仕事に繁閑があるという農業のハンディ
長嶋さんが運営する農場「絹島グラベル」は、栃木県宇都宮市の郊外にある。16棟のハウスでトマトを育てているほか、レモンも栽培している。面積は合わせて57アール。地元の直売所で販売しているほか、卸会社を通して都内のスーパーなどにも流通している。農場に直接買いに来る消費者もいる。
父親はコメやトマトを栽培する傍ら、パソコンの修理や組み立ての仕事も手がけていた。長嶋さんは学生時代にバンドをやっており、「音楽で食べていきたい」という夢を持っていた。だが「忙しいので手伝ってほしい」と頼まれ、父親のパソコン店で働き始めた。いまから約20年前のことだ。
転機は2006年に訪れた。パソコン店をやめ、もともと手伝っていたコメやトマトの栽培に専念することにしたのだ。安くて機能に優れたパソコンが登場し、個人店で組み立てるパソコンの需要に限界を感じるようになったことが、農業一本へと長嶋さんの背中を押した。その後、野菜農家の全国大会に参加して刺激を受けたのをきっかけに、品目をトマトに絞ることにした。
パートは7年ほど前に雇用し始めた。最初は2人からスタートし、現在では7人になった。すべて女性で、年齢は20代から50歳前後まで。トマトの栽培や調整、出荷など営農の全般を通して欠かせない働き手だ。
雇用を始めた当初から、どうやって仕事を平準化するかを考えてきた。毎年、作付け前には繁閑の差が大きくならないように計画を立てる。年間を通じてほぼ途切れなく収穫できるよう、栽培の工夫も重ねてきた。それでも天候不順や作物の病気の影響で、仕事の量に波が生じることがある。
農場を運営する立場としては、人を多めに雇っておき、何かの事情で人手が足りなくなったときに備える余裕はない。パートの側からすれば、突然出勤を求められたり、急に仕事がないと言われたりしたのでは働きにくい。
ではどうやってパートが働きやすい環境を整えてきたのか。「自分がパートの立場だったら、農場にはこうしてほしいと思うことを形にしてきた」。長嶋さんはそう強調する。具体的に何を変えてきたのかを見てみよう。