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AIとARでブタの体重を瞬時に判定 世界が注目するメガネとは

山口 亮子

ライター:

AIとARでブタの体重を瞬時に判定 世界が注目するメガネとは

AIとAR(拡張現実)を組み合わせ、ブタを見るだけで瞬時に体重を自動で判定するメガネが、畜産王国である宮崎県で開発された。ブタの体重は豚衡(とんこう)機という体重計を使って数人がかりで測る必要があるが、このメガネを使えば作業者1人で楽に判定できる。開発した宮崎大学工学部教授の川末紀功仁(かわすえ・きくひと)さんは、国内外の研究機関や企業と製品化のための共同開発を進めている。

なぜブタの体重と枝肉の重量が瞬時に分かることがすごいのか

■川末紀功仁さんプロフィール

宮崎大学工学部工学科教授。1996年、長崎大学で博士号(工学)を取得。10年ほど前に和牛の体重を判定するシステムを開発していたが、当時はまだAI技術が発達しておらず、実用化に至らなかった。開発した「ブタの体重が見えるメガネ」は、農林水産省が選ぶ「2021年農業技術10大ニュース」に選ばれた。

ブタの体重が見えるメガネは、上に3Dカメラが固定されており、通常のメガネの位置にスマートグラスがある。掛けている人がブタに視線を合わせると、カメラの情報がコンピューターに送られ、その豚の体重を瞬時に推測する。そして、スマートグラスの画面に枝肉(※)の重量と体高(地面から測った背の高さ)とともに体重を表示する。作業者の両手がふさがらないので、記録を付けるといった他の作業をしながら体重を判定することが可能だ。

※ 家畜の頭部や四肢の先端、皮や内臓などを取り除いた骨付きの肉のこと。

ブタの体重が見えるメガネ(画像提供:川末紀功仁)

国際特許を出願中で、目下、ドイツなど国内外の企業が製品化を進めている。2021年5月に川末さんたちが開発の成功を発表したときには、豚肉が「国民食」と言っていい中国で大々的に報じられたという。ブタの体重と枝肉の重量が瞬時に分かる。それがなぜ、そんなにすごいのか。
その答えは、豚肉の格付けを決める重要な要素が枝肉の重量だから。そうであるにもかかわらず、豚衡機を使った体重測定があまりに大変なため、多くの農家が経験と勘で出荷のタイミングを見極め、結果として適正体重での出荷が難しくなっている

苦労して体重測定しても参考値でしかない

養豚場で豚衡機を使っているようすを川末さんが動画で見せてくれた。体重が100キロほどあるブタは、なかなかすんなり豚衡機に乗らず、あちらこちらへ移動しようとするのを3人がかりで何とか押しとどめ、ようやく豚衡機に入れることができた。ブタは測定中も動き回るため、針が激しく振れるのを何とか読み取っている。

「このくらいのサイズになると、体重を測るのが非常に大変なんです。この3人はベテランで、かなり手際よく作業している方なんです。しかも、こんなに苦労して測っても、枝肉重量そのものは測れないので、参考値にしかなりません」(川末さん)

ブタは1日にエサを3キロ、水を15リットル以上飲み、ふん尿の量も多く、体重の変動が大きい。それだけに、体重を測らず出荷する農家が多い。格付けは極上、上、中、並の4段階あり、川末さんによると出荷されるブタの50%以上が中か並になっているのが実情という。

格付けに重要な枝肉重量を直接推定

より高い格付けを狙えるようにと開発したメガネは、枝肉の重量を直接推定するのが強み。コンピューター内に標準的な枝肉の形状のモデルを保存していて、それと3Dカメラの映像を照合してAIが枝肉重量を推測する。その枝肉重量に一定の係数をかけて、体重を求める。

3Dカメラを使って体重を可視化する試みは海外でもあるが、ブタを真上から撮影しなければならない。その点、「斜めなど、どの方向から撮影しても計測できるというのは、このシステムだけ」と川末さんは説明する。

「一般的に人の体高はブタより高いので、ブタの背筋は見えます。動物が背筋を中心に左右対称なのを利用して、体の片側しか見えなくても、背筋を中心に見えている片側の情報を反対側にもコピーすることで全体像を生成します」

背筋を中心に、見えている側の情報を反対側にもコピーする。枝肉重量を直接推定するモデルをコンピューター内に保存している(画像提供:川末紀功仁

養豚場では一つの囲いの中に多くのブタを飼うため、体が重なり合って、全体像が見えないこともある。そういう場合は、AIで体高や体長、胸囲、腰回り、表面積などさまざまな情報を分析して体重を算出する。
「AIによるロバスト性、頑強性とも言うんですが、その時々の状況に左右されないという点での向上も、私たちのシステムの特徴です」(川末さん)

ブタが重なり合って全体が見えないといった悪条件でも、AIがさまざまな情報を分析して体重を算出する(画像提供:川末紀功仁)

自動選別システムも

川末さんはメガネだけでなく、ブタの自動選別システムも作っている。ブタが餌場に向かう通路にカメラが設置してあり、撮影して体重を判定し、115キロ以上の場合は出荷エリアに誘導する。作業者はブタの選別に手を掛ける必要がなく、他の作業に従事できる。5分間ほどで10頭を選別することが可能だ。
「ただ、こちらのシステムは1台がかなり高額なため、実用化の壁はずっと高いですね」(川末さん)

豚肉に関しては、中国などの購買力が高まることで、日本が現状のような輸入を続けることが難しくなるとの懸念もある。国内の養豚場は規模拡大が進んでいて、多頭飼育が一層進むはずだ。それだけに、作業者が1人だけでブタの体重を可視化でき、肉の格付け向上につながり得るメガネの社会実装に期待が集まっている。

豚の体重が見えるメガネ: AI(人工知能)とAR(拡張現実)技術を用いて豚の体重を可視化

AIとIoTによる養豚の自動化

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