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「消費者との距離を近づけたい」。田んぼのオーナー制度とかりんとう製造に共通する思い

窪田 新之助

ライター:

「消費者との距離を近づけたい」。田んぼのオーナー制度とかりんとう製造に共通する思い

田んぼのオーナー制度の運営と、米粉を原料にしたかりんとうの製造。いずれも農業法人・株式会社米(ベイ)シスト庄内が、近年始めた事業だ。両者に共通する目的は、消費者との距離を近づけること。発案した同社の専務・佐藤優人(さとう・ゆうと)さんに話を聞いた。

稲の生産からコメの直売までを行う会社

米シスト庄内は、佐藤さんの父で同社の代表を務める彰一(しょういち)さんが、仲間の稲作農家7人とともに1994年に設立した。コメを直売するためだ。共同出資して乾燥調製施設を用意し、その利用組合として始まった。1998年に法人化している。

現在の経営面積は42ヘクタール。稲単作である。このほか40ヘクタールの田植えや稲刈りなどの部分的な農作業に加えて、20ヘクタール分の乾燥調製を請け負っている。

作ることに関わるからこそ、最高のコメになる

田んぼのオーナー制度を発案した佐藤優人さん

もともとは稲の生産からコメの直売までを事業としていた米シスト庄内。これに、田んぼのオーナー制度「MYPADDY YAMAGATA(マイパディ・ヤマガタ)」を2019年に加えたのは、2011年に都内の大学を卒業して戻ってきた佐藤さんだ。
発想のきっかけは、農家による「うちのコメが一番うまい」自慢。MYPADDYは「自分の田んぼ」という意味だ。佐藤さんが説明する。
「どの農家も自分で作ったコメが一番うまいと信じているけど、それはなぜなのか疑問だった。あるとき、自分が毎日毎日手をかけたコメが一番おいしいのは当たり前じゃないか、と気づくようになって。自分のなかでその考えを広げていったとき、だったら都会の人たちに山形に自分の田んぼを持ってもらい、作ることに関わってもらえれば、その人たちにとって最高のコメになるんじゃないかと思ったんです」

飲食店や学習塾が食育で利用

MYPADDY YAMAGATAでは、年会費(非公開)を払えば、5アールの田んぼを「所有」するオーナーになれる。普段の管理をするのは米シスト庄内。オーナーは、いつでも田んぼに来て、農作業を手伝える。希望すれば、田んぼの状況を撮影した写真を配信してくれる。実りの秋には新米が届けられる。

現在の契約先は12社。オーナーは飲食店や学習塾が多い。佐藤さんは「学習塾は食育を、飲食店は山形に田んぼを持っているというアピールを目的とするところが多い」と説明する。

オーナー企業がお米を自社の宣伝のために配る記念品としても使ってもらえるよう、要望に応じて、社名を印字する独自の包装も制作している。これは個人の贈答用にも展開しているところだ。

生産者と消費者の断絶をなくしたい

佐藤さんが田んぼのオーナー制度を始めたのは、生産者と消費者の距離を近づけたいため。逆に言えば、両者の間の距離が離れていると感じていたのだ。
「高齢の人たちが同窓会を開くと、この周辺のホテルはすべて埋まります。実家がなくなってしまい、田舎との縁が薄れる人が増えているんですね。一方で、僕らも消費者との距離が遠くなって、誰が自分たちのコメを食べてくれているのか分からない瞬間がある。作る人と食べる人のこうした断絶がうっすらと広がっている感覚があって、それをなんとかなくしていきたいんですね」

こう語る佐藤さんは、田んぼのオーナー制度を運用する知見を蓄積して、いずれは全国の稲作農家に共有することを構想している。都会の個人に売りたい人と地方に田んぼや畑が欲しい人を結びつけるつもりだという。

自社で生産した米粉でかりんとうを製造

米シスト庄内が米粉を原料に製造する「かりんと百米」

田んぼのオーナー制度と同じ思いを持って、2012年から事業としているのは、かりんとう「かりんと百米(ひゃくべい)」の製造と販売だ。原料は自社で生産したコメから作った米粉。佐藤さんによると、小麦粉を一切使わず、米粉だけを原料にした世界初のかりんとうだという。揚げる油には米油を使い、ラインアップは黒糖や白糖、ゴマなど7種類を展開している。

開発に当たって苦労したのは、まさに米粉だけでかりんとうを製造する加工技術だ。米粉だけで揚げると、「普通なら爆発します」(佐藤さん)。油の温度や米粉を原料にした生地の温度などを何百回と試した結果、「たまたま爆発することなく、おいしく仕上がる方法を見つけました」とのこと。この加工技術は、優良ふるさと食品中央コンクール新技術開発部門で農林水産省食糧産業局長賞を受賞している。

かりんとうを作った理由について、佐藤さんは「いろいろな場面で、うちのコメを身近に感じてもらえるようにしたかった」と語る。
佐藤さんは、田んぼのオーナー制度と同じように、かりんとうも自社だけの取り組みにとどめるつもりはない。ほかの農家から原料となるコメを預かって加工し、受託先のブランド品として製品化することも請け負っている。もちろん、その理由は「生産者と消費者の距離を近づけたいため」だ。
米シスト庄内は同様の目的でほかにもいくつかの仕掛けを始めているが、それはまたの機会を得て紹介したい。
 

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