コロナ禍が印象付けた待ったなしの国産化
コロナ禍によるコンテナ船の滞留といった輸送の混乱、ロックダウンや感染拡大による食品工場や屠畜場の一時閉鎖、依然として続く円安……。2020年以降、食料の輸入に影を落とす事態が相次いで起こった。
「加工・業務用の原料を国産野菜にしていこうという流れを作ったのが、中国です」。こう解説するのは、青果卸・株式会社彩喜(埼玉県川口市)の代表取締役社長である木村幸雄(きむら・ゆきお)さんだ。木村さんは、野菜流通カット協議会という業界団体の会長でもあり、加工・業務用野菜の生産振興や流通の効率化、安全性と品質の確保・向上、消費の拡大などを目指して活動している。
中国が原料を国産にする流れを作ったとは、いったいどういうことか。異変が起きたのは、2022年4月だった。
「『むきタマネギ』の製造工場が集中する中国・山東省の街が、新型コロナの感染拡大でロックダウンしたんです。国内で流通するむきタマネギの90~95%くらいが中国産という状況なのに、3週間ほど、ごく少量しか輸入できなくなった。それで、価格が倍くらいまで高騰しました」
記憶に新しいタマネギの価格高騰
多くの消費者にとっては聞きなれないだろう「むきタマネギ」だが、その輸入が止まったことで、国内のタマネギ価格は暴騰した。実は、野菜のうち、生鮮での輸入量が最も多いのがタマネギ。国内の流通量の2割に当たる28万トンが輸入されていて、その9割を中国に頼る(2019年時点)。
なかでも加工・業務用に好まれるのが、皮をむく手間が省け、ゴミが出ず、歩留まりがいい「むきタマネギ」。根と茎を切り落とし皮をむいて可食部だけにしたもので、食品製造業や飲食店で広く使われる。国産の供給量は少なく、統計データはないものの、木村さんが指摘するように中国産がほとんどを占めるとみられる。
中国からの輸入が止まったうえ、国内最大の産地・北海道が天候不順で不作になり、タマネギの国内流通量は急減した。北海道産の価格は、東京都中央卸売市場の卸売価格で平年はキロ100円前後だったが、4月末に400円近くまで値上がりした。青果流通に40年以上携わる木村さんは、「北海道産があそこまで高くなったのは初めて」と振り返る。
実需者が輸入に頼るリスクを認識も生産現場の反応鈍く
「輸入に伴うリスクは、これから下がることはなく、背負っていかなければならないのだと痛感したんです。加えて、たとえば北海道のホクレンでは国内でむきタマネギの契約生産をしていますが、近い将来、中国産とそんなに変わらない価格になるかもしれないという情勢になってきました」と、木村さんは見る。
中国は今後も経済成長を続けるはずで、同国における人件費が下がるとは考えにくい。日中の為替レートは、短期的な上がり下がりはあるものの、長期的に見ると円安・元高の傾向にある。しかも、ロックダウンによる感染拡大の封じ込めを図った「ゼロコロナ」政策や、その急な緩和が混乱を招くなど、安定供給に疑問符がつく。それだけに実需者は、中国から輸入を続けるリスクを考え直すようになっている。
ところが、こうした実需側の変化が「国内の生産現場に伝わっていない」と木村さんは不満顔だ。「自分の周りだけ見るんじゃなくて、国内の市場がどう動いているかを見ないとダメ。なかでもタマネギやカボチャといった輸入が多い野菜は、海外の市場まで見ないとダメですよ」
業界関係者の集まりや、生産者や生産組織との交流の場があると、口を酸っぱくしてこう説いている。
冷凍食品会社と生産、流通を橋渡し
実需側から国産化を望む声が出てきたことは、日本の農業にとって喜ばしいことだ。木村さんは「コロナ、ウクライナ危機、円安の三つが重なった今の社会環境は、逆にいいチャンス。なかでも消費の伸びる冷凍野菜は、原料の国産化に冷凍食品会社も含めて本気で向き合う良いチャンスを迎えています」と言い切る。
