山と海に挟まれた自然豊かな場所。
町の歴史とともにある『豊浦いちご』
人口約3600人の豊浦町。噴火湾という激しい名前からは想像がつかない、穏やかな海が目の前に広がります。夏になるとビーチ沿いにキャンプ場がオープン!すぐ脇は天然温泉施設。隣の漁港の堤防で糸を垂らせば、カレイやヒラメ、ソイなどを釣ることができます。海と反対側に目を向けると山が迫り、春には山菜、秋にはキノコ狩り。そう、豊浦はキャンパーやアウトドア好きにはたまらない場所なのです。
高校まで子どもの医療費が無料。給食費の助成に加え、町外の高校へ通う生徒の通学費を半額助成するなど、安心して子育てができる環境作りを進めています。また、幼小中校の一貫教育を行うシュタイナー学校『いずみの学校』もあります。夫婦で移住をして、子どもをのびのびと育てていくのに嬉しい環境です。
海からとれる新鮮なホタテ、北海道全体の約4分の1の生産量を占めるSPF豚と並んで、豊浦町の目玉が『豊浦いちご』。甘くて大粒なのが特徴で、2008年に開催された北海道洞爺湖サミットでも提供され、各国首脳などから高い評価を受けました。
山と海の間を走る国道37号沿いには、いちごと書かれたのぼりや直売所が点々とありますが、今回話をお聞きした豊浦町役場農林課の渡辺亮太さん(地元ご出身)の話によると、昔は道路沿いに直売所がずらーっと並び、季節になると大型バスが横付け。人が次々と降りてきて、いちごを買い求めていったそう。あの頃の町の活気をもう一度取り戻したい、そんな気持ちが渡辺さんの中にあるそうです。実はここ豊浦町も人口減少の大波の中で、年々いちご農家の数が減っています。新規就農者を受け入れるための町の本気の取り組みは、その裏返しでもあるのです。実際ここ10年を見ても、平成24年に37戸だったいちご農家は、6戸の新規就農者を受け入れたにも関わらず、令和元年には31戸まで減少しています。
就農に向けて『いちご分校』で準備をする、
2組の先輩夫婦を紹介!
豊浦町では国の地方創生事業を活用し、廃校になった旧大岸小学校鉱山分校を改修して、2019年に地域産業連携拠点施設『いちご分校』を誕生させました。それに合わせて新規就農者の受入・サポート制度も一部を見直し、いちご農家を目指して移住してくれた人たちが、不安やリスク少なく独立し、豊浦の地で暮らしていけることを目指しています。
『いちご分校』の1期生は今春に就農。いまでは2期生の2組、3期生の1組の夫婦が研修中です。撮影のために訪れると、ちょうど2期生が作業中。収穫の時期で忙しい中ではありましたが、快く話を聞かせてくれました。
最初に話をきいたのが、出荷調整室で出荷の作業をしていた北浦さん夫婦。札幌市の出身です。この日『いちご分校』で収穫をしたいちごは29箱分。「仕事をしているという感じがしないんですよね」と旦那様の洋平さん。いちごは成長をするので出荷までの流れを止められない、自然の力にこちらが合わせないといけないというのが、その言葉の意味するところ。会社員時代とは勝手が違うようです。
札幌との生活環境の違いを聞いてみると…「近所の人がいろいろとよくしてくれます。おすそ分けをしてくれたり、困っていないか声をかけてくれたり。役場の人もよくしてくれて助かっています」とのこと。休みには近郊の室蘭市や伊達市まで車で買い物に。札幌で暮らしていたときより行動範囲が広くなったと話してくれました。
直売、加工品作り、情報発信…。いちご栽培の先に広がる様々な可能性
次にお話を聞いたのは、7.2m×50mの大きなビニールハウスの中で作業をしていた齊藤さん夫婦。茨城県のご出身。北浦さん夫婦とは同期で、研修2年目に1棟、3年目の今年は2棟のハウスを任されています。
旦那様の竜彦さんに豊浦に来た理由を聞くと…「いちご農家をやりたいと思い立ってからは隣の栃木県や静岡県などにも見学に行ったのですが、土地の雰囲気など直感的にピンと来たのが豊浦でした」。『いちご分校』の宿泊室に泊まりながら1週間の農業体験をして、豊浦への移住を決断したそうです。
