くりーむパンの八天堂が、農福連携に挑む理由
冷やして食べる「くりーむパン」で倒産寸前から全国区となった八天堂(本社・広島県三原市)。和菓子に始まり、和洋菓子、パンへと業態を変え、今年で創業89年を迎えます。農福連携では、社会福祉法人と共に取り組む生活困窮者の自立支援のビジネス化に挑戦しています。
八天堂3代目の現社長には福祉に対する並々ならぬ思いがあり、自ら福祉施設でのパン教室などのボランティア活動を行っていました。2017年7月には千葉県木更津市の社会福祉法人との連携で就労支援B型事業所として第二工場を設立し、知的障がいを持たれた方の工賃アップを目指しています。
2021年には、広島県竹原市の社会福祉法人と連携した、生活困窮者の就労による自立を支援する農福連携事業への取り組みを開始しました。同社が福祉に寄与する次なる事業として農業を選んだ背景には、2016年の農業6次産業化のコンテンツとしてスイーツバーガー事業への挑戦がありました。
「以来、八天堂のリソースを活かした農福連携のあり方について社内で議論を重ねてきましたが、支援対象者は知的や精神の障がいを持たれた方を念頭に置いており、ぶどう園の構想もありませんでした」と林さんは振り返ります。
広島県竹原市のぶどう栽培は、100年以上の長い歴史があります。その中で、オーナー不在となった遊休ぶどう園を自治体の事業マッチングで引き継ぎ、事業として実を結ぶことができたのは、同社の福祉に対する強い思いと実績がありました。
「しかし、思いだけでぶどう栽培はできません。農業の知見がなかったところは、農研機構出身のエキスパートの参画を得られたことで農園を立ち上げることができました」(林さん)
鳥獣被害、販売苦戦…農業初参入の試練の先に見えた活路
八天堂ファームでは、敷地面積8000㎡で10品種のぶどうを栽培し、生活困窮者(以下、支援対象者)2名を受け入れています。2021年1月に活動を開始。同年4月に支援対象者を初めて受け入れ、圃場の再生から栽培へと、ぶどう園事業が動き出しました。
しかし、収穫に向けて袋掛けした9000房のうち5000房がイノシシの食害に遭い、初年度の収量は当初見込みの半量と厳しい船出となりました。ぶどうの販路を持たない同社は、地元の直売所、道の駅、ふるさと納税サイトなどで販売しましたが、生食用ぶどうは同時期に一斉に出回るため価格競争に巻き込まれ、コモディティ化しやすく、売れない現実を突きつけられました。
その中で、活路を見出したのが、八天堂の開発力による加工の付加価値です。広島空港前に展開する八天堂ビレッジのカフェでぶどうフェアを実施し、収穫したぶどうをくりーむパン、パフェ、パンケーキ、ドリンク等に加工。予想を大幅に上回る金額を売上げ、手応えを得ました。とはいえ、ぶどうの使用数は収穫した4000房の1割にすぎず、八天堂ビレッジだけでは到底さばくことはできません。
そこで次なる一手として同社が選んだのが、ギフト商品化です。クラウドファンディングのMakuakeのプロジェクトを立ち上げ、ぶどうジャムを使用したくりーむパンの詰め合わせで目標金額を大幅に上回る応援を獲得。「期待どおりの成果が得られたことで、当社が最も得意とする加工と商品開発により、いろいろな圃場の果物と組み合わせた事業拡大が見込めることを確信しました」(林さん)
福祉面でも特筆すべき成果がありました。引きこもりで長らく社会との接点がなかった支援対象者が、対人関係に自信を持って地域のコミュニティに自ら参加してカラオケ大会に出場するなどの行動変容が見られたのです。
「イノシシ被害の際に心配で休みの日にも圃場へ行きたいというほど積極的になった方もいます。特に人の手を必要とするぶどう栽培は、やりがいを感じられて、自分ごと化しやすいのではないでしょうか」と林さんは話します。
同社が目指すのは支援対象者の一般就労です。「ファーマー、福祉人材、それ以外の業種でも、継続的な就労で自立することがゴールです。農業はPDCAサイクルが長いため、未経験者の育成はビジネスとしての難易度が高い。それだけにチャレンジする価値があります」と林さんは意欲的です。
