半農半Xもかなう!? 特定地域づくり事業協同組合って?
2022年3月、ジャガイモの収穫の繁忙期といううわさを聞きつけて、鹿児島県の沖永良部島にやってきました。農業が基幹産業のこの島では、サトウキビや花き、和牛などの生産が盛んで、この時期はどこの農家も人手を欲しているそうです。
青い海と温かい人々が暮らす楽園「沖永良部島」で働こう!
農作業を掛け合わせてマルチワークをしている女性発見!
コバマツがジャガイモ農家で農作業をしていると、面白い働き方をしている女性と出会いました。
水川千代(みずかわ・ちよ)さん。冬はジャガイモ・花き農家で繁忙期の農作業の手伝い、夏・秋はキクラゲ農家で事務作業のお手伝いなど、マルチワークをしているそう。
コバマツ
水川さん
私以外にも農業と関わりながら、マルチワークをしている若者が多くいるんです。
よかったら、組合の事務局長や、他の組合のメンバーも紹介しますよ!
農業の人手不足の確保にもつながる、特定地域づくり事業協同組合制度とは
沖永良部島では、人口減少などに悩む地方の人材確保を目的とした「特定地域づくり事業協同組合制度」が活用されているそうです。農業など一つの事業者では年間を通した雇用がなくても、島内の他の事業者の仕事と組み合わせて通年の雇用を作り出すことで、Uターン者や移住者を呼び込むことが目的だそうです。えらぶ島づくり事業協同組合事務局長の金城真幸(きんじょう・まさゆき)さんに詳しく話を聞いてきました。
■金城真幸さんプロフィール
えらぶ島づくり事業協同組合事務局長。神奈川県出身。総務省の地域おこし協力隊制度を活用し、沖永良部島に移住。2020年3月まで和泊(わどまり)町役場で集落支援、古民家改修、移住者支援、観光による地域活性化や農家支援に取り組んできた。現在は特定地域づくり事業協同組合制度を活用し、事業者と働き手のマッチングを行っている。 |
組合が年間を通じて正規職員を雇用し、安定的な雇用環境と一定の給与などを確保した上で、組合員である事業者の人手が必要な時期に職員を派遣し、人手不足を解消することが狙いです。沖永良部の職員は現在8人いて、平均年齢が26歳。若い人材が着実に島に根付いてきていますね。
金城さん
農業は繁忙期が限られていて、それ単体だとなかなか地域に人が定着しないという課題がありますよね。コバマツも、一つの地域で通年農作業がないから、農作業がある地域をスポットで移動していますし。
実際にマルチワークしている人たちに話を聞いてみた
実際に、特定地域づくり事業を活用し組合の職員として事業所に派遣されている2人に、マルチワークで農業にどのように関わっているのか、また職員として現場に派遣されるメリットは何かを聞いてきました。
ITコンサルからマルチワーカーへ
寺内祐介(てらうち・ゆうすけ)さんは、埼玉県出身の28歳。東京のITコンサルの会社を経て、2021年9月にえらぶ島づくり事業協同組合の職員として沖永良部島に移住してきました。組合の事務作業や島のPR動画作成の他、冬は農業、夏場はスーパーの青果担当としてマルチに活動しています。
僕は繁忙期の3カ月って決まっていたので、なんとか頑張れましたが。ずっとこれを続けるのは無理だなと思いました。その点、他の仕事を掛け合わせたマルチワークの一つに農業があるという関わり方だったら、期間が決まっていて関わりやすいなと。
寺内さん
でも、受け入れる農家や事業者側も、ただ「若い人が欲しい」と言っているだけじゃだめだと、実際に現場に入って感じました。現場では、人手不足で人に来てもらっても、人手不足だから新しく来た人に教える時間もなく、そうするとまた人が辞めていく……という負のスパイラルの状態だと思うんです。
農業経験を生かして移住
栃木県から移住してきた直井桃花(なおい・おうか)さんは22歳。冬は花き農家、夏は島内のレストランや、洞窟ツアーガイドで活躍しています。専門学校では植物に関する勉強をしていて、農業は身近にあったとのこと。
自然が好きで、自然が身近に感じられる沖永良部島に引かれて移住を決意したそう。
直井さん
ここでは組合の職員としていろいろな職種の現場に派遣されるので、履歴書の職歴を「えらぶ島づくり事業協同組合」だけにできるという良さも感じています。
農業しか仕事の選択肢がないと、初心者だと相当の覚悟が必要ですが、マルチワークだと、まずはやってみて、合わなそうだったら農業で働く期間を短くしたり、逆に案外いけるじゃんってなったら農業の期間を延ばすこともできそうですね。
導入している農家に話を聞いてみた
組合員として人材の受け入れ先となっている農家にも話を聞いてきました。
こちらは、花き農家の有限会社沖農園の代表、沖裕仁(おき・ひろたか)さん。
毎年、外国人の技能実習生を受け入れていましたが、今年は新型コロナウイルスの影響で当てにしていた人員が確保できなかったそうです。特定地域づくり事業で、日本人の若い人材が来てくれるのは助かるとのこと。繁忙期だけ手伝いに来て帰るという関係性だけではなく、農園に定着してくれる人材をどう作っていくかが今後の課題だそうです。
沖フラワーの沖由美子(おき・ゆみこ)さんは、ジャガイモや花きの栽培、繁殖和牛の生産をしています。組合から人材が派遣されることで、いままで自分達のフィルターでは出会えなかった若くてやる気のある人材と出会えたとのこと。職場も活気づき、新しく入ってきた人に負けないようにと既存スタッフのやる気向上にもつながっているそうです。
農業現場でも担い手不足が課題となっていますが、その原因の一つが農業は繁忙期が限られていて、なかなか通年雇用ができないということ。しかし、えらぶ島づくり事業協同組合のように、農繁期以外は地域内の他の事業者に人材を派遣できる仕組みがあれば、通年で人手を確保することができ、人も定着していくことができるのではないかと感じました。
地域内にある事業所の仕事を掛け合わせて働く、マルチワーク型で農業と関わる仕組みは、今後、農業だけではなく地域の担い手不足確保のモデルの一つになるのではないでしょうか。