前述したように情報を“見える化”することで、生産者から小売業者まで多くのメリットをもたらすのが農産物流通DXです。生産者や出荷者は予測した情報を基に効率よくトラックを手配でき、需要に応じた生産を行うことで安定した収入も見込めます。卸業者や加工業者は分荷作業を自動マッチングによってスムーズに行えるようになり、業務量に応じた作業員の調整も早い段階でできるようになります。小売業者は生産情報をもとにした特売などのイベントが組みやすくなり、消費者は新鮮な商品を手に取れることに価値を見出すでしょう。
「例えばトラックの手配はほとんどが前日に行われますが、それが3日前なら状況は大分変わります。生産者は需要動向が分かれば、それに合わせた作付けが行えますし、加工業者は人員を多めに見積もる必要もありません。それぞれ精度の高い予測が早めに分かれば使えそうだという声をいただいています」(日本電信電話株式会社 研究企画部門 食農プロデュース担当 担当部長 吉武寛司さん)
農業の未来のためにまずは物流問題を解決するお手伝いをしたい
情報共有の面で優れた通信技術を使えば農業の課題を解決し、より魅力のあるものに変えて行けることでしょう。それを実現するのが農産物流通DXです。
「DX化が進むことで、国内取引に加え、海外での取引においても輸出入がスムーズになるのではないかとも考えています。モノが動くことで情報とお金が動いていた時代から、情報がモノとお金を動かすようなパラダイムシフトを起こしたいと考えています」(久住嘉和さん)
NTTグループでは、光ベースによる低消費電力・大容量・高品質・低遅延の革新的なネットワーク「IOWN」構想の実現を2030年までに目指しています。その中に含まれる「Digital Twin Computing」は仮想社会の構築と高精度な未来予測を可能にするとしており、農産物流通DXもその中の一つとしてスタートを切りました。NTTグループでは農産物の流通にかかわる皆さんがプラスになるよう、継続的なヒアリングとディスカッションで足並みをそろえながらプロジェクトを進めて行くとしています。物流問題に悩む事業者や自治体の方は問い合わせてみてはいかがでしょうか。
問い合わせ先
日本電信電話株式会社
研究企画部門 食農プロデュース担当
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