暮らしの中に農業を1割取り入れて。「91農業」提唱し、誰もが参加できる産業へ
労働力支援事業の目的はもう一つある。労働者側にとっての参加ハードルを下げ、これまで農業とは無縁だった人でも気軽に入り込める環境を作ることだ。
同事業では、通年での作業を用意する一方、1日だけの“お試し”勤務も可能となっており、出勤日も労働者自身が決めてよい。新規就農のために経験を積みたいという人はもちろん、副業や子育ての空き時間などを使って農業がしたいという人にもうれしい仕組みと言える。
「まずは農業体験や訓練の場として、新規就農の足掛かりにしていきたい」と、花木さんは事業の展望を語る。農業を新規で始めるとなると高額の初期投資が必要で、失敗はすなわち大きなダメージを負うことになる。「人生を懸けて何かにチャレンジすることは並大抵のことではありませんし、それでは怖くて踏み込めないでしょう。まずは、1日だけ作業をやってみてもらい、合わなければ途中でやめてもいい。農業への最初の一歩は“いいかげん”でいいんです」(花木さん)
こうした考えのもと、JA全農ではライフスタイルの1割に農業を取り入れてほしいとの思いを込めた「91(きゅういち)農業」を提唱し、農業のハードルの低さを周知する試みにも打って出る。休日に副業で働く「9本業1農業」、子育ての合間に働く「9育児1農業」など、「半農半X」ならぬ「1農9X」の生き方を提案していく。
「これを入り口にして、若者の未来を支援していきたい」とは、全国労働力支援協議会の会長、正木栄作(まさき・えいさく)さん。花木さんも「ライフスタイルの大半を農業で過ごすと決意した人しか農業に参加できないルールを壊したい」と鼻息は荒い。
主婦でも、学生でも、引きこもりの方でさえも──。誰しもが、関心度に応じて農業に携わることができるこの事業は各県、ブロック内で平準化していく構想。多様な人材が集い、地域の新たな担い手として根付いていく未来に期待を込めて、本稿を締めくくりたい。