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躍進続ける農家のせがれグループ 地産地消で稼ぐ秘訣とは

躍進続ける農家のせがれグループ 地産地消で稼ぐ秘訣とは

イタリア料理などで使われる珍しい野菜の地産地消に取り組む「さいたまヨーロッパ野菜研究会」(以下、ヨロ研)。野菜を供給するレストランを1200軒超にまで増やしましたが、コロナ禍を機に一般消費者への普及拡大にかじを切り、2022年12月には単月で過去最高の取引額を記録しました。形を変えながら成長し続けている秘訣(ひけつ)は何でしょうか。そこには将来を見越した視点と数多くの地道な挑戦がありました。ヨロ研のメンバーであり、作物の出荷団体である株式会社FENNEL社長の森田剛史(もりた・たけし)さんに聞きました。

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激減してしまった販路

「小さな壁は今までいくつもありました。けれど今回のコロナ禍が、最大の衝撃でしたね」
こう語るのは、ヨロ研の発足当初から参加し、FENNELの社長を務める森田さん。
「祖父や父の代は主にコマツナを作って市場に卸していました。ですが『量で勝負』の世界。家族経営の私としては将来に不安もありました。また、自分で一生懸命作ったものの値段を自分で決められないことに納得がいかず、できることを模索しているなかで、ヨロ研への参加を決めたのです」
森田さんが現在栽培するのは、主にチーマ・ディ・ラーパ(西洋ナバナ)や、花ズッキーニなどの野菜。コマツナも作っていますが、市場への出荷はやめて、自分で値段を決められる直売のみに絞っているそう。
なじみのない野菜の栽培には、特別な知識もなく苦労ばかり。販売やPRなどにも四苦八苦したそうです。しかし、コロナ禍の苦労は別次元のものでした。

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株式会社FENNEL社長・森田剛史さん

「ヨロ研はレストラン向けに珍しい野菜を作って、それを卸していました。ですから、飲食店どころか世の中までピタッと流れが止まったようになって、さすがに『どうしよう?』と思いましたね。もうタネをまいて栽培が始まっていましたから」
ヨロ研は生産者とレストラン運営を行う株式会社ノースコーポレーション、種苗会社のトキタ種苗株式会社、食料品卸会社などからなるグループで、栽培計画を共有しながら販売先を広げてきました。しかし、販路をレストランに集中していたことで、危機に直面してしまったのです。

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一般消費者へのかじ切り

メンバーの強みを生かした販売戦略

幸いコロナ禍以前からつながりのあった、個人向けに食品の宅配や通信販売を行うオイシックス・ラ・大地に作物を卸せたことで、危機を脱しました。
これをきっかけに、ヨロ研は一般消費者への販売促進に重点を置くようかじを切ったのです。地元のスーパーマーケットでの販売の他、ビーツやバジルを使ったジェラートを開発して「ヨロ研カフェ」で販売したりしました。
なじみのない野菜を手に取ってもらえるよう、食べ方を伝える動画を作り、売り場のテレビモニターで流したりとメンバーそれぞれの強みを生かした細かい工夫もおこないました。

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加工品の開発

商品開発はジェラートだけにとどまりません。ヒット商品の一つが「さいたまヨーロッパ野菜を使った季節のミネストローネ」です。
生産者にとって、規格外の野菜の活用方法も一つの課題。市場出荷ではなくレストランに卸すとしても、一定の規準がないわけではありません。ヨロ研の生産者が栽培する野菜は希少なため、よく知られた野菜よりも値段は高め。そのため「規格外のB品なら使いますよ」と、値引きを期待される声もあったそうです。
「はじめから『B品』を求められることには抵抗がありました。やはりA品を買ってもらいたいというのが本音ですから。しかしそうはいってもB品は出ます。捨てるのももったいない」
そこで生まれたのが、規格外野菜を使ったミネストローネです。
さまざまな野菜で規格外品が出た際に、それぞれを加工して約500キロが集まった段階でスープとして調理し、レトルトパウチしています。調理に携わっているシェフは「“飲む”のではなく“食べる”。具だくさんで、イタリアの“本当”のミネストローネです」と話します。
売り出してみると、一般的な商品よりも値段は高いものの好評。ふるさと納税の返礼品にもなって、人気を博しています。

