食品ロスとは
本来食べられるにもかかわらず捨てられる食品を「食品ロス」と言います。食品のライフサイクルである生産、製造、流通、販売、消費といった過程のあらゆる段階で発生します。日本では、食品関連事業者と家庭からの食品ロス量が推計・把握されています。
国内の食品ロスの現状
政府の推計によると、2020年度の国内の食品ロス量は522万トンです。これは、WFP国連世界食糧計画(国連WFP)が世界の飢餓に直面する人々に向けた食料支援量の年間約420万トン(2020年)の約1.2倍に相当します。また、日本国内の食品ロスを国民1人当たりに換算すると年間41キロで、毎日、コンビニのおにぎり約1個分に相当する113グラムの食べものが捨てられていることになります。
世界の食品ロスの現状
国連環境計画(UNEP)の「食品廃棄指標報告2021」によると、世界では年間9億3100万トンの食品が捨てられています(2019年調べ)。これは、一般家庭、小売業、飲食サービス業など食品ライフサイクルの後半に発生する食品ロスの推計で、国連食糧農業機関(FAO)ではFood Weste(フードウェイスト)という名称で定義されています。廃棄された食品は、消費者が利用できたであろう食品の17%を占め、10トントラック約9310万台分に相当します。
食品ロスによる悪影響
食品ロスによって、食料そのものや生産・流通にかかるコストが無駄になるだけではありません。廃棄物処理のために環境負荷やエネルギー負担が増大し、多額の税金が使われることで国民経済にも悪影響が生じています。
食料の不均衡によって飢餓人口が増える
世界では8億2800万人が飢餓状態にあり、10人に1人が飢えに苦しんでいます(2021年推計)。一方、先進国では食品ロスが社会課題になっています。このような食料の不均衡が解消されなければ、飢餓人口はさらに増加することが予想されます。また、日本の食料自給率はカロリーベースで38%(2021年度)で、残りの62%を輸入に頼っていることから、食料安全保障においても食品ロスが問題点の一つになっています。
廃棄物処理に多額の費用がかかる
食品関連事業者から発生する事業系食品廃棄物の量は、農林水産省の推計で年間1624万トンです。そのうち食品ロスにあたる可食部分と考えられる量は275万トンとなっています。また、家庭から出る家庭系食品廃棄物は環境省の推計で748万トンで、そのうち食品ロスは247万トンです。ごみ全体で見ると、年間の総排出量は4167万トンで、その処理事業にかかる経費は2兆1290億円。国民1人当たり年間1万6800円を負担している計算です。食品ロスの総計522万トンは、ごみ総排出量の約12.5%を占めていることになります(数値はいずれも2020年度)。
廃棄物焼却によりCO2が排出される
日本では、食品ロスの一部は飼料や肥料として利用されますが、多くは生ごみとして焼却処分されています。生ごみの含水率は約80%です。水分の多い生ごみを焼却すると燃焼効率が下がるためエネルギーを多く使い、より多くの二酸化炭素(CO2)を発生させることになります。食品ロス削減と合わせて、ごみの分別、脱水・乾燥などによる生ごみの減量化が求められています。
埋め立て処分場が不足する
生ごみを焼却した焼却灰は、一部がセメント原料などに利用されますが、多くは埋め立て処理されます。2019年度末の時点で、一般廃棄物の最終処分場の埋め立て可能な量(残余容量)は9950万7000立方メートルで、それがすべて埋まるまでの年数(残余年数)は全国平均で21. 4年と試算されています。このままでは、2040年にはごみの行き場がなくなることになります。
食品ロスの種類
食品ロスは食品ライフサイクルにおける発生場所によって、事業系と家庭系に分けられます。両者の割合は、おおむね半々です。
事業系食品ロス
