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固定客をもって収入確保! 受注生産型農業で離農を防げ

連載企画:生産と消費をつなぐ

固定客をもって収入確保! 受注生産型農業で離農を防げ

物価上昇の中でもなかなか上がらない野菜の市場価格。経費や労力を作物の価格に反映させることができず、経営上の厳しさから数年で離農する新規就農者も多くいます。そんな新規就農者を支える「受注生産型農業」とは? 新規就農者を応援する新たな「パトロン」とその仕組みについてお伝えします。

離農を防ぐための受注生産型農業

私は東京の大田市場で「大治(だいはる)」という青果物の仲卸を経営しています。
前回は世の中の変化によって青果物の販売方法が大きく変わってきたことについてご説明しました。

前回の記事はこちら
野菜に「イミ」という付加価値を! 生産者と消費者をつなげる意外なポイント
野菜に「イミ」という付加価値を! 生産者と消費者をつなげる意外なポイント
市場で青果物を取引する流通の仕組みは、生産者にとっては自分が作った野菜の価格決定権を他人に委ねる仕組みでもあります。もし生産者と消費者を直接つなぐ優れたシステムがあれば、生産者自身が青果物の価格決定にかかわれるのでは。…

青果物のように毎日消費する商品であっても、企画やイベントのような「コト」や、社会的意義などの「イミ」を持たせることができなければ、従来の需給バランスの枠の中で他者に価格の決定を委ねることになってしまいます。
その状況を打開するためには新たな仕組みのもとに、生産者と消費者の新たな関係性を構築する必要があると考えました。それが「千菜一遇農en(せんざいいちぐうのうえん)」という当社の新たなサービスです。
このサービスは生産者自身が「誰のために」「何を作るのか」という目的を明確に持つことができる「受注生産型農業」とも言えます。

コロナ禍において、油や小麦などの価格は高騰し、それらを原料とした食品の値上げが相次いでいます。農産物についても、原油や肥料の価格高騰のため生産コストの上昇から逃れることはできませんが、需給バランスで価格が決定する仕組みの中では、それらを価格に反映することは困難です。
農産物の価格が上昇しない厳しい状況は以前から続いており、その影響もあり就農人口はこの20年で半分以下に減少しています。
とくに農業技術や販売先が安定しない新規就農者は深刻で、就農して5年以内に3割が離農するというデータもあるようです。
規定の要件を満たす認定新規就農者であれば、農業を始めてから5年以内の経営が不安定な時期に、所得を確保するための給付金が支給されます。
しかし、その給付金がなくなったあとは農業が継続できなくなるのでは支援の意味がありません。
「魚を与えるのではなく、釣り方を教えよ」という格言がありますが、千菜一遇農enでは、「お金を与えるのではなく、農業経営を支える仕組みを提供する」ことを目指しています。
企業は生産者の圃場(ほじょう)の一部を利用して社員に農業体験などの福利厚生を提供しつつ生産者を応援することを、生産者は生産技術を向上させることによって高品質な青果物を企業側に提供することを目指します。我々仲卸は企業と生産者のマッチングだけでなく、技術向上のサポートも行うことで、継続的な関係性の構築を支援します。新規就農者の自立を支えることも本サービスでは可能であると考えています。

小規模農家の反収を倍増させるために

千菜一遇農enは東京の清瀬市の生産者と企業をつなぐことからスタートしました。
このサービスは都市農業や有機農業のように比較的規模の小さい生産者にこそ最適と考えています。
小規模生産者にとっては、限られた面積の中でいかに単収を上げるかが重要です。
企業のスタッフが農業体験をする際に指導を行ったり、コミュニケーションを図ったりすることは非常に手間がかかるかもしれませんが、その「営業活動」の対価として生産者は通常の約2倍の収入を契約圃場において得ることができます。
清瀬の生産者も企画を説明した当初は、普段とは異なる不慣れなサービスに不安を感じているようでしたが、実際にスタートしてみれば、回を重ねるごとに慣れてきて、消費者とのコミュニケーションを楽しむ余裕も出てきたように感じました。
顧客第1号は府中の事業給食を運営する企業でしたが、収穫したミニトマトが非常においしいので、企業内でマルシェを開催したところ非常に好評だったそうです。

清瀬の関ファームでミニトマトの収穫体験を行う府中の給食事業者さん

千菜一遇農enでは、まずは農業体験をスタッフの福利厚生として行いますが、収穫した農産物を原材料にしてノベルティーやギフトを製造するサポートを行っています。
例えば収穫したジャガイモはサイズや形もバラバラですが、加工品に作り替えることで無駄なくすべてを使い切ることができます。
また、福祉施設に1次加工を委託することで農福連携に取り組むことも可能です。
福利厚生のみにとどまらず、SDGsや生産者支援などの社会的意義を備えていることも、このサービスの特徴です。

一般企業を「パトロン」にする理由

これらのサービスを個人向けに展開せずに企業を対象としたことにはいくつかの理由があります。
まず、生産者が多くの消費者に対して個別に対応することは、業務を非常に煩雑にすることはもちろんですが、個人間のトラブルのリスクも高まります。
また、体験の後に農産物を継続購入するサブスクリプションサービスを企業に案内していますが、個別に宅配便で届けるのではなく、企業に一括して届ける方法を推奨しています。
個人宅に宅配便で青果物を送ると結果的に非常に割高になってしまいますので、企業にまとめて送ることで物流コストの負担を軽減し、小ロットでのお届けも可能にします。
また、物流を集約することで二酸化炭素排出量の削減にも貢献できます。
企業がハブになることで、サブスクもSDGsなどの取り組みにつなげることが可能になるのです。

他者に運命を委ねない農業経営へ

今回のサービスは生産者にとっても企業やスタッフにとってもメリットのある取り組みだと思います。
生産者は固定客を確保することで受注生産型農業にシフトチェンジし、安定的な農業経営を実現することができます。
スタッフは気軽に農業を体験し、自分たちのために安全で安心な農産物を提供してくれる生産者と互いの顔の見える関係を築くことが可能になります。
そして企業はスタッフに福利厚生を提供しながら、社会的意義のある活動を行い、企業の価値の向上を実現することができます。
また仲卸である当社としては、どんな業種であっても顧客となり得る、新たな販売の出口を創出するという意味があるのです。

生産者は生産だけをしていればよいという時代は終わったと思います。
自分の運命を他者に委ねるのではなく、時には営業やサービスを伴う活動も必要です。
そして我々のような市場関係者も市場の優れた機能は生かしつつ、他の業界の進んだ仕組みやシステムは積極的に取り入れることで更なる発展を目指すべきでしょう。

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