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ヒット商品「さいたまヨーロッパ野菜を使った季節のミネストローネ」

地産地消を継続するための戦略

巨大なマーケット「学校」に注目

さらにヨロ研が力を入れているのが学校との連携です。
さいたま市は公立小中学校162校全てが、各校の給食室で調理を行う自校方式の学校給食です。この市内162校、約10万人が同じ献立を食べるという「学校給食統一献立」の日に、ヨロ研は野菜を供給するなどしてきました。

他にも、ヨロ研が栽培する珍しい野菜をもっと身近に感じてもらうために、学校菜園で子供たちと一緒に野菜を育てる取り組みを行っています。
「植え方や畑づくりなどを、農家やタネ屋さん、シェフが授業で教え、育てたものは給食で食べてもらいます。なじみのない野菜ですし、先生方には『分からないことがあればどんどん電話してください』と話しています」
実際に先生からの電話を受けたり、授業がなくても経過観察に行ったりするそうです。
「楽ではありません(笑)。でも市内の学校給食は毎日約10万食が動く、いわば大きなマーケット。将来のお客様にもなり得ますし、逃がしてはいけない。さらに食文化を浸透させるには、やはり子供たちに食べてもらうことが一番良いと考えています」

さいたま市学校給食統一の献立。ヨロ研のカリフローレが提供された(ヨロ研公式Facebookより)

株式会社立ち上げへの思い

また、2021年には森田さんが中心となり、野菜の出荷をおこなう株式会社FENNELを設立しました。
もともとヨロ研の生産者法人としては、農事組合法人FENNELがありました。ただ農事組合法人の場合、理事一人一人の了解を得たうえでしか物事を決められません。コロナ禍で顔を合わせる機会がなくなり物事の進みが遅くなったため、新たに株式会社を設立したそうです。
「社長だからといって、私が強い決定権を持っているわけでありません。たまたま社長を務めているだけ。ですが、中核となる人だけで物事を決められるようになって早く動けるようになりました。農事組合法人だと、決定権も負担も平等にする必要がありますが、難しいこともあります。実務上、負担が偏った際に不満も生じかねません。そこで、株式会社にしてしまえば、堂々と私に対しても負担を押し付けられるというか(笑)。線引きできるようになって、良かったですよね」

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農事組合法人では制限があったものの、株式会社を作ったことで構成員ではない生産者の野菜も扱えるようになりました。その分、野菜の傷の程度や扱い方などを統一する必要があり、一定の規準作りが現在の課題です。10年間でヨロ研が築いた「さいたまヨーロッパ野菜」というブランドを維持することはたやすいことではありません。課題解決に向き合いながらも、森田さんは「新規就農者の作物の受け入れ窓口にもなれたらいいですよね」とFENNELの今後の活動に大きな可能性を感じています。

“顔”となる野菜と“足腰”となる野菜を分ける

コロナ禍という大きな壁を、一般消費者への販売に力を入れながら乗り越えてきたヨロ研、そしてFENNEL。今後はまたレストラン向けの出荷を増やしたいと考えています。それは、いわば車の両輪ともいえるでしょう。
「いろいろな野菜を扱っていますが、中でも売れているものにミニ白菜があります。ただこれはヨーロッパ野菜とは関係がないんですね。でも売上がいい。要するに、ヨーロッパ野菜が我々にとって“顔”となる野菜であれば、ちゃんと稼げる“足腰”となる野菜がある。珍しい野菜だけでは体力がもたない。同じように、一般消費者向けとレストラン向けと両方が大事だと思っています」

ブランドを維持していくための“顔”と“足腰”。一過性に終わらないブランド力の秘訣がそこにあります。

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取材を行ったカフェ「Caffe Giardino ~カフェ ジャルディーノ~」ではヨロ研の野菜を使った料理を楽しめる

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<取材協力>
さいたまヨーロッパ野菜研究会
株式会社FENNEL
Caffe Giardino ~カフェ ジャルディーノ~

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