食品流通プロセス(食品サプライチェーン)の中で、食品製造業、食品卸売業、食品小売業、外食産業の4業種の食品関連事業者から発生する食品ロスを、事業系食品ロスと言います。売れ残り、規格外品、返品、食べ残しなどにより、本来食べられるにもかかわらず捨てられている食品が該当します。事業系食品ロスは、2020年度の推計では年間275万トンで、食品ロスの全体量522万トンの53%を占めています。
4業種の内訳と廃棄の主な内容は次のとおりです(数値は環境省による2020年度の推計)。
食品製造業
食品製造業で発生する食品ロスは年間121万トンで、事業系食品ロスの約44%を占めています。捨てられる原因には、パッケージの印字ミス、重量や容量などの規格外品の発生、欠品防止のための過剰生産などがあります。
食品卸売業
食品卸売業で発生する食品ロスは年間13万トン。事業系食品ロスの約5%です。捨てられる原因には、流通過程で発生する商品の破損や汚損、販売予測がはずれたことによる売れ残りや返品、パッケージ変更などによる商品の撤去、納品期限切れなどがあります。
食品小売業
食品小売業で発生する食品ロスは年間60万トンで、事業系食品ロスの約22%を占めます。捨てられる原因は、こちらも流通過程で発生する商品の破損や汚損、販売予測がはずれたことによる売れ残りや返品、パッケージ変更などによる商品の撤去、さらに消費期限切れや傷みなどがあります。
外食産業
外食産業で発生する食品ロスは年間81万トン。事業系食品ロスの約29%になります。捨てられる原因は、食べ残し、使われずに残った食材、仕込み過ぎた食材、野菜くずなどがあります。
家庭系食品ロス
最終消費者である一般家庭から発生する食品ロスを、家庭系食品ロスと言います。廃棄した食品のうち、食べられると考えられる部分の食べ残し、直接廃棄、過剰除去したものなどが該当します。家庭系食品ロスは、2020年度の推計では年間247万トンになり、食品ロスの全体量522万トンの47%を占めます。
それぞれの内訳と廃棄の主な内容は次のとおりです(数値は環境省による2020年度の推計)。
食べ残し
食べ残しは、料理の作り過ぎなどによって発生します。家庭系食品ロスのうち約43%、年間105万トンが食べ残しとなっています。
直接廃棄
直接廃棄は、消費期限・賞味期限が過ぎたり、買い過ぎで使い切れなかった食品をそのまま捨ててしまったりすることです。家庭系食品ロスのうち約44%の年間109万トンが直接廃棄されています。
過剰除去
過剰除去は、料理の際に食材の皮を余分にむく、茎を余分に切るなどして、食べられる部分を捨ててしまうことです。家庭系食品ロスのうち約13%、年間33万トンが過剰に除去されたものです。
国内で進む食品ロス対策
食品流通の商習慣の見直しのほか、企業、自治体、団体によってさまざまな取り組みが行われています。同時に消費者への啓発活動も推進され、2016年以降、食品ロス量は年々減少で推移しています。
食品ロス削減推進法の制定
食品ロス削減が世界的な課題となる中、日本では環境・食料問題の観点から、国民運動として食品ロス削減に取り組むために、2019年10月、「食品ロスの削減の推進に関する法律」(食品ロス削減推進法)が施行されました。国や自治体、事業者、消費者それぞれが「役割と行動」を理解・実践し、コミュニケーションを活性化させることで、2030年度までに食品ロス量を2000年時点の980万トンから489万トンに半減させることを目標にしています。
食品リサイクル法の制定
食品関連事業者(製造、流通、外食など)による有用な食品廃棄物の再生利用を促進するために、「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」(食品リサイクル法)が、2001年5月に施行されました。食品の売れ残りや食べ残しのほか、製造過程で発生している食品ロスを含む食品廃棄物について、発生の抑制と減量によって最終的に処分される量を減少させるとともに、飼料や肥料などの原材料としての再利用を目指しています。
フードバンク活動