「今年は研修生で企画をして、『いちご直売会』を開催しました」と話すのは奥様の理恵さん。自分たちで集客のためのチラシや看板も作成。直売会ではお客さんの反応を直接見られることが嬉しかったそう。「将来はいちごを苗から育てたいし、ジャムを使ったケーキやクッキーなど加工品作りにも挑戦してみたいです。先輩や同期、後輩は元々みんな違う仕事をしていたので、それぞれの得意なことを活かして一緒に何かやれたら…」と話してくれました。ちなみに齊藤さん夫婦は情報発信が得意。作業の記録のためにYouTubeチャンネル『ななちゃんねる(たつんこ日記)』を始めたところ、だんだんと見てくれる人が増えてきて、今では「見たよ~」と声をかけられられるそうです。研修生の日々の様子が気になる人はぜひチェックを。おふたりの情報発信力も、これからの豊浦のいちご産業にとって大きな力になることは間違いありません。
本気がひしひし伝わる町のサポート
改めて豊浦町役場農林課の渡辺亮太さんに、就農までの流れや、町の支援制度について話を聞いてみました。「いちごの作り手となるため、地域おこし協力隊の任期である3年間を使って『いちご分校』で実践的な研修を積みます。1年目はベテランいちご農家である『親方』が、夫婦1組に1人ついてくれて、長年培った栽培ノウハウを基本から教えてくれます。2年目、3年目は親方のサポートを受けながら、実際に自分たちで栽培を実践します。3年の任期を終えたら新規就農者として独立しますが、農地取得の関係などですぐに自分たちで始められない場合は、『いちご分校』で1年間ハウスの貸付を受けることができ、その間に独立就農に向けた準備ができます」。
「就農時の初期投資助成として、500万円の2分の1補助などの豊浦町独自支援のほか、国の経営開始資金(夫婦225万円/年・3年間)や協力隊起業支援補助金(100万円/人)も併用可能です。固定資産税助成などのサポートも充実しています。2分の1補助の住宅賃貸助成もありますよ」と、就農者にとってなんとも嬉しい環境!
夫婦2人での募集をしていることに関してきくと…「そもそもハウスでの作業は1人では難しいですし、地域おこし協力隊の起業支援補助金も夫婦なら2人分で200万円。ここで暮らしていくことを考えても、2人一緒にいたほうが楽しく過ごせるはずです」ということで、なんだかすごく納得してしまいました。
挑戦の先にある未来。
いつか『いちご街道』と呼ばれる日を夢見て…
先に就農している先輩いちご農家の中からは、オーガニックでの栽培をしたり、『いちご分校』の加工室で試作したいちごタルトを商品化して道の駅で販売したり、ネットや家先での直売を通じてリピート客を増やしたりと、様々な挑戦が生まれているそう。「これまでのいちご農家さんがやってきた方法だけでなく、例えば新しい品種を育てることで、収穫期間を長くして収益を伸ばしていくというようなことが、これからはあってもいいかもしれません」と農林課の渡辺さん。
先に就農した若きいちご農家さんたちの様々な取り組みを聞くにつけ、国道沿いにずらっと並ぶたくさんの直売所、そこを目指して町外からもやってくる人たち…そんなかつての光景が近い将来に戻るかもしれないとワクワクしてしまいます。研修生の齊藤理恵さんは話します。「いちご分校へと続く道の両脇には、昔からいちご栽培をやっている農家がいくつかあります。自分たち新規就農者もそこでいちごを育て、新しい挑戦を続けていけば、地域全体が盛り上がっていくはずです。いつかその道が『いちご街道』と呼ばれることを目指したいです」。
豊浦町でのいちご栽培に興味を持った人は、齊藤さん夫婦がかつてそうしたように、『いちご分校』での宿泊農業体験から始めることもできます。一泊からでも受入れをしているのでまずは下記まで連絡を。
【企業情報】
豊浦町役場 産業観光課農林係
北海道虻田郡豊浦町字船見町10番地
TEL:0142-83-1410
FAX:0142-83-2129