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発酵の力で病害虫を寄せ付けない! 農薬も肥料も使わない、自然栽培とは?

発酵の力で病害虫を寄せ付けない! 農薬も肥料も使わない、自然栽培とは?

全国の農場を渡り歩いているフリーランス農家のコバマツです。今回は沖縄県のモリンガファームさんご園芸にやってきました。暑い沖縄は農薬を使わないと害虫被害が多そうですが、ここでは農薬も肥料も使わない自然栽培をしているとのこと。
その鍵となるのは、土の「発酵」。発酵の力で病害虫を発生させない土づくりができるそうです。土を発酵させるってどういうこと? その実践者に直接聞いてきました!

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暑い沖縄で虫が来ない土壌づくり!?

今回訪れたのは沖縄県南風原(はえばる)町。「農薬も肥料も使わない自然栽培を実践している人がいる」と聞いてやってきました。
本土より暑い沖縄では害虫の発生も多いので、農薬の使用量も多そうというイメージを持っていたコバマツ。実際、沖縄協同青果の市場で保健所の抜き打ちチェックにひっかかってしまった生産者がいたと聞き、市場の調査に同行取材したこともありました。

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そんな沖縄で農薬を使わないなんて! 虫食いの被害はないのか? 虫に負けずに作物が育つのか? 実際にその農法を実践している「モリンガファームさんご園芸」の赤嶺彰弘(あかみね・あきひろ)さんを訪問してみることにしました。

モリンガファームさんご園芸直売所

モリンガファームさんご園芸の直売所にお邪魔します!

赤嶺さん

赤嶺さんは沖縄県南風原町出身。長年、沖縄県で観葉植物を栽培し東京の市場に販売していましたが、孫がアトピー性皮膚炎を発症して入退院を繰り返していたことから、子供の体に良い安心安全な野菜を作りたいと、農薬や化学肥料を使わない自然栽培に取り組むようになったそう。

コバマツ

沖縄で20年近く自然栽培を実践されているそうですね! 暑い沖縄で農薬を使わずに野菜が育てられるなんて信じられないんですけど……。
自然栽培の仕組みさえ理解すれば、どこの地域でも誰でもできるよ。多くの人が病害虫が出ると農薬を使うという対症療法を選びがちだけど、虫を寄せ付けない土づくりをすればいいんだよ。

赤嶺さん

虫を寄せ付けない土づくり?! どうやってやるんですか?
発酵の考え方を生かせば簡単にできるよ。菌の力を生かして、土を発酵させれば、病害虫を寄せ付けない土作りができるんだ。

そう言われてもにわかには信じられないコバマツ。その方法について詳しく聞いてみることにしました!

モリンガファームの野菜

モリンガファームの直売所では他の自然栽培の農家の野菜も販売されている。どれもキレイで立派な野菜!

大切なのは土の発酵?

赤嶺さんによると、土の発酵はぬか漬けをつける「ぬか床」のイメージなんだとか。
ぬか床は米ぬかに塩や水を加えて混ぜたもので、そこに野菜を漬け込むと野菜についていた乳酸菌や酵母菌などの菌が働いて、おいしい漬物ができます。その菌の働きが「発酵」です。

土を発酵させるってどうやってやるんですか?
土に空気を入れてあげればいいんだよ。
良い菌が増えて発酵した土には虫が寄らないけど、悪い菌が増えて腐った土は変なにおいがして害虫が寄ってくるんだ。

たしかに、いろんな畑に行きますが、確かに変なにおいがする畑もありますね。あれは土が腐敗していたからなんだ! よくわかりました!

土に空気を入れるといえば、単に耕せばいいのかと思ったコバマツ。実際、赤嶺さんの畑の土はふかふかで、棒を挿すと深く土に入っていきます。

棒を土に入れる

長い棒をグイグイッと畑に差し込む赤嶺さん(画像提供:YouTube「けんゆーの無農薬栽培チャンネル!」)


土に棒全部入る

あっという間に全部挿さってしまうほどの柔らかさ(画像提供:「けんゆーの無農薬栽培チャンネル!」)

耕して土に空気を混ぜ込むだけでこんなにふかふかになるんですか?
畑を耕すときに、無農薬の枯れ葉を集めて土に入れてあげる。そうすると、枯れ葉についている枯草菌が働いて土を発酵させてくれて、土を柔らかくしてくれるんだよ。これが発酵させた枯れ葉だよ

発酵させている枯れ葉

発酵させた枯れ葉も肥料として使えるように常備してある


発酵させている土アップ

発酵した葉は温かくてふかふか

すっごい温かくてふかふかしている!
発酵している証拠だよ。発酵が始まるとだんだん土がふかふかになっていって空気が入りやすくなっていく。さらに発酵するといういい循環がまわってくるんだ。

枯れ葉はもともとそこに付着していた枯草菌などによって発酵していきます。それを土に混ぜ込むと土の中で菌が働いて土の発酵が進み、団粒構造が形成されます。団粒構造のある土は柔らかく、作物も根を張って育ちやすくなる効果も知られています。さらに害虫も寄り付かないとは、コバマツにも実践できる農法のような気がしてきました。

連作は作物を育てやすくする!