品質に問題はないがさまざまな理由で廃棄される食品を、フードバンク団体が食品関連企業、農家、一般企業、一般家庭から寄贈を受け、福祉施設や子ども食堂、生活困窮世帯に配る活動です。農林水産省が2020年にまとめた資料によると、全国でNPO法人を中心に140団体ほどが把握されています。そのほぼ半数が、2016年以降に設立されました。
各自治体の施策
各自治体でもさまざまな施策で食品ロス削減に取り組んでいます。消費者向けの啓発活動としては、買い物前の冷蔵庫のチェック、エコクッキング、商品棚の手前から取ることなどを呼びかけています。また、自治体の災害用備蓄食品を市民や団体に無料配布して有効活用する、フードバンク活動と連携して生活困窮者等の支援につなげるなどの取り組みも見られます。また、438自治体(2022年6月時点)が参加する「全国おいしい食べきり運動ネットワーク協議会」では、外食時の食べきりや家庭での食材の使いきり、全国のスーパーへの少量・ばら売り要請などの啓発活動と情報交換を行っています。また、年末年始の宴会シーズンには、農林水産省、消費者庁、環境省と共同で「おいしい食べきり」全国共同キャンペーンも実施しています。
スマホアプリの開発
店舗、企業、生産者などで廃棄されてしまう食品と消費者のニーズをマッチングさせる仕組みとして、フードシェアリングサービスがあります。食品ロスへの関心の高まりやコロナ禍をきっかけに、日本でもサービス提供事業者が増えています。大きく分けると、ネット通販と店頭販売があり、ユーザーは商品を値引き価格で購入できることが多いうえ、事業系の食品ロス削減にも貢献できます。そのプラットフォームとしていくつかのスマホアプリが開発されています。
食品ロス削減のために農家がやるべきこと
規格外品あるいは価格維持のために、市場に出る前に捨てられている農産物があります。これらは、食品ロスには計上されないため、「隠れ食品ロス」と言われています。このような農作物の廃棄を減らすためのいくつかのアイデアがあります。
消費量に生産量が合うように工夫する
農作物の廃棄を減らし、できるだけ多くの量を販売するには、消費者のニーズを予測して生産することが大切です。消費者のニーズは、過去実績や気象などをもとにした小売店の販売データなどから予測されます。他の生産者も同時に同じものを販売することによる供給過多を回避するには、収穫の時期をずらす、他が作っていない作物に切り替えるなどの工夫ができます。生産量や収穫時期については、気象などのデータをもとにAIなどのデジタル技術を活用して予測する方法もあります。
規格外の農産物を販売する仕組みを作る
市場に流通しにくい規格外野菜の販路としては、直売所、マルシェ、通信販売などがあります。食品ロス対策に特化した通販サイトや通販アプリを活用することもできます。また、業務用として地域の飲食店や学校給食、食品加工メーカーなどへの販売ルートもあります。直接販売は自分で売り方を工夫しやすいという利点もあり、加工は消費期限・賞味期限を延ばすことができます。
地産地消を進める
地産地消は、生産者が直接販売できるため消費者のニーズがつかみやすく、価格をある程度自由に決められ、効率的な生産がしやすくなります。また、農作物の輸送距離が短くなるため、環境への負荷や流通コストが削減でき、輸送中の損傷も軽減できます。地域の食文化や資源を生かして、加工品や調理品の開発もしやすくなります。
つくる責任・つかう責任で「もったいない」をなくす
食品ロスは、SDGsの達成に向けて解決すべき課題の一つです。目標12「つくる責任 つかう責任」のターゲット12.3に「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の1人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品ロスを減少させる」と明示されています。市場に出る前に捨てられている農産物は日本の食品ロスの推計には含まれていませんが、食品サプライチェーンの起点となる農業から「もったいない」をなくすことは、飢餓や環境問題の解決につながり、SDGsの他の目標の達成にも大きく貢献します。