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皮だって6次産業化! 野球グラブなどの革製品としてブランド化する「淡路島レザー」の取り組み

皮だって6次産業化! 野球グラブなどの革製品としてブランド化する「淡路島レザー」の取り組み

レザーの財布やバッグなどを愛用する人は多いことでしょう。しかし、そのレザー素材の生産地まで把握している人は少ないと思います。ましてや生産者まで知ることはほぼないはず。2021年に生まれたブランド「淡路島レザー」は、生産者どころかその牛の生まれまで知ることができる製品です。ブランド牛として評価されてきた淡路ビーフの皮から、生産地である淡路島の革製品作家が製作し販売する淡路島レザーの仕掛けについて紹介します。

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コロナ禍で企画された淡路島レザー

業績悪化などを受けて企画

2020年からの新型コロナウイルス感染症拡大で痛手を受けた外食産業。その影響は生産者にも広がり、兵庫県の地域ブランド牛「淡路ビーフ」の生産者も例外ではありませんでした。
こうした状況に、淡路ビーフブランド化推進協議会を中心として作られたのが、淡路島レザー協議会です。
代表を務める高原悠(たかはら・ゆう)さんは「コロナ禍で相場が下がったのは、肉だけでなく皮も同じです。もともと高く取引されていたわけではありませんが、コロナ禍で1枚の利益が10円程度になってしまったようです。そこで、その皮を生かすことで、ブランド化を進めると同時に、淡路島の牛の命に、もっと最後まで責任を持ちたいという思いが強まりました」と話します。
そこで淡路島レザー協議会が企画したのが、いわば“生産者の顔が見えるレザー商品”でした。

地元生産者×地元作家による6次産業化

牛は、生産から出荷、販売までどのような経路をたどったかがわかるようになっています。
これは「牛の個体識別のための情報の管理及び伝達に関する特別措置法(牛トレーサビリティ法)」によるもの。
そのポイントが、牛1頭ごとに割り振られた個体識別番号です。
牛たちの耳につけられているタグ(耳標)には、数字10桁の個体識別番号が記されており、これによって、どこで生まれ育ち、管理された牛かがわかります。
しかし、革製品になるとその管理は難しく、どこで生まれ育った牛の皮かまではわからないことが一般的。そこで、革製品でも消費者が個体識別番号を知ることができるようにしたのが、淡路ビーフの皮を使った革製品、淡路島レザーでした。

淡路島レザーができるまで

ブランド化されている「淡路ビーフ」

淡路島の五色ファームでは3つの牛舎で200頭超の牛を育てている

淡路ビーフは、兵庫県産黒毛和牛の但馬(たじま)牛で、淡路島で生まれて兵庫県内で育ったもののうち、一定の品質規格を満たしたもののみを指します。
淡路島内では35戸の生産農家が、年間約150頭の淡路ビーフを出荷しています(2021年、近畿農政局畜産課調べ)。

坂本さんはもともと建築関係の仕事をしていたが、1983年に30代で五色ファームを設立した

この淡路ビーフを育てる農家の一人が、五色ファームの坂本正和(さかもと・まさかず)さん。年間120~130頭の淡路ビーフや神戸ビーフを出荷し、第98回兵庫県畜産共進会では最優秀賞を受賞するなど、多くの受賞歴を持つ畜産農家です。
坂本さんは、淡路ビーフの皮を製品化する相談を受けた2021年当初のことを振り返ります。
「あえて言えば、皮自体はタダみたいなもの。それが何かしらの宣伝になるなら良いと思いましたし、何より革製品から生産者の情報を追跡できることは良いんじゃないかなと感じました」
こうして生産者の協力も得ながら、淡路島レザーの取り組みは進んでいきました。

6次化にあたっての苦労

出荷された皮を製品化するためには、“なめし”という加工をほどこします。
なめしとは、皮が腐ったりしないように特殊ななめし剤を使うなどして、皮から製品材料に適した“革”に加工することです。
トレーサビリティーを重視した淡路島レザーは、この“なめし”の工程に苦労がありました。
一般的に皮は、ひとまとめにして、なめしを行うといいます。革製品は、口に入る食肉のようにトレーサビリティーが確保されていません。そのため、1つずつ個体識別番号とひもづけたまま、なめし工程を行ってくれる協力先を探すことが課題でした。
「しかも、淡路島レザーは小ロット生産。小ロットでも受けてくれて、しかもトレーサビリティーをもって加工してくれる先を探しました。結果的に、当協議会と関係のある神戸レザー協同組合から紹介された、県内の業者が引き受けてくれることになりました」(高原さん)

