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揺らすだけで防除可能!? 栽培促進の効果も見込める新技術開発!

鮫島 理央

ライター:

揺らすだけで防除可能!? 栽培促進の効果も見込める新技術開発!

農家にとっての敵であるコナジラミ類。さまざまな野菜に被害を与え、病気を媒介する原因となる虫です。防除には化学農薬を用いることが一般的ですが、近年は抵抗性害虫の出現や、消費者意識の高まりから減農薬を意識した農法が世界中で注目されています。
このような流れの中、トマト栽培に向けた「振動」を用いた防除技術が開発されました。揺らすだけで害虫を防除することができるのでしょうか? さらに、防除だけにとどまらないうれしい効果もあるといいます。
上画像提供:宮城県農業・園芸総合研究所

新たなスマート農業の登場

持続可能な農業の必要性が説かれるようになって、農業界も変化しています。農薬に頼った従来型の農作から、スマート農業のような新しい農業に。地産地消や有機栽培のような概念も生まれ、消費者にとってより良い作物が手軽に入手できるような時代になりつつあります。

生産者にとってはどうでしょう。筆者自身も都市近郊で農業を営む農家ですが、単に環境へ配慮した農業という意味ではなく、より高く売れる作物を作るために、減農薬や有機栽培など、難度の高い栽培に挑戦する必要性を感じることも。しかしそういった挑戦は往々にして困難を極めます。従来栽培の延長で取り組める方法はないかと思っていたところ、「振動で害虫防除ができる」という情報を見つけ、取材することにしました。

きっかけは少年時代の記憶

電気通信大学が代表となった振動農業技術コンソーシアムが開発した「振動による害虫防除及び作物受粉の方法」は、特定の周波数で栽培中のトマトを揺らすことで害虫防除と栽培促進ができるというもの。
揺らすだけでそこまで大きな効果が出るとは信じがたいですが、実証試験も進み来年には製品化を目指しているそうです。その仕組みについて、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の高梨琢磨(たかなし・たくま)さんに説明をしてもらいました。

高梨琢磨さん

森林総合研究所の高梨琢磨さん

「子どもの頃、木を蹴って虫を落とした記憶はありませんか? 木に伝わる振動を感じて外敵から逃れようとする習性があるなど、昆虫が振動を利用していたことは既にわかっていました。しかし、このような習性を害虫防除に用いようという研究は私たちが初めて行ったものです」

こう話す高梨さんは、もとはマツなどの樹木につくカミキリムシ類の防除に振動が使えないかと研究していたそうです。その研究が進み、トマト(※1)などの農作物にも使える技術として進化していきました。
今は世界、特にアメリカやイタリアなどで研究が盛んにされている同技術ですが、日本では同コンソーシアムが初めて製品化レベルまでの研究をしたといいます。

※1 現在研究中のものはタキイの桃太郎など。

具体的な防除・栽培促進の方法

どのような方法で防除と栽培促進の両立を果たしているのでしょうか。試験場での様子を聞いてみました。

振動によるコナジラミの防除

宮城県農業・園芸総合研究所内のトマト栽培施設で、実証試験が行われています。
一般的なハウス栽培のような景色ですが、ハウス上部にパイプが通され、そこからワイヤーがトマトに向かって垂れ下がっています。パイプは磁歪(じわい)クラッド材(※2)という特別な素材でできた振動装置(東北特殊鋼株式会社製)に接続されており、ここから振動が伝わっていきます。

※2 磁場の変化により異なった伸縮をする材料を組み合わせたもの。

装置模式図

装置の模式図(画像提供:森林総合研究所)

振動装置から発生し、パイプ、ワイヤーへと伝わった振動がトマトへ伝わることで、防除が可能になるということです。試験では30Hz、300Hz、無処理の3つの株を用い、対照実験を行っています。30Hzと300Hz、どちらの周波数がより効果的なのでしょうか。

高梨さんの話では、「4週間300Hzの振動を与えた場合、無処理の株と比べ、コナジラミの数が半分以下になった」といいます。農薬散布なしの振動だけの防除で半減できたというのですから、その効果は折り紙付き。なお30Hzでも効果は確認されたとのことですが、300Hzの振動を与えた場合の方が効果的だったようです。

幼虫数

宮城県農業・園芸総合研究所における試験結果。1葉あたりのコナジラミ幼虫の密度(画像提供:森林総合研究所)

またもう一つの効果として、抵抗性害虫を生み出すことがない、という大きなメリットが存在します。農薬で防除しているわけではなく、昆虫の習性を逆手に取って防除しているわけですから、抵抗性の発生しようがありません。

近年抵抗性害虫の出現が農家の悩みの種となっていることは間違いありません。対策しようにも抜本的な農業方法の改革をしなければ根本的な解決にはならず、この振動技術がその一助となるのであれば、歓迎すべきことでしょう。

ただ、いくつか気をつけなくてはならない点があります。振動だけでは防除しきれないということと、即効性は無いということです。この防除方法は振動を嫌がった昆虫が活発な活動や生殖をしなくなることで、防除ができるという仕組みです。なので、中長期的なスパンで防除計画を立てる必要があります。

同技術はあくまで減農薬の助けになるというものであり、完璧な防除を約束するものではありません。しっかりと普段の防除をしつつ、振動を利用するのが大切です。粘着トラップなど、併せて使えば農薬の量をかなり減らすことができるかもしれません。