しかし、残念ながら国内では、中国産ほど大量で質のそろった冷凍野菜を安定した価格で調達することが難しい。「15年ほど前まで国内にそこそこあった」(木村さん)冷凍野菜の製造工場は、食品会社が円高や人件費の高さなどを理由に海外から調達するようになったことで、数を減らしてしまった。冷凍野菜の供給拡大は、国内最大の農業組織であるJAグループも検討してきたが、順調には進んでいないという。
木村さんは、生産者側が実需者との接点を十分に持てなかったために、供給体制を築けなかったと指摘する。そこで、協議会の会員である生産者や産地、加工業者や流通業者と、冷凍食品会社を結びつける活動をしている。
「いずれ、どんな仕様の製品をどのくらいの量使うかという話を冷凍食品会社と詰めていかないといけない。その需要に対して、現状の生産体制では供給が無理となると思います。しかし、今までにない発想で向き合えば、供給が可能になるのではないかと思います」
カットしたブロッコリーで新たな需要を創出
その一例として挙げるのが、作付面積も輸入量も右肩上がりを続けるブロッコリーだ。栄養価が高く、緑色が鮮やかで見栄えがする「緑黄色野菜の優等生」で、人気の高さから全国的に生産されるようになってきた。
だが、このままいくと過剰生産で価格が下落する可能性もあると木村さんはみている。そこで、可食部の大部分を占める花蕾(からい)を丸のまま小売店で売るという国産ブロッコリーの既存の売り方に加え、花蕾をカット、洗浄して袋詰めしたものや冷凍したものを増やそうとしている。
通常、花蕾は直径12センチほどと相場が決まっているが、カットして売るなら、より大型の品種も使える。直径20センチになる品種もあり、従来の12センチのものに比べて収量が格段に上がる。
「直径12センチのブロッコリーをとるのに、10アールに4000~4500株ほど定植し、通常1トンを収穫します。それが、20センチの大型サイズだと、3000株くらい定植し、3トンとれます。大きな変化が起きるんです」
反収が従来の実に3倍になるわけで、そうなれば、新たな消費拡大と、輸入していた部分の国産化が可能だと木村さんは見込む。収穫の仕方も、農家が包丁を持ち腰をかがめて一つずつ切り取っていく手収穫を、一部で収穫機に置き換えることで、大規模かつ効率的な栽培を可能にしたいという。収穫機はヤンマーが発売していて、ブロッコリーを引き抜いたうえで、花蕾の周りの葉と余計な茎を切り落とす。
ただし、収穫機を使うには生育をそろえる必要があり、現実には手収穫も残りそうだ。だが、同じ手収穫をするにしても、大型品種にすれば収穫回数がおよそ3分の1になるうえ、葉を切り落とす手間も省けると木村さんは話す。
直径12センチ前後で出荷するには、農家は収穫適期を逃さないために圃場に8~10回も収穫に入ることになる。花蕾の下の軸を10センチほど残して収穫し、周囲の葉を五カ所ほど切り落とす。その点、大型の品種は直径を神経質になってそろえる必要がないぶん、圃場に入るのが3回で済む。さらに、カットすることを前提としているので、軸を残さず花蕾の直下を切り落とすため、余計な葉を落とす必要はない。
「品種も、作り方も、販売の仕方も、すべて大きく変化させていく」。すでにある生鮮流通の必要量は確保しつつ、大規模化と機械化で増産できる分を冷凍の需要に振り向けていく。そんな未来図を思い描く。
「少子化と人口減少が進んでも、皆さんの食生活に必要な野菜は、輸入に頼らずに国産で賄えるんですよ。消費者が毎日食べる生鮮野菜に加えて、冷凍野菜や冷凍食品の原料も国産を選ぶというふうに意識して購買行動を変えてもらえれば、十分いけるはずです」
野菜流通カット協議会
http://www.vedica.jp/