5年間コメを作らないと交付金カット
コメを作る意志がまったくないのなら、田んぼであることを前提に出す交付金の対象にならないというのが農水省の立場。2022~26年度の5年間に一度も水張りをしなかった水田を、2027年度から「水田活用の直接支払交付金」の対象から外す。ここで「水張り」はコメの作付けを意味する。
影響は大きい。水田で麦や大豆を作っている農家の場合、水田活用の直接支払交付金のメニューのうち、「戦略作物助成」を受け取ることができなくなる。金額は10アールで年3.5万円。飼料用トウモロコシも、さまざまな名目で支給されている最大5万円の交付金を受け取れなくなる。
背景は二つある。一つは畦畔や用水路などがなくなった農地を交付対象から除くルールを2017年度に設けたにもかかわらず、現地での実態調査や交付の見直しなどが進んでいないことだ。このルールを徹底するため、2026年度までに期限を切り、今後も水田であり続けるのか、それとも完全に畑にして戦略作物助成の対象から外れるのか農家に決断を促すことにした。
もう一つは、麦や大豆の生産性の向上に努めない生産者が一部にいることだ。収量を高めて売り上げを増やさなくても、交付金を受け取ることができるからだ。管理をきちんとせず、連作障害が深刻な農地もある。
食料安保で必要になる麦や大豆の振興
公的な交付金は、何を目的にいくら支給すべきなのかを詳細に検討したうえで制度が定められており、農水省の主張には一定の合理性がある。そのうえで考えるべきなのは、麦や大豆などの生産をこれからどう振興するかだ。
ロシアによるウクライナ侵攻で穀物の国際相場が高騰したことをきっかけに、日本でも食料安全保障がにわかに注目を集めている。そこで今後重要になる作物は、小麦と大豆、そして飼料用のトウモロコシだ。
今回の措置でルールの適用が厳しくなった後も、5年に1回コメを作れば交付金を受け取ることはできる。だが問題もある。そもそも麦や大豆、トウモロコシは湿気に弱く、田んぼでの生産に向いていないからだ。
生産効率を高めるにはコメを作らず、完全に畑として利用するほうが有利。だがその結果、交付金が減る。麦や大豆は戦略作物助成がなくなっても、田んぼか畑かに関係なく、海外との生産性の格差を埋めるために出している補助金は残る。だが飼料用トウモロコシにはそうした補助金がない。
農地が広くて効率的に生産できる北海道は、水田の転作作物としてではなく、畑で麦や大豆を栽培することが盛んになっている。だが北海道と比べて条件の悪い都府県は転作作物として麦や大豆を作っているケースが多く、助成水準を大幅に下げても営農が成り立つかどうかは不透明だ。飼料用トウモロコシは麦や大豆と違って栽培実績が少なく、判断できる材料がない。
こうした状況を踏まえ、農水省は水田を畑に変え、麦や大豆などを作るときに一定期間交付金を出す制度を2023年度に創設する方向で検討している。その内容が、転作作物の今後を占ううえで当面の焦点になる。