「抑制栽培」とは?
抑制栽培とは、普通栽培よりも遅らせて生産・出荷をする栽培方式(作型)のことを指します。
一般的に露地で自然環境のもとで栽培することを「普通栽培」と呼びますが、ビニールハウスなどの施設を用いて温度環境を整えたりすることで、抑制栽培が可能になります。こうしたビニールハウスで行う抑制栽培はハウス抑制栽培と呼ばれることもあります。
また、露地で抑制栽培を行うこともあります。これはハウス抑制栽培と区別して、露地抑制栽培とも呼ばれます。
そもそもナゼ「抑制栽培」をするの? 抑制栽培のメリットは
抑制栽培は、一般的な生産・出荷時期とは異なる栽培を行うため、通常よりも栽培管理が難しく、コストもかかります。
しかしその分、供給の少ない時期に出荷できるのが最大のメリットでもあります。あまり同じ農作物が出回っていない時期に売ることができるため、商品価値が高まり、高収益化を狙うことができるのです。
特に需要が大きい作物を扱えば、さらに価値は上がりますから、経営戦略上、大きなメリットになるでしょう。
抑制栽培のデメリット
抑制栽培のデメリットは、設備や資材などにかかる費用です。
始める際にビニールハウスを設置したり、シーズンごとに防寒用シートをかけたりするため、通常より設備・資材費がかかります。
ただし抑制栽培では、前述の通り高い販売利益が期待できます。こうした費用を差し引いても、利益を見込めることが抑制栽培の特徴です。
抑制栽培に適している野菜や有名な産地
ハウスでの抑制栽培は、トマト、キュウリ、イチゴなどが適している作物として挙げられます。
露地での抑制栽培は冷涼な高原で行われることが多く、有名な産地がいくつもあります。
群馬県嬬恋(つまごい)村では夏秋キャベツを栽培。一般的に、キャベツは春と冬が旬ですが、その合間に出荷されているのが夏秋キャベツです。嬬恋高原の涼しい気候はキャベツに適しており、嬬恋村は夏秋キャベツの出荷量が全国1位(2020年、農林水産省調べ)。県としても半世紀以上、夏秋キャベツの出荷量が全国1位です。
また、長野県・八ヶ岳の野辺山高原は夏秋レタスの産地として知られます。その東に位置する川上村は夏秋レタスの出荷量全国1位(2020年、農林水産省調べ)、県としてもレタス出荷量全国1位を誇っています。
抑制栽培の高温対策について
抑制栽培を行う夏場のビニールハウスでは、高温対策が必要な場合があります。
高温対策にはいくつかの方法があります。例えば、ハウスの内側や外側に遮光資材を用いることで太陽光を遮る、ビニールハウスの側面・妻面を開放して自然換気を行うなどです。循環扇・換気扇の設置や、ミスト噴霧を行うことも効果的でしょう。
「促成栽培」とは? 抑制栽培とは何が違うのか
抑制栽培とは逆に、普通栽培よりも早めて生産・出荷をする栽培方式もあります。促成栽培と呼ばれるこの栽培方式は、冷涼な高原などで行われる抑制栽培とは対照的に、温暖な地域で行われることが多くなっています。そのメリットや産地などについて紹介しましょう。
促成栽培のメリット
促成栽培のメリットも抑制栽培と同じです。生産・出荷の時期を通常よりも早めることによって、市場に出回る商品が少ない時期に販売することができます。これにより価値を高められることが最大のメリットです。
促成栽培のデメリット
デメリットについても、抑制栽培と同様、設備や資材などにコストがかかる点が挙げられます。寒い時期のビニールハウスでは、室内を暖めるための燃料費など、ランニングコストを念頭に置く必要があるでしょう。燃料費はいつも安定しているとは限りませんし、燃料費の高騰というリスクもあります。
促成栽培に適している野菜や有名な産地
促成栽培では、夏野菜を冬や春に出荷する例がよく知られています。ハウスなどの施設を利用したトマトやピーマン、キュウリ、イチゴなどがその例です。
宮崎県はキュウリの出荷量が全国1位の県で(2021年、農林水産省調べ)、特に宮崎平野では、促成栽培によって冬にキュウリの出荷に取り組んでいます。一年を通じて温暖な宮崎県では、ビニールハウス内を暖める促成栽培でも、暖房を活用するコストが比較的少なくて済みます。そのため、促成栽培が向いている地域として知られています。
また、やはり温暖な高知県の高知平野でも施設園芸が盛んです。ナスやピーマンなどの促成栽培によって、全国屈指の生産量を誇っています。
「半促成栽培」と「早熟栽培」とは?
