【第1章】医療従事者から農家へ 異業種からの移住就農の決意を後押しした「高松ぶどう」
南北に広がる石川県のほぼ中央に位置するJA石川かほくの管内は、河北潟とその干拓地、内灘砂丘、山地と平野を有する変化に富んだ地形が特徴です。農産物は、水稲を中心にスイカ、ナガイモ、サツマイモ、らっきょうなどの砂丘地園芸農業が盛んに行われ、デラウェアの「高松ぶどう」や大粒高級品種「ルビーロマン」をはじめとするブドウ生産では、県内一の産地として知られています。
そのJA石川かほくでは、今年4月から新規就農支援制度が始まり、第1期生として清水さんを受け入れました。
これまでは京都で看護師として働いていたという清水さんですが、農業にはかねてから関心がありました。高校卒業後は園芸の専門学校に入学、卒業後は花屋に就職。その後、看護師の資格を取得して丸8年キャリアを積みます。
「農家への明確な憧れは、数年前に旅行先で食べたシャインマスカットがきっかけです。その美味しさに感動し、どうすればこんなに美味しいブドウを作れるのかと興味を持ったんです」。
とはいえ、異業種から農業へ参入するには、あらゆる課題があります。知識や技術の習得はもちろんのこと、自立就農する場合は農地の確保や設備投資など、さまざまなハードルを乗り越えなければなりません。
「ネットで検索したところ、JA石川かほくの研修制度がヒットし、すぐに問い合わせてオンラインセミナーに参加しました。後日、自宅に送られてきたブドウを食べて、すぐに高松ぶどうの虜になり、研修へ応募することに決めました」。
【第2章】産地の担い手は、JAと生産者の協働で育てる
現在、JA石川かほく管内でブドウの生産を手掛けるのは53世帯ほどあり、そのほとんどが家族経営です。
「これからのことを考えれば担い手不足は大きな課題です。でも、この研修制度は単に人が集まれば良いというものでもありません。私たちが重視するのは、地域に根を張って産地のこれからを担ってくれる人。そのために、生産者と一体となって大事に育てていきます」と語るのは、JA石川かほくの前田さん(営農企画課/課長)。
JA石川かほくの研修制度は、研修開始前からのきめ細かいフォローと自立就農に向けた保障が特長です。研修期間中は子会社(株)JAアグリサポートかほくの臨時社員として金銭面である程度の保障をしながら、段階的に技術を習得することが可能。2年間の研修期間を終えた後は自立就農となりますが、その際の農地の斡旋や仲介、資材の調達、出荷のサポートなど、営農に関する準備も、JA石川かほくならすべての支援ができます。
これもすべて「産地を元気にしたい」「本気の就農希望者に応えたい」という思いがあるからこそ。
「栽培技術の指導は協力してくださる農家さんにお願いし、私たちはJAならではの強みを生かして募集から営農定着までを全般的にサポートします。また、当地には他にも多くの品目があり、その産地をいっしょに元気にしてもらうための研修制度の導入を検討していきたいと思います」と力を込めます。
日頃から生産者と信頼関係を築き、産地の情報に詳しいJAならではのネットワークは、新規就農者にとっても大きな支えになりそうです。
【第3章】新生活の不安や心配事も地域密着のアドバイスで手厚くサポート
研修前は、京都で娘さんと二人暮らしをしていた清水さん。見知らぬ土地で一から始める新生活に不安は尽きません。
「娘を食べさせていかなければならないので、お金のことが気がかりでした。でも、JA石川かほくの研修制度は研修期間中も臨時社員として給料が貰える制度だったので安心できましたね」。
さらに、娘さんの学校のことやオススメの居住地など生活全般に関する情報も、移住前からJA石川かほくの職員が“地元の人だからできるアドバイス”できめ細かくサポート。
地域に根差したJAだからこそできる、自立就農して定住することを念頭にした持続可能で親身なフォロー体制と言えるでしょう。
清水さんは現在、かほく市で約2ヘクタールのブドウ農園を営む今本ぶどう園での実地研修を中心に、県が主催する講習会や若手農家の会に参加するなど、知識と技術の両面の習得に励んでいます。
「ずっとやってみたかったブドウ栽培に携わることができて、大きなやりがいを感じています。手をかけた分だけブドウが大きく育っていく様子を見ることや、最終的にお客様への販売まで携わらせてもらえることが嬉しいです」。
【第4章】高松ぶどうを未来に継承し、産地を盛り上げていく
清水さんの技術指導を担当する先輩農家、今本ぶどう園の今本さんは、「清水さんの熱意と頑張る姿に日々元気をもらっています」と微笑みます。
「ブドウの栽培方法は教科書にも書いてあることですが、肥料はその土地に応じた与え方をしないとうまく育ちません。私は地元の生産者だからこそ教えられることを日々の作業の中で伝えていますが、その都度熱心にメモを取っていますし、一生懸命話を聞いてくれます」と、清水さんのひたむきさに目を細めます。
「どこも後継者不足の問題は厳しい状況ですが、高松ぶどう生産組合では若手メンバーで勉強会を行ったり、JAと農家が共同で研修指導を行ったりして、今後の人材育成に取り組んでいます。未経験の人を育てるのは簡単なことではありませんが、高松ぶどうの美味しさを次世代に継承していくことも私たち生産者の大事な役目ですからね」。
「この研修制度は、これから産地を担っていく人を就農する現地で育てる地域密着の研修です。研修中もこの地域で自立就農した時のイメージを持ちながら取り組んでもらいたいですね」と前田さん。
2年後にも同様の研修生募集を計画しているそうで、「清水さんの研修を第一の事例として、今後も産地を盛り上げていければ」と明るく話します。
担い手不足の心強い一手となるJAの新規就農者支援制度。
挑戦を続けるJA石川かほくに注目が集まります。
【お問い合わせ】
◆JA石川かほく営農部
〒929-0328 石川県河北郡津幡町字舟橋253番地
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◆JAグループ石川営農戦略室
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