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食品ロス削減は誰のため? 「敬意の好循環」目指し規格野菜を売る八百屋

連載企画:フリーランス農家の全国農場放浪記

食品ロス削減は誰のため? 「敬意の好循環」目指し規格野菜を売る八百屋

全国の農場を渡り歩くフリーランス農家のコバマツです。今回は、最近SNS等でも話題の規格外野菜をはじめとした食品ロスの削減についてインタビューするべく、京都の八百屋「西喜(にしき)商店」を訪れました。同店では食品ロス削減のためのさまざまな取り組みをしています。それは一般消費者の「食べられるものを捨てるのはもったいないから大事にしよう」という考えからだけではない、野菜の流通に関わる八百屋ならではの取り組みです。そもそもの食品ロスが起こる仕組みや削減すべき理由、そして食料の循環が持続可能であるために必要なことを聞いてきました。

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食品ロス削減は「もったいないから」だけじゃない

食品ロスの削減とは?

食品ロスとは本来食べられるのに捨てられてしまう食料のことをいい、廃棄すると環境にも悪い影響を与えてしまいます。

それだけではなく、「将来訪れるであろう世界の人口増加や食糧難に備えるべき!」という意見も。こうした背景から、日本国内だけではなく世界的にも、「持続可能な開発目標」(SDGs)の一つとして食料の損失・廃棄の削減が目標に掲げられています。

「食べ物を大切にすることで、持続可能な社会を作ろう!」
「もったいないから、規格外品や余った野菜を流通させて消費しよう!」
そう思うことは決して悪いことではありません。しかし、いろいろな生産者や事業者が関わる流通業界。どんな品質のものでも流通させることは、果たして農家や青果流通業者にとって持続可能な取り組みになるのでしょうか?
もったいないという感情だけではなく、商売として青果流通に携わる生産者、市場、卸・小売業者、そして消費者が持続的に食品ロス削減に向けた行動をしていくためにはどんな考え方が必要なのでしょうか?

食品ロス削減に八百屋の立場から挑戦している人物に、インタビューしていきたいと思います。

■近藤貴馬(こんどう・とおま)さんプロフィール

近藤貴馬 1984年生まれ。大正時代から代々続く京都の八百屋「西喜商店」の4代目。大学卒業後、都内の企業に就職し企画や営業職を経て、2015年に京都にUターンし実家である西喜商店を継ぐ。現在、八百屋業から派生して、食品ロス削減の啓蒙活動として日々SNSでの発信やイベント運営にも積極的に挑戦している。

コバマツ

近藤さんは、京都の老舗の八百屋を経営されているんですよね! どんな八百屋なんでしょうか?
八百屋としては、仕入れた野菜を自分の店舗などで売るほか、飲食店に販売したり、保育園給食の材料を納入したりしています。取り扱っている野菜の9割を市場から仕入れていて、残りの1割は生産者から直接仕入れていますね。八百屋業をしていると、どうしても廃棄の野菜が日々多く出てしまうので、食品ロス削減に向けた取り組みもしています。

近藤さん

西喜商店では旬の野菜や果物が数多く扱われている(画像提供:西喜商店)

コバマツ

食品ロス削減って最近よく耳にします! 食べ物を捨てるのはもったいないから、みんなで食べ物を大事にしようっていう取り組みですよね。
もったいないのはもちろんなんですけど、食品ロス削減に取り組んでいるのには他にも理由があります。そもそも、市場は食品ロスが起こることが当たり前の仕組みになっているんです。

近藤さん

コバマツ

え!? どういうことですか!?

食品ロスが起こるのは当たり前!? そもそもの食料流通の仕組みとは

コバマツ

市場の仕組み自体が食品ロスが起こること前提ってどういうことですか?
僕は仕入れに京都中央卸売市場を使っているのですが、中央卸売 市場は出荷された生鮮食品を全量買い取らなければならないという法律があるんですよ。

近藤さん

コバマツ

え? 知らなかった! そんな法律があるんですね! どうしてそんな法律があるんでしょうか?
国民にとって大切な食料が常に安定して流通するためには、需要より供給が上回っていないと難しいですよね。あとは、生産者保護の観点からだと思います。

近藤さん

コバマツ

考えてみれば、もし需要ギリギリの供給だったら、流通している間に腐っちゃったりしたとき食料不足になっちゃいますもんね。常に十分な食料供給があるから、私たちは毎日お腹いっぱいご飯が食べられるんですよね。考えたこともなかったなぁ……。
市場は農家やJAから集めた大量の食料を全て流通させるために僕たち八百屋などの小売店に販売し、消費者に食料が行きわたるというのが一般的な青果流通です。

