「日本生まれのイタリア野菜」で市場を創る 種苗ビジネスの今

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「日本生まれのイタリア野菜」で市場を創る 種苗ビジネスの今

連載企画:農業経営のヒント

「日本生まれのイタリア野菜」で市場を創る 種苗ビジネスの今
最終更新日:2019年11月13日

農産物の競争力を左右するのは、生産者の腕だけではない。栽培技術がどれだけ高くても、品種が気候に合っていなければ、おいしい作物に育てるのは難しい。日本では珍しいイタリア野菜などで注目を集めるさいたまヨーロッパ野菜研究会も、栽培しているのは日本の気候に合うように改良された品種だ。その点で貢献したのが、種苗会社のトキタ種苗(さいたま市)だ。

さいたまヨーロッパ野菜研究会、誕生前史

海外に行くと、国内では見たことのない野菜や果物がたくさんあることに気づく。なじみのない農産物のおいしさに驚きながら、「この食材を日本で使えれば、ビジネスになるのではないか」と思ったりする。だがことはそう単純ではない。気候条件が違うと、作物は思うように育ってくれないからだ。
その難題を突破したのが、さいたまヨーロッパ野菜研究会(以下「ヨロ研」)だ。ヨロ研は農家とレストラン、食品卸、種苗会社がチームを組み、2013年に発足した。欧州の野菜を農家が作り、レストランがメニューに取り入れて売り上げを増やす。その活動にはじつは「前史」がある。
ヨロ研の発足から6年前。トキタ種苗がイタリアに現地法人を設立した。目的の一つは、日本特有の甘いミニトマトのタネをイタリアで販売することだった。ビジネスは期待通り軌道に乗ったが、同社のスタッフはそこで別のビジネスの芽をつかんだ。日本に無いさまざまな野菜と出会ったのだ。

イタリアの野菜売り場(写真提供:トキタ種苗)

ヨーロッパ野菜の栽培指導などを担当している福寿拓哉(ふくじゅ・たくや)さんは、そのときの驚きを「イタリア料理と言えば、ピザとパスタ。そんな事前のイメージが覆りました」と表現する。
「地元の野菜をふんだんに鍋に入れ、食感がなくなるくらい軟らかくなるまでじっくりゆでる。そのあと、地元で取れるオリーブオイルやニンニクを入れて炒め、塩でシンプルに味付け。家庭ではそんな調理の仕方で野菜が食べられています」
日本にない野菜をたっぷり使う現地料理を知ったことは、福寿さんたちにとって大きな刺激になった。人口も農家の数も減る日本で、ふつうのタネを売り続けることに限界を感じていたからだ。イタリアと日本の試験農場で、イタリアの品種を日本の気候と土壌に合うように改良する挑戦が始まった。
品種改良にメドがつき、日本でタネの販売が始まったのが2010年。レタスに似ていて赤紫色の「ラディッキオ」(一般名はチコリ)や、タマネギのような見た目で薄緑色の「フィノッキオ」(同フェンネル)など6種類を売り始めた。

トキタ種苗の福寿拓哉さん

最初は既存のルートで売ってみた。農家にタネを売る小売店や農協向けの販売だ。イタリア野菜の可能性を一部の小売店などが評価し、タネを農家に売ってくれた。では、農家が育てた野菜にどんな値段が付いたか。
福寿さんは、結果を簡略化して説明してくれた。「あるイタリア野菜が市場で100円くらいで売れると思っていたら、300円の値段が付いた。1週間後は100円に値下がり。もともと100円を想定していたのでそれでもいいと思っていたら、次の週には50円になっていた」。期待したほど売れなかったのだ。
やむを得ない結果だろう。いくらイタリアでふつうに使われている野菜でも、日本ではレストランも消費者も扱い方を知らない。最初はもの珍しさで買ってくれても、そのままでは需要は拡大しない。たいした値段が付かないことを知ると、農家はイタリア野菜を作ることに及び腰になっていった。

農家に栽培をアドバイス

「とてもいいイタリア野菜のタネができた。農協や小売店がどんどんタネを売ってくれて、イタリア野菜が市場に流れ、世の中に広がっていく。そんなことを期待していました」。福寿さんは当時の心境をこうふり返る。
そうして足踏み状態が3年ほど続いたころ、さいたま市の外郭団体、さいたま市産業創造財団の福田裕子(ふくだ・ゆうこ)さんからトキタ種苗に連絡が入った。「イタリア野菜で地域を盛り上げようと思ってます」
2つの課題がここでうまく結びついた。地元の中小企業支援の一環として飲食店の活性化に取り組んでいた福田さんは、「地元では作られていないイタリア野菜が欲しい」という要望を受けていた。トキタ種苗はイタリア野菜の拡販を目指したが、思うように需要を掘りおこせていなかった。
地元産のイタリア野菜でレストランを盛り上げるという構想は、日本向けに改良したイタリア野菜のタネという心強い味方を得た。そのタネは営農の活路を模索していた若手農家たちの手に渡った。ヨロ研の誕生だ。

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さいたま市産業創造財団の福田裕子さん

トキタ種苗の貢献は単にタネを提供したことにとどまらない。農家たちは栽培のプロなので、知らない野菜でもとりあえずタネをまいて育てることはできた。だが、作物がどんな形に実り、どんな大きさになったら出荷すべきなのかはわからない。写真と実物を見比べても、確証を持てなかった。
そこで、自ら品種改良に取り組んだトキタ種苗のスタッフのアドバイスが、農家たちにとって大きなサポートになった。福寿さんをはじめ複数のスタッフが何度も畑に足を運び、農家と話し合いながら栽培を軌道に乗せた。
これはトキタ種苗にとっても貴重な体験になった。これまでは農協や小売店に売るまでが仕事だった。だがヨロ研の農家と接することで、「この野菜よく売れてるよ」「この野菜のここを改良してほしい」といった声をじかに聞くことができた。タネを農家に売るのはこれまで通り小売店などの仕事だが、農家の生の意見は品種を開発するうえで重要な情報になった。

レタスに似ていて赤紫色のラディッキオ(写真提供:トキタ種苗)

イタリア野菜をふつうの野菜に

ここから先はヨロ研を離れ、トキタ種苗の戦略の話になる。現在、扱うイタリア野菜の種類は50近くまで増えた。ヨロ研が注目を集めたことを受けてタネの需要も増え、農家とのつながりは北海道から沖縄まで広がった。
目指すのは、イタリア野菜を日本人にとってふつうの野菜にすることだ。「珍しいから」という理由で作り始めた農家たちは、トキタ種苗が目標を達成することで、自らの競争力が弱まると心配するかもしれない。
だがそれはずっと先のことだろう。当面はそれよりもイタリア野菜の知名度が高まることで、日本人の食生活に浸透することのメリットのほうが大きい。そしてその結果、日本人が野菜を食べる量が今よりも増えることが、種苗メーカーと農家の双方にとってハッピーなゴールになる。

カリーノケールのサラダ(写真提供:トキタ種苗)


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