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農業を観光ビジネスに!? 農泊のメリットと補助金活用のポイントを解説

農業を観光ビジネスに!? 農泊のメリットと補助金活用のポイントを解説

農家の所得向上を目的とした農林水産省の補助事業は数多くあるが、特に同省が力を入れているものの一つが「農泊」だ。生産が本業の農家だが、農泊は観光事業に近い。農家が観光に取り組むとはどういうことか。また、どのようなメリットがあるのか。本稿では、補助金の概要も含めて解説する。また、補助金活用のポイントについて、農泊の専門家として多くの地域でコンサルティングを行ってきたPlanning MAO代表の米田佳代子(よねだ・かよこ)さんにも話を聞いた。

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■米田佳代子さんプロフィール

近藤貴馬 公務員、上場一部証券会社営業、NPO事務局長などを経て、2011年から地域産業振興などのコンサルティング業に携わる。省庁をまたぐ横断的な補助制度の活用を得意とする。愛媛6次産業化プランナー、愛媛大学地域再生マネージャー、農林水産省農山漁村活性化支援専門家、6次産業化中央サポートセンタープランナー、HACCP指導者資格、HACCP伝道師など。

農山漁村滞在型旅行「農泊」

農泊とは、農林水産省が示す定義によれば、「農山漁村地域に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ『農山漁村滞在型旅行』のこと」とされている。

似たような用語・概念として「グリーンツーリズム」や「農家民泊」がある。特に農家民泊は、農泊と言葉が似ていることからも混同されがちであるが、それぞれ厳密には異なるものだ。

「グリーンツーリズム」「農家民泊」との違いは?

グリーンツーリズムは、都市部の住民や外国人観光客に、地方の自然や農業・漁業、地元住民などと触れ合う機会を提供し、地方を活性化することを目的とした取り組みだ。
農家民泊は、グリーンツーリズムの提供に加え、農林漁家自らが旅行客を宿泊させ、地域食材を用いた料理を楽しんでもらったり、体験メニューを提供したりする宿泊業を意味する。

農泊とは、グリーンツーリズムや農家民泊をさらに発展させた概念で、旅行・観光業者と連携し、自然体験や農業・漁業体験を観光のコンテンツとしてビジネス化させていく取り組みと言える。

従来のグリーンツーリズムでは、農業体験などを提供する農家が、無償に近い形で協力することも多かったが、農泊ではそうした農業体験もしっかり収益化することに重点が置かれている。また、農泊では、必ずしも農家が自宅に観光客を泊める必要はなく、宿泊は地域の旅館や民宿などに担ってもらい、農家は農業体験など観光メニューを提供する役割に徹することができる。この点が農家民泊との大きな違いだ。

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農業体験

手作業による田植えを都市住民が体験

農家にとってのメリット

観光業者や宿泊業者などと連携して、地域ぐるみで取り組むのが農泊である。
地域一体で行う観光事業といってもいいが、農家にとってもさまざまなメリットがある。

新たな収入源

フルーツ狩り、田植え体験などの農業体験や、農家民泊を提供することで、直接的な収入源の一つとなる。栽培や収穫といった、農家にとっては当たり前の生活でも、都市住民や外国人観光客にとっては貴重な体験として対価を支払う価値を感じてもらえる。

販路拡大

農泊は都市部の消費者を地方の農村地域に向かわせる取り組みだ。観光目的で来た旅行者が農産物の定期的な購買客となったり、新たな取引先につながったりするチャンスを秘めている。

プロモーション効果

観光コンテンツは情報誌やWEBメディアなどで取り上げられやすく、地域の農産物や加工製品などの効果的なプロモーションにつながる。その地域の農業に興味を持つ人が増え、担い手として就農する人が出てくる可能性もある。

ネットワークの構築

農泊は、基本的に地域内外の観光、宿泊、飲食、物産などさまざまな業種の事業者が一体となって取り組むものである。本来であれば関わる機会のない企業などとのつながりができ、販路拡大や新規事業に発展することもある。

農泊メニューの代表例

農泊は、自然や農林漁業などの地域資源を観光メニュー化することが目的である。
農家が取り組める農泊メニューの代表例としては次のようなものがある。

農業体験

田植え・稲刈り体験、フルーツ狩り、出荷作業体験など

伝統文化の体験

伝統食の手作り体験、わら細工や染物などの手仕事、工芸品づくりなど

土産品・メニュー開発

お土産品としての地元農産物の加工品開発、伝統食の飲食店メニュー化、農家レストランの開業など

都市部でのイベント出展

観光旅行のPR活動を目的とした、都市部でのイベントやマルシェなどへの出展など

これらの取り組みはあくまで一例であり、幅広い選択肢が考えられる。

ただし、農林水産省の補助金「農山漁村振興交付金(農泊推進対策)」を活用する場合は、農泊の趣旨に沿った内容でなければならない。

例えば、地元農産物を活用した商品開発は、お土産品や飲食店メニューとして観光客に向けた取り組みである必要がある。いわゆる6次産業化のような、単純に加工して販売するための商品開発は、取り組みの中身が同じであっても農泊の目的とは異なるため、補助の対象とはならない可能性がある。

あくまでも農泊は観光事業であることを意識しておきたい。

おすすめは日常を切り取った体験メニュー

それでは、農家はどういった事業に取り組めばよいのか。米田さんは「日常を切り取ってできる体験メニュー」をおすすめしている。

「私がコンサルタントとして入ったある地域では、収穫体験や選別・出荷作業の体験メニューを作りました。都会の多くの人は、農産物などがスーパーで袋詰めになっている状態しか知りません。農産物を商品化する工程で、生産者がどれだけの思いを込めているか、一緒に作業をしながら直接話を聞けるだけで、貴重な体験となるんです。農家さんにとっては日常のことでも、都会や海外の人にとっては非日常ですから」