良いことづくめのような赤嶺さんの自然栽培の農法ですが、さらに驚きの効果があると言います。

連作することでどんどん自然栽培で育てやすくなるよ。

え⁈ 連作って栽培の最大のタブーと言われているのに?

連作は「連作障害」を引き起こすので、野菜の栽培にとって最もやってはいけないことだと思っていました。連作障害は、同じ科の野菜を植え続けることで、土の中の栄養素や土壌生物のバランスが崩れることによって起こると言われています。

でも、よく考えると、自然界で人に栽培されることなく生えている雑草に連作障害はありません。ということは、農薬や肥料を使わない自然に近い栽培方法なら、土の中の栄養素や土壌生物のバランスが崩れることはないということでしょうか。

野菜は自然に生えている雑草と違って、農薬や肥料を与えるなど外部環境の要因がある。
農薬によって、病害虫だけじゃなくて微生物も死んでしまう。そして、肥料を与えていると土壌の栄養バランスが崩れてしまう。細菌類のバランスが崩れて、植物の根を傷つける。
自然栽培では農薬も肥料も与えないから、土壌の微生物や細菌類も働くし、栄養バランスも良くなって、その作物が育ちやすい環境ができあがっていくんだ。
レタスを植え続けたら、レタスが育ちやすい菌がどんどん増えていって、収穫も早くできるようになったりするんだよ。

レタスと赤嶺さん

同じ場所に植えるほど生育が良くなると話す赤嶺さん

発酵の力のおかげで防除のための農薬を使ったり土壌消毒をしたりする必要がなく、逆に作物の生育に合った菌が増えていくのだそう。普通なら土壌消毒をして生育に悪い菌を殺すことを考えますが、菌の力を生かして野菜が育ちやすい土壌を作るとは、考えたこともありませんでした!

ミミズのいない畑の意味

さて、ここまで菌や微生物の力を使って土づくりをしてきた赤嶺さんの話を聞いてきましたが、土づくりといえばよく登場するのがミミズです。これだけふかふかで良い土だったらミミズもたくさんいそうですが……。

うちの畑にはミミズはほとんどいないよ。うちは菌を活用して発酵の力で土作りをしているからね。ミミズのエサとなる土壌有機物がないからミミズがいないの。

そうなんですか?! ミミズがたくさんいればいい畑とは限らないんだ!

ミミズがいる畑=良い畑と思われがちですが、赤嶺さんによれば決してそうではないそう。ミミズは分解されていなかったり腐敗していたりする土中の有機物をエサとしていて、それらを食べて排せつすることで植物が吸収しやすい状態にしてくれます。つまり、ミミズが多い畑は未分解の腐敗物が多いということ。だから、発酵の力で土づくりをしている赤嶺さんの畑にはほとんどミミズがいないということです。

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自然栽培はどこでも誰でもできる!

でも、こんなにうまくいくなんて、ものすごい技術が必要なのではないでしょうか。やっぱり素人のコバマツがやったら虫が大量発生してひどいことになるのでは……。

お話を聞いた限り、シンプルで簡単そう!と思ってしまったんですが、やっぱり土地の条件とか赤嶺さんならではの技術とか必要ですよね……?
原理原則が分かれば、どこでもだれでもできるよ。僕のところには沖縄の人たちだけじゃなくて、内地(沖縄以外の都道府県)からの移住者も「自然栽培のやり方を教えてほしい!」って訪ねてくる。もう500人くらいの人が自分で自然栽培を実践しているよ。

そんなにいるんですか! 皆さんやり始めてどれくらいでうまくいくんですか?
家庭菜園規模の人、新規就農した人、さまざまだけど、1年目から上等なものを作っている人もいる。
発酵と菌の力を理解すれば土の条件や地域に関係なく誰でも挑戦できると思うよ。

赤嶺さんレタス畑で

暑い沖縄では、農薬を多く使わなければいけないのではないか、自然栽培などやっている人はいないのではないかと思っていました。しかし、今回沖縄県で出会った赤嶺さんは20年以上自然栽培を実践していました。暑い地域でも土を発酵させて、虫を寄せ付けない土を作ることで、農薬を使わない自然栽培ができるのだということを知りました。暑い沖縄でも、できる方法がある。他の地域でも菌と発酵の力を活用することで、農薬に頼らない栽培を実践できる可能性があるのではないかと思いました。

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