筆者も神奈川県川崎市で農業を営んでいますが、害虫防除は常に心配事です。家族経営の小さな規模の畑ですが、住宅街にあるため農薬散布も気を使います。筆者の周りでは、農薬散布が原因で周辺住民ともめてしまったという話もあり、都市農業では死活問題。近隣の人に嫌われてしまっては仕事ができなくなってしまいます。

農薬の散布回数や散布量を減らすことができれば、負担も軽くなります。これは農家にとって大変助かるのではないでしょうか。機械の作動音も非常に小さく、筆者のように都市農業を営む人にとっては、余計なトラブルを減らすことができるかもしれません。

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振動による着果促進

コナジラミの防除だけでなく、トマトの着果を促進できるというのが振動技術の大きな魅力。

自然界では風やハチなどの虫が花粉を運んでくれますが、ハウス栽培ではそうもいきません。もちろん生物農薬としてマルハナバチを活用したり、トマトをたたいて受粉させるという方法は既によく知られています。他にもトマトトーンなどのホルモン剤を用いた着果促進は誰しもが経験のある手法でしょう。筆者もトマトを栽培する際は、トマトトーンを用いて着果促進をしています。

ただ、ホルモン剤を使うにしろ、たたいて受粉させるにしろ、一本一本株を回り作業をしなくてはなりません。これが農家にとって大きな負担になっていることは間違いありません。

しかし同技術を利用すれば、ボタン一つで株を揺らし、着果を促進することができるというのです。さらに実験によると、30Hzの振動を一日2回与えた場合、ホルモン処理をしただけの株よりも着果が良かったといいます。

着果数

宮城県農業・園芸総合研究所における試験結果。株あたりの着果数(画像提供:森林総合研究所)

ホルモン剤を使っていると、着果不良を起こしてしまうこともあります。ですが、これはあくまで揺らして花粉を落としているだけなので、自然界と同じような着果が期待でき、着果数についてもより多く結実する可能性があるのです。

ただ、高梨さんによると「防除に有効な周波数である300Hzと比べて、着果促進には30Hzが有効」で、このあたりの調整については今もなお試験中だといいます。

他にも、マルハナバチによる受粉を行いたくても気候的に難しかった寒冷地域などでも、受粉作業を行うことができるというのも大きなメリット。また、生物農薬は維持管理が大変なので、筆者のようにずぼらな性格の人には管理が難しいかも。地域の性質や使用者の性格に影響されることなく一定の動作ができる機械式の防除がトマト栽培に与える影響はかなり大きそうです。

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ハウス施設が必要不可欠

今のところ振動装置はハウスでの施設栽培に向けて実用化が進んでいます。防除・着果の促進を利用するには、株一つ一つにしっかりと振動を伝えなくてはなりません。そのため、ハウス施設と専用の道具が必要不可欠となります。

施設内

全国農業協同組合連合会営農・技術センターハウス内に作られた専用設備(提供:東北特殊鋼株式会社)

しかしここまで大掛かりな設備になると、気になるのは導入コストでしょう。具体的なプランについては未定だそうですが、高梨さんは「従来の防除方法と比べても引けを取らないような設定にしたい」といい、次のように続けました。

「振動技術は中小農家での利用を想定しています。もとからあるハウスの設備を使うことで、できるだけ導入コストを抑えたいと考えています。まだ決まっているわけではありませんが、サブスクリプション(定額利用)制度の利用なども視野に入れ、さまざまな形で農家さんに使っていただけるように準備を進めています」

サブスクリプションとはまた意外な発想ですが、確かに導入コストを抑えるという意味では効果的です。さらに継続的なサポートも一緒にしていきたいとのことで、安心して導入することができるようになるかもしれません。

筆者のような中小農家にとってハウス施設の導入は一大事です。それに加え、全く新しい技術による設備まで導入するとなったら、かなりの努力が必要でしょう。もしサブスクリプション制度によって導入が可能となったら、その障壁は下がります。筆者もいずれハウス施設を導入しようと考えていたので、ぜひ同技術の設備も一緒に取り入れたいですね。

今後は他の農作物にも使えるように?

振動技術の最も良いところは、一度設置してしまえば、あとはボタン一つで操作ができるという点でしょう。とにかく省力・省時間。それでいて、害虫防除と着果の促進ができる。まさに夢のような技術です。

もちろん、まだまだ研究中のことも多く、導入には専用の器具や装置が必要になるなど、コストもかかります。また、IPMの一環としてその他の防除もしっかりやらないと効果が出づらいなど、注意すべき点もあるでしょう。
それでもなお、振動が生み出す大きな効果には期待をせざるを得ません。

振動技術の第1弾は2023年度をめどに製品化を予定しています。今後はどのような展開を考えているのでしょうか。

「今後はトマト以外の農作物にも使えるようにしていきたいです。その動きは既に始まっており、イチゴやシイタケでの栽培利用について振動農業技術コンソーシアムで研究をしている最中です。その他の農作物についても、順次研究と商品化を続けていきたいと考えています。また現在は中小農家さんを主な客層として想定していますが、更に一歩進んで、植物工場などの大規模法人でも使っていただけるように開発を進めていきます」(高梨さん)

今後、研究が進み多くの農作物に効果が認められるようになれば、農業のあり方自体が変わっていくのかもしれません。ひとまず、第1弾に期待大です。

取材協力:振動農業技術コンソーシアム(電気通信大学、森林総合研究所、東北特殊鋼株式会社、宮城県農業・園芸総合研究所、琉球大学、神奈川県農業技術センター、兵庫県立農林水産技術総合センターほか4機関)

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