促成栽培は、さらに細かく分類され、狭義の促成栽培と、半促成栽培、早熟栽培があります。
収穫時期を早める程度が大きい順に、促成栽培、半促成栽培、早熟栽培と呼ばれます。半促成栽培は促成栽培よりも遅く、早熟栽培は半促成栽培よりも遅く生産・出荷する栽培方式です。
イチゴやトマトなどで、半促成栽培や早熟栽培が行われることがあります。
抑制栽培や促成栽培をする場合の栽培時期、ポイントを比較してみよう!
トマトの栽培例
抑制栽培や促成栽培など、一つの作物でもさまざまな栽培方式のバリエーションを持つものがあります。トマトは中でも栽培方式の多い野菜だと言えるでしょう。
露地で作る普通栽培は、3月頃にタネまき(播種<はしゅ>)を行い、夏頃に収穫します。ですが、促成栽培、半促成栽培、早熟栽培はこれよりも前の時期にタネをまき、収穫時期も前倒しされます。逆に抑制栽培では夏頃にタネをまき、冬に収穫します。それぞれ時期をずらして生産・出荷できることが、図からも分かるでしょう。
ただし、地域の気候や、品種などで時期は異なります。また、露地でも裂果や疫病などを防ぐため簡易的な施設で雨がかからないようにする「雨よけ栽培」もトマトでは知られた栽培方式です。この場合は普通栽培に比べて長く収穫できる傾向があります。
トウモロコシ(スイートコーン)の栽培例
トウモロコシもさまざまな方式で栽培される作物です。
露地での普通栽培は春頃にタネまきを行い、夏頃に収穫します。促成栽培は、畝を防寒用シートでトンネル状に覆うなどする、トンネル早熟栽培が行われています。マルチシートを敷くなど、地温を保つことがポイントで、初夏の収穫が可能です。一方、抑制栽培は夏頃にタネをまき、晩秋に収穫します。
図は暖地の例ですが、寒冷地ではこれより半月から1カ月ほど後ろにずれます。また、地域や品種によっても差があります。
ハウス栽培で特に気を付けるべき病害虫
ビニールハウスで行われる抑制栽培や促成栽培などでも気を付けたいのは病害虫です。ハウス栽培では、同じ作物を生産し続けることから病害虫が発生しやすくなりますし、環境管理をすることで越冬する害虫も増えます。
そのうちのごく一部をピックアップして紹介します。
病気や害虫の例
うどんこ病
うどんこ病は、植物にカビがつき、白い粉状の病斑が生じる病気です。ハウス栽培で一般的な、トマトやキュウリ、イチゴなどをはじめ、多くの野菜や果樹に年間を通して発生する可能性があります。
コナジラミ類
コナジラミ類は作物にとって厄介な害虫の一つです。植物の汁を吸うことで生育を妨げるほか、排せつ物がすす病の原因になります。また、致命的被害を与えるトマト黄化葉巻病のウイルスを媒介します。
アブラムシ類
アブラムシ類も植物への吸汁被害や、排せつ物による被害を与えてしまいます。また、モザイク病のウイルスを広めるものもあります。
病害虫への対策例
蒸し込み
病害虫を死滅させるために、夏の高温期にビニールハウスを閉め切って、ビニールハウス内の温度を上昇させることを、蒸し込みと言います。地域や天候、対象とする病害虫の死滅温度によって、何日程度行うかは異なります。また、地域の指導機関から、日数の指定があれば従いましょう。
土壌の奥深くにいる病害虫には効果が薄いというデメリットもありますが、自然環境を利用できるため、コストが低いというメリットがあります。
農薬
対象とする病害虫への効果をうたう農薬を使うことも一般的です。容器に書かれた使用量や使用法などを守ることで、効果が発揮されます。
覚えておこう! 抑制栽培と促成栽培ではこんな農業機械が必要
抑制栽培や促成栽培を行う施設園芸では、農業機械や設備が必要になってくるでしょう。それぞれ紹介していきます。
抑制栽培で必要な農業機械・設備
抑制栽培では、高温対策のための遮光資材や、風通しをよくするための循環扇・換気扇・扇風機、除湿器、ミスト噴霧器、環境制御装置などが必要に応じて使われます。
これらはビニールハウスの棟数に比例して増える点でも注意が必要です。
促成栽培で必要な農業機械・設備
促成栽培では温度調整のためのボイラーや、環境制御装置が例として挙げられるでしょう。先述のとおり、燃料費についても無視できませんので、燃料効率などを検討する必要があります。
地域特性を生かして栽培
抑制栽培や促成栽培などは、普通栽培と時期をずらして生産・出荷を行うことで、付加価値を高めます。そのための施設や農業機械、燃料などのコストもかかりますが、地域の環境特性を生かすことで、燃料費が抑えられることもあるでしょう。
地域の環境特性などを知るには、指導員などの知識や経験を持つ人からのアドバイスが有効なのは言うまでもありません。ぜひ地域の特性を生かした農業を進めてみてください。