逆転の発想で農業の常識を超える、民間企業による農福連携の可能性
一般的に福祉を絡めたビジネスは収益化が難しいとされる中、同社が農福連携に積極的に取り組む理由は、企業として事業を通じて社会貢献するため。門外漢ならではの発想で、事業のサステナビリティを高めることに徹底的にフォーカスしています。
例えば、八天堂ファームの2作目は圃場の一区画で摘果などの作業を省いた加工用ぶどうの栽培を試みています。また、障がい者が作った商品は控えめに値付けされる傾向がありますが、民間企業がビジネスとして関わり、支援のために買ってもらう売り方ではなく、商品価値を反映した価格で販売することで、従事者へ経済的に還元する循環ができます。「品質を担保して商品価値を高めたうえで、社会的価値を掛け合わせることで、新しいビジネスの可能性が生まれます。企業の姿勢や思いもブランディングの重要なファクターになるでしょう」(林さん)
八天堂ファームでは、利用者の受け入れが2名にとどまり、自社だけの事業展開は限られています。内閣官房長官を議長とした省庁横断の「農福連携等推進会議」のなかで決定した「農福連携等推進ビジョン」(令和元年6月農福連携等推進会議決定)では、令和元年度末から令和6年度末にかけて農福連携に取り組む主体を新たに3,000創出するとの目標を掲げていることから(※)、新規参画企業が自走できる一助としてプラットフォームをつくり事業を回していくことが、八天堂ファームの次の計画です。具体的には、来年度初旬にノウフクJAS商品の販売サイトを開設し、企業と社会福祉法人のマッチングをはかり、日本全国はもとよりグローバルな展開を視野に入れています。
※参考:農林水産省「農福連携の取組主体数について(R3年度末)」
「近年の社会は、困窮、障がい、高齢などの支援対象者が複雑に入り組み、福祉の課題は万国共通です。民間企業のビジネス推進力で農福連携を加速させたい」と展望を語ってくれました。
八天堂が最新事例を共有、農福連携のオンラインセミナー開催
企業による農福連携のオンラインセミナーが、八天堂ファームの林さんを迎えて開催されます。本稿で紹介した取り組みの全容、課題と解決策、ナレッジがさらに詳しく共有されますので奮ってご参加ください。
セミナー概要(事前申込受付は終了しました)
・日時:令和4年8月29日(月) 13:00~16:00 ※12:30~受付開始
・場所:オンライン(お申し込み後、zoomURLを別途事務局よりご連絡いたします)
※リアルタイムでの視聴が難しい場合も、お申込み頂きますと、後日録画URL をお送りいたします。
・内容:農福連携に興味のある方に向けて第一歩の話を【総論】【農業者】【福祉団体】【企業等】の各視点から、講師による講演を行います。
1,【総論】農福連携が目指すもの 〜地域を支える多様な共生社会〜
学校法人東海大学 教授 濱田健司氏
2,【農業者による取組】夫婦2人のイチゴ畑。農福連携のきっかけと初めの一歩
株式会社おおもり農園 代表取締役 大森一弘氏
3,【福祉団体による取組】活躍の舞台は地域!地域の一員として、一人一人が輝ける農業の仕組みとは
社会福祉法人喜和会 太陽の里 事業課課長 矢野真吾氏
4,【企業による取組】農業× 福祉の枠を超え、持続可能な利益循環をめざす「商工農福連携」とは
株式会社八天堂ファーム 代表取締役 林義之氏
5,農林水産省からの情報提供
6,ワークシート&フィードバック
各自の考えを整理・深める時間と、東海大学濱田教授によるアドバイス
※セミナーの内容は予告なく変更する場合がございます。
※応募者多数の際は先着順とさせていただきます。
お問い合わせ先
株式会社マイファーム
農福連携普及啓発等推進事業 事務局
東京都港区三田二丁目14番5号フロイントゥ三田508号室
TEL:03-6435-9675
Email:noufuku@myfarm.co.jp