漁家民宿での魚さばき体験

河辺の未来を考える会(愛媛県大洲市河辺町)による漁家民宿での魚さばき体験(米田さん提供)

しかし、自分たちの日常にそれだけの価値があると気づくのは難しいのではないだろうか。

「確かに、本人にとっては当たり前のことなので、『お金なんてもらわなくていい』と農家さんはよく言います。そこで、観光業者が取り組みに参加することが重要なんです。農家さんにとって当たり前のことを、観光メニュー化して販売することができるのが観光業者です」(米田さん)

日常的に行っていることであれば、取り組みやすく、大きな初期投資も必要ない。無理なく行うことが、取り組みを長続きさせる秘訣(ひけつ)だと、米田さんは言う。

週一営業でも年間4000人が来訪。農家が中心となった農泊の事例

米田さんがコンサルタントとして関わった地域で行われている、農家が中心となった取り組み「企業組合 遊子川(ゆすかわ)ザ・リコピンズ」の事例を紹介する。

「限界集落」で地域女性グループが活躍「ザ・リコピンズ」

愛媛県西予市の遊子川地域は、人口300人弱のいわゆる限界集落。人口流出や高齢化などに伴うさまざまな地域課題が山積しており、地域づくりについての話し合いが行われていた。

そんな中から生まれたのが、地域の女性グループによる遊子川特産品開発チーム。遊子川の主力作物である夏秋トマトを用いた加工品開発や、農家レストランの開業などに取り組み、2016年には「企業組合 遊子川ザ・リコピンズ」として法人化した。農家レストランを題材とした映画「食堂ゆすかわ」を制作し、全国で上映会を実施するなどPR活動を行って、「限界集落の名物食堂」として知名度を上げていった。毎週水曜と毎月第4日曜だけの営業にもかかわらず、年間4000人以上が訪れるまでになっている。

2019年度のリコピンズの売り上げは1000万円以上で、20人ほどの地域女性を雇用している(パートアルバイト含む)。取り組み開始後、同地域に移住してトマト農家になった人も3人現れた。

リコピンズ

企業組合ザ・リコピンズのメンバー(引用:ザ・リコピンズHP

農林水産省が農泊推進事業を開始する前からの取り組みであるが、地域の生産者が協力して加工品を作ったり、農家レストランを運営したりして観光客を呼び込めるようになり、結果、農家の収入アップやトマトの作付面積の拡大などにつながった好事例と言える。

補助金を活用しよう

農泊に取り組みたい地域は、農林水産省の補助制度「農山漁村振興交付金」を活用できる可能性がある。ソフト事業が中心ではあるが、補助率が定額(10割)であるため、自主財源がなく厳しいという地域でも手を挙げやすい。
農山漁村振興交付金には五つの事業があるが、本記事で主として解説している内容は「農泊推進対策」に当たる。
基本要項は以下の通りである。

事業名
農泊推進事業

実施主体
地域協議会、または農業協同組合やNPO法人等の団体

交付率
定額(1年目、2年目ともに上限500万円)

事業期間
2年

支援内容
農泊をビジネスとして実施できる体制の構築、観光コンテンツの磨き上げ等に要する経費
(ワークショップの開催、地域協議会の設立・運営、地域資源を活用した体験プログラム・食事メニューの開発、情報発信・プロモーション、インバウンド対応のための環境整備(Wi-Fi、キャッシュレス、多言語対応 等))

収益化を見据えた事業計画づくりのために

農泊に限らないが、地域振興事業ではコンサルタントと伴走して進めていくケースが多い。特に地域ぐるみでの取り組みとなる農泊では、地域内での合意形成や、収益化をしっかり見据えた事業計画、持続可能なビジネスにするための仕組み・仕掛けなど、専門家の協力がなければ難しい部分が多いと米田さんは強調する。

しかし、専門家にもさまざまなタイプがいて、取り組みを成功させるにはコンサルタント選びも重要なポイントとなる。

コンサルタント選びのポイント

「地域の人に寄り添ってくれるコンサルタント」が米田さんの考える理想の専門家像だ。
農泊のような地域振興事業は、地元の人たちが担い手となって進めていかなければならない。

だが、コンサルタントの中には、自分のやらせたい事業プランを提案し、地元の人たちがそれに従う形で進んでしまうことが少なからずある。そういうプランは、もともとその地域にはなかった商品やサービスを無理に開発したり、地域の実情にそぐわない進め方だったりすることが多く、結果として長続きしないという。

コンサルタントに入ってもらう際には、国の専門家派遣事業を活用するといいだろう。国に認められている専門家かどうかは重要な判断基準となるし、あらかじめどのような人物なのかを知ることもできる。

農泊専門家派遣事業

JTBが運営する農泊専門家派遣・農泊サポート事業公式サイト(画像提供:JTB

コンサルタントは縁の下の力持ちであって、主役は地域の人たちであるという考えから、メディアの取材はできるだけ受けないようにしていたという米田さん。「『この土地に生まれてよかった』『自分たちの故郷を自分たちで守れている』。そんな愛着と責任感を持ってもらえるように、取り組みを支援してきました。その地域の皆さんがやりたいことをやって笑顔になれるように、陰でサポートするのがコンサルタントの仕事だと思っています」。

農泊は、地域が抱える課題を、自分たちで解決するために行うものといっていいだろう。
農泊の重要なポイントとなるのが地域の連携だ。地域が衰退すれば、結果的に自分たちの農業経営にも影響が出てしまう。自分たちの生活を守るためにも、同じ問題意識を持つ同業種・他業種の仲間と協力して、連携事業に取り組んでみてはいかがだろうか。

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