島内の作家がデザイン・製品化

こうして、なめしを行った革は淡路島レザーの作家の手にわたり、製品化されています。作家は5人。皆、淡路島で活躍している作家です。
その一人である、Fonda leatherworks(フォンダ レザーワークス)の井口裕章(いぐち・ひろふみ)さんに話を聞きました。
「話をいただいたときは『来た!』と思いましたよ。今まで僕らが扱っている革は『北米産』『フランス産』など、大きなくくり。それが、いきなり『淡路島産』というのは衝撃的でした。ジビエでは、こうした取り組みを聞いたことがありましたが、イノシシやシカの革は用途が限られます。地元の、しかも牛革は、面白いと思いましたね」

すべての革製品は手作業だという井口裕章さん

しかし不安はなかったのでしょうか。
「少しの不安はありましたよ。『使いづらい革だったら……』とか。けれど、いざ見たら想像以上の良さ。皮をなめすのはプロの方ですから、心配する必要がなかった(笑)。しかも淡路島レザーは傷が少ない。海外で放牧されて育った牛などは、かゆいときに有刺鉄線で背中をかいたりするので傷があります。肉質が優先でしょうし、仕方ないことですが」(井口さん)
先ほどの五色ファームの場合、牛を屋内でこまめなブラッシングなどもしながら育てています。そのため、こうした傷が少なく、製品にもしやすいそうです。
丁寧に育てられた牛の良質な革は、こうして5人の作家が財布や靴などにして、それぞれ販売しています。

淡路島レザーによる靴ベラ。ロゴデザインと個体識別番号の刻印がされている

生産者と消費者を製品でつなぐ

プロ野球「オリックス・バファローズ」の選手にも贈呈

オリックス・バファローズの村西良太選手(左)と安達了一選手。村西選手が手に持つのが淡路島レザーを使ったグラブ(画像提供:淡路島レザー協議会)

淡路島レザー協議会では、さらなるブランド化を目指して、さまざまな取り組みを行っています。
そのPR活動の1つとして、2022年1月には、2021年パ・リーグ優勝を果たしたプロ野球オリックス・バファローズの村西良太投手(淡路市出身)など3選手に、淡路島レザーで作ったグラブと、淡路ビーフを渡しました。
高原さんは「選手にも好評でしたが、グラブにはグラブ用の革があり、差し上げたものはしっとりしすぎていて実用的ではありません」としつつ、「選手は『実用性があれば欲しい』とも言ってくださって、現在は実用的なものを作れるように研究中です」と話しています。

グラブは3種作られた。淡路島のスポーツ用品店からは「実用品ができたら面白い」と期待がかかっているという(画像提供:淡路島レザー協議会)

「職」のトレーサビリティー

高原さんは淡路島レザーの取り組みについて、「始めて1年ほどが経ったところですが、一番のやりがいは、生産者の喜びを感じること。『うちで育てた牛を使って財布や名刺入れを作ってくれないか?』というオーダーもありました。やはり大切に使ってもらうことが何より。地元の作家と生産者をつなげるなど、地元に還元できる活動をしていきたい」と話します。
これについて革製品作家の井口さんは、生産者と出会った実感を次のように語りました。
「今まで消費者の顔は見ていましたが、淡路島レザーの取り組みのおかげで初めて生産者と会いました。あいだにいるという自分の立ち位置を改めて感じましたね」
さらに、淡路島レザーの持つ可能性について「淡路島レザーの最大の特徴はトレーサビリティーですよね。サステイナビリティーや動物愛護の観点からも、すべてを透明化して、食肉の副産物として皮を有効活用していることを示すことは、おそらく今後もっと必要になるのではと思いますね」と続けました。
SDGsなどの観点でも、資源の有効活用に注目が集まっている昨今。資源を余すことなく活用するだけでなく、そのたどってきた経路まで見せるようにすることで、一層の愛着を感じてもらえる商品を生み出せるのでしょう。
育てた人、製品にした人、それぞれの顔が見える「職」のトレーサビリティーはブランド力を強めていく、1つの仕掛けではないかと感じます。

淡路島レザー協議会

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