近藤さん

青果物の流通のしくみについて(出典:農林水産省ウェブサイト「青果物市場のしくみ」

コバマツ

改めて考えると、生産から消費者に食料が届くまで、いろいろな人が関わっているなぁ。市場は集まってきた食料を日々小売業者や八百屋に販売する努力をしなければならないんですね。需要を超えている供給を流通させるって大変そう……。

市場に余っている野菜を購入し、買い手を探し正当に流通させることも八百屋として取り組んでいる(画像提供:西喜商店)

出荷される規格品野菜が、余って行き場がなくなっているのを毎日見るので、八百屋としてなんとかこういったものを消費者に届けられないかと、日々試行錯誤しています。

近藤さん

コバマツ

私たちが食べ物に困らないようにするための仕組みが、食品ロスを生んでいるとも言えるんですね。複雑……。

消費者の誤解。規格外品を流通させれば食品ロス削減になる?

コバマツ

食品ロス削減の取り組みとして、最近「規格外品の野菜を購入して農家を応援しよう」と考える消費者も増えてきていますよね! また、取れ過ぎてしまって市場に出すと価格が下がってしまうから、あえて畑に戻す様子などをニュースで見たりもしますが……。
僕は、野菜を畑に返すことを社会課題として取り上げて「食品ロスだ、もったいない」と言う風潮に疑問を持っています。

近藤さん

コバマツ

え? 畑で捨てられちゃう、曲がったキュウリとかナスとか、食べられるのに廃棄されちゃう食べ物を流通させることは食品ロス削減じゃないんですか?
実は私も、規格外品野菜を購入して消費者に届けるという活動をしていた時期もありましたけど……。
そういう野菜に関しても、もちろん困っている農家はいて、天候が良くて取れ過ぎてしまい、消費者に安く引き取ってもらうことも食品ロス削減だと思います。しかし八百屋の立場だと、畑ではなく、市場でロスになっている野菜で困っている状況の方がよく目に付くんです。それに、農家からは規格外品や余剰の野菜を畑で堆肥(たいひ)にしたりして、次の生産に生かすという話をよく聞きます。

そもそも、曲がった安いキュウリと規格品の適正価格のキュウリ、どっちを購入するのが農家の利益につながるか、という考え方が大事です。

近藤さん

コバマツ

農家の利益を考えたら、明らかに規格品を適正価格で買うのが一番ですね。先ほどの話だと、規格品の野菜でさえ市場では供給が多く余っているのに、そこに安い規格外品も流通したら、消費者は安い商品を選ぶ人もいるので農家の利益は減っちゃいますね……。
規格品を流通させることで、農家だけじゃなくて、JAや市場、僕たち八百屋など流通に関わる全ての人にとっての利益につながります。流通の仕組みを理解して「誰のための食品ロス削減か」という視点を持って消費活動をすることが大切かなと思います。

近藤さん

コバマツ

私たち消費者が安定的に食料を手に入れられるのも、流通の仕組みのおかげですもんね! お話を聞いて、その流通全体のために規格品を適正価格で買った方がいいとわかりました。

食品ロス削減で「安く買う」ことの罪

コバマツ

近藤さんは、流通の上での食品ロスの課題は何だと思いますか?
野菜が流通に乗ったら、捨てるか消費者の元に届くかの2択です。
僕はそこで生まれる社会課題が2つあると考えています。1つ目は環境面の課題。野菜を捨てたらゴミになってしまい、廃棄する際は環境にも負荷がかかります。2つ目は経済の面です。流通に乗った時点でJAや市場、僕のような八百屋がお金を払って買っています。さらに売れないと廃棄のためのお金もかかります。

近藤さん

コバマツ

いったん流通に乗った野菜は畑に戻せないから、堆肥にもならずただゴミになるだけで環境に悪いですよね。さらに捨てるのにはお金がかかるから、流通に関わる誰かが廃棄の費用を負担して損をしていることになりますもんね!
青果流通はボランティアではありません。みんな商売でやっていることなので、適正価格が払われないと、そもそもビジネスとして持続できなくなってしまうんです。
「食べ物を捨てるのはもったいない」という気持ちも大事ですが、「野菜が余ってかわいそうだから」という理由で農家や事業者を上から目線で見て「買ってやろう」という姿勢で安く買おうとする人も多いなと感じています。そういうことが積み重なっていくと生産、流通が商売として成り立たなくなっていく。結局なんのための食品ロス削減かという話になってしまうんですよね。

近藤さん

コバマツ

「もったいないから安く引き取る」というのも、廃棄の費用という損はなくても、結果的に流通にかかわる誰かが損をすることになるんですね。私、食品ロス削減に対してものすごく勘違いしていました……。そもそもの流通の仕組みやルールを知らないと、ただ消費者が安く食料を買うという仕組みになっちゃいますね。
消費者が流通の仕組みを正しく理解して食品ロスと向き合うことが、食品ロス削減につながると考えています。
確かに、規格品だろうが規格外品だろうが、余っているものに対しては「値引きされているのが当たり前、安いのが当たり前」という気持ちがどこかにあるかも……。
でも、一生懸命作った農家やそれを流通させている業者の手間を考えたら規格品を正当な価格で購入しないとなんだか失礼な気がします。

近藤さん

西喜商店の食品ロス削減の取り組み

コバマツ

八百屋として消費者に流通の仕組みを伝えるなど食品ロス削減につながる活動も何かされているのでしょうか?
その日、店で余った野菜を使って、みんなで調理しておいしく食べる「さらえるキッチン」というイベントを開催していたり、

近藤さん

定期的に京都のキッチン付きスペースで開催している(画像提供:西喜商店)

青果店とは異業種の雑貨屋などの店先に青果販売ブースを設置し、そこで西喜商店の青果物を販売してもらう「軒下青果店」を市民の居住エリアに構える、という取り組みもしています。

近藤さん

野菜を八百屋以外の場所で販売することで、食品ロス削減や啓蒙につながるだけではなく、地域のコミュニティー作りの機能としての狙いもある(画像提供:西喜商店)

コバマツ

異業種の店先で野菜を販売することで、普段野菜を手に取る機会がない人や、八百屋に足を運ぶのが難しい人も野菜を手に取る機会が増えそう!
軒下青果店は、そういった人にも野菜を手に取ってもらうことで少しでも食品ロス削減につながればという思いから始めました。
それだけではなく、今まで近所に八百屋がなくて買い物ができなかったおじちゃんおばちゃんや、雑貨屋の常連の若者が軒下青果店に野菜を買いに来ることで、地域に野菜を囲んだ新しいコミュニティーも生まれています。

近藤さん

コバマツ

地道ですが、流通の仕組みを考慮した食品ロス削減の話や取り組みに触れてもらうことは、消費者に理解してもらうには一番ですよね。
他には、SNSで、自分の店の廃棄になりそうな野菜をレスキュー、つまり購入してくれる人を募ったり、最近ではその日買い手がない野菜を15種類ほど詰め合わせて「覚悟の食品ロス削減野菜ボックス」として販売する食品ロス対策の取り組みもしています。

近藤さん

店主は価格の面、買い手はどんな野菜が届くのか分からないという面で、双方の覚悟が試されている野菜BOX(画像提供:西喜商店)

ツイッターでも日々、余りそうな野菜の情報を発信して買い手を見つけている

コバマツ

ぶっちゃけ、こういうことして利益になるんですか?
売り上げとしてはほぼ利益はないですけど、廃棄するにもお金がかかるんで、それを考えたらプラスになっているかなと思います。
お金だけじゃなくて、社会課題とされている食品ロスに対して、正しい流通の仕組みや野菜の価値を伝えていくことが、八百屋という立場で今、僕にできる社会貢献かなと思ってやっています。

近藤さん

コバマツ

流通の仕組みについては私も近藤さんとお話をして初めて知りましたし、その立場の人じゃないと伝えられないことってありますよね。正しい流通の仕組みが伝わることで、食品ロス削減につながるかもしれないですよね!

理想の食品ロス削減の形は「敬意の好循環」

コバマツ

まだまだ、食品ロス削減に対して消費者の誤解も多いと思いますが、近藤さんが思う理想の食品ロス削減の形を教えてもらえますか?
まずは、消費者が正しく流通の仕組みを理解すること。そして、「作ってくれてありがとう」「届けてくれてありがとう」「買ってくれてありがとう」そんな風に生産者、流通業者、消費者がお互いに敬意を持って取り組まなければ、青果流通の食品ロスは解決しないんじゃないかと思っています。僕はこれを敬意の好循環と呼んでいます。

近藤さん

コバマツ

青果流通の仕組みを知ることで、「余っているんだから安く買ってやろう」ではなく、「一生懸命作って流通させてくれてありがとう」の気持ちで消費者も適正価格で購入できそう。後者の方が持続的な食品ロス削減になりますね!
ないものを欲しがるのではなく、今目の前にあるものに敬意を持って大切にいただくこと。
そんな考え方が持続的な食品ロス削減に必要なことだと思います。

近藤さん

「食べられるものを捨てるのはもったいないから消費しよう」。そんな行動が食品ロス削減につながり、社会課題の解決につながるのだと思っていました。しかし、近藤さんの話を聞いてわかったのは、まずは規格品を適正価格で流通させる仕組みを守ることが大切だということ。それが、生産者を含む青果流通に関わる全ての人が持続的に食品流通を担っていくために必要なのです。食料の生産や流通を持続可能にしていくことで、消費者が安定的に食料を手にできる世界につながるのではないでしょうか。

取材協力